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和書>小説・ノンフィクション>恋愛小説>ロマンス小説

解説
マンハッタンで働くエマは申し分のない恋人が二人もいて、バレンタインデーのスケジュールもぎっしりだ。なのにアパートの上の階に越してきた謎の男性にすっかり夢中になっている。黒ずくめで、影のように音もなく出没するフランス人。エマが名を秘して今年のカードとチョコレートを彼に贈ってしまったことから、息もつけないほど恐ろしい事態に。
抄録
明け方近くで、雪景色の向こうから白々と夜が明けて、ほんのりとした光が、闇の部分に広がろうとしている。雪は今なお激しく降り続けて、すべてを覆い尽くしていた。エマは履いていたはずの靴をリュックに取られてしまっていた。錠の下りた窓から思い切って飛び下りたとしても、きっと遠くまでは逃げられないだろう。
エマが部屋に戻ってくると、リュックは椅子のそばに立ち、いかにも監視していると言わんばかりに手にした研ぎすまされた小型ナイフをちらつかせた。エマはぴたりと足を止め、ナイフとリュックを警戒するように交互に見やった。
「もう一度ベッドに縛ってもいいが、君は椅子のほうがいいんじゃないのかい?」リュックはものやわらかに言ったが、片手にはさっきの絹のネクタイを持っている。
「どうしても縛らなくちゃだめ?」エマは言った。「わたしが逃げようとしたって、あなたは簡単にわたしをつかまえられるわ。第一、靴がなくなってしまったんだから」
そのときエマは、ふいに肌に風が当たるのを感じた。気がつくとブラウスのボタンがウエストまではずれてしまっている。彼女はあわててブラウスの前をかき寄せた。わたしったら、こんなときに、いったいどうしてよりによって青いレースのブラジャーなんかつけているのかしら?
エマは、彼の方を見ないようにして、ぎこちない手つきでボタンをかけ始めた。
「無駄なことはよすんだ。どっちみちまたはずすんだから」リュックは言った。
その言葉には耳も貸さず、エマは熱に浮かされたように必死に小さなパールのボタンをかけていった。
「座るんだ!」突然、リュックが怒鳴った。
言われるままにエマは座った。ブラウスのボタンは、今までかけたことがないぐらい襟元まではめられている。スカートも太もものあたりまでずり上がっていたが、とにかくパンティストッキングだけははいている。とはいっても周囲が明るくなるにつれて、破けて伝線していることに気づいたが、少なくともはいていることに変わりはない。エマは挑戦的な目でリュックを見上げた。
「手を背中に回すんだ」
「なぜ?」
「質問は俺がする。いいか、誘拐したのはこっちなんだぞ」
「わたしがそれを忘れるともでも思って?」エマは小声で言った。
「俺が君なら、俺を怒らせる前に、おとなしく言うことを聞くがね」
「だって、わたし……」
「手を縛られたほうが、逆に体が安定してふらつかなくなるさ。ふとしたはずみで君を傷つけたくはないから」
“はずみ”という言葉が、やけに不気味に響く。エマは唇を噛みながら、おずおずと両手を椅子の後ろに回した。
リュックは手慣れた手つきで、彼女の手首をネクタイで縛った。きつくはなかったが、手をすべらせてほどくことはできなかった。するとリュックは一瞬、あとずさって画家が題材を眺めるように不躾な視線をエマに向けた。灰色のくすんだその瞳はセクシーで、早朝の薄暗い光の中では、何を考えているのか読み取ることもできない。
「で、君は誰の手先なのか教えてもらおう」リュックはなめらかな口調で言った。
「だから言ったでしょう。誰の手先でもないって。ただの小さな法律事務所で働いているのよ。税金関係を専門にして……」ふいに声がとぎれる。近づいてくるリュックに、びくっとして息をのんだのだ。そして、いきなりナイフがあごの下に来たかと思うと、同時にパールのボタンが床に弾んで転がっていった。
「嘘をつくんじゃない。俺を追っているのは誰だ?」
「誰もいないわ」
またもナイフが下りて、別のボタンがはじけ飛んだ。「俺に花を贈っただろう? 花芯がピンク色がかった白いばらだ。どうしてだ?」
「ちょっとした冗談だったのよ」
「冗談とは思えない」
そのけんもほろろの返答にエマはいら立ちを隠そうとして、とっさに目をつぶった。「もうすぐバレンタインデーだったし、あなたのひそかな崇拝者になるのも楽しいんじゃないかと思っただけよ。今までにそういう話を聞いたことない? 誰かが匿名の贈り物やラブレターを贈ったりするっていうのを?」
「ラブレターなんて受け取っていない」
「バレンタインのカードよ。ただのたわいもない、いたずらよ。わたしったら、ばかみたいにあなたのことを……」と、言いかけてふと口をつぐんだ。それを口にすることはできない。形のいい大きな手で小型ナイフを突きつけて、目の前にのしかかってくる相手に向かって……。
「俺のことをなんだって?」新たに胸元のボタンが飛び散る。エマのシルクのブラウスの前がぱらりとはだけた。
「いい加減にして、もう。これ以上、我慢できないわ」エマは噛みつかんばかりに言った。
「こっちはとうに我慢の限界さ。さあ、質問に答えるんだ。俺のことを……なんだって?」
「あなたを……魅力的だと思ったのよ……ロマンチックで、謎めいていて。だからあなたにプレゼントを贈ったら楽しいかなって思ったのよ。でも、結局、あなたはわたしからだってことが、わからなかったんでしょう? だから不思議に思って、興味をかき立てられたんだわ」
*この続きは製品版でお楽しみください。
エマが部屋に戻ってくると、リュックは椅子のそばに立ち、いかにも監視していると言わんばかりに手にした研ぎすまされた小型ナイフをちらつかせた。エマはぴたりと足を止め、ナイフとリュックを警戒するように交互に見やった。
「もう一度ベッドに縛ってもいいが、君は椅子のほうがいいんじゃないのかい?」リュックはものやわらかに言ったが、片手にはさっきの絹のネクタイを持っている。
「どうしても縛らなくちゃだめ?」エマは言った。「わたしが逃げようとしたって、あなたは簡単にわたしをつかまえられるわ。第一、靴がなくなってしまったんだから」
そのときエマは、ふいに肌に風が当たるのを感じた。気がつくとブラウスのボタンがウエストまではずれてしまっている。彼女はあわててブラウスの前をかき寄せた。わたしったら、こんなときに、いったいどうしてよりによって青いレースのブラジャーなんかつけているのかしら?
エマは、彼の方を見ないようにして、ぎこちない手つきでボタンをかけ始めた。
「無駄なことはよすんだ。どっちみちまたはずすんだから」リュックは言った。
その言葉には耳も貸さず、エマは熱に浮かされたように必死に小さなパールのボタンをかけていった。
「座るんだ!」突然、リュックが怒鳴った。
言われるままにエマは座った。ブラウスのボタンは、今までかけたことがないぐらい襟元まではめられている。スカートも太もものあたりまでずり上がっていたが、とにかくパンティストッキングだけははいている。とはいっても周囲が明るくなるにつれて、破けて伝線していることに気づいたが、少なくともはいていることに変わりはない。エマは挑戦的な目でリュックを見上げた。
「手を背中に回すんだ」
「なぜ?」
「質問は俺がする。いいか、誘拐したのはこっちなんだぞ」
「わたしがそれを忘れるともでも思って?」エマは小声で言った。
「俺が君なら、俺を怒らせる前に、おとなしく言うことを聞くがね」
「だって、わたし……」
「手を縛られたほうが、逆に体が安定してふらつかなくなるさ。ふとしたはずみで君を傷つけたくはないから」
“はずみ”という言葉が、やけに不気味に響く。エマは唇を噛みながら、おずおずと両手を椅子の後ろに回した。
リュックは手慣れた手つきで、彼女の手首をネクタイで縛った。きつくはなかったが、手をすべらせてほどくことはできなかった。するとリュックは一瞬、あとずさって画家が題材を眺めるように不躾な視線をエマに向けた。灰色のくすんだその瞳はセクシーで、早朝の薄暗い光の中では、何を考えているのか読み取ることもできない。
「で、君は誰の手先なのか教えてもらおう」リュックはなめらかな口調で言った。
「だから言ったでしょう。誰の手先でもないって。ただの小さな法律事務所で働いているのよ。税金関係を専門にして……」ふいに声がとぎれる。近づいてくるリュックに、びくっとして息をのんだのだ。そして、いきなりナイフがあごの下に来たかと思うと、同時にパールのボタンが床に弾んで転がっていった。
「嘘をつくんじゃない。俺を追っているのは誰だ?」
「誰もいないわ」
またもナイフが下りて、別のボタンがはじけ飛んだ。「俺に花を贈っただろう? 花芯がピンク色がかった白いばらだ。どうしてだ?」
「ちょっとした冗談だったのよ」
「冗談とは思えない」
そのけんもほろろの返答にエマはいら立ちを隠そうとして、とっさに目をつぶった。「もうすぐバレンタインデーだったし、あなたのひそかな崇拝者になるのも楽しいんじゃないかと思っただけよ。今までにそういう話を聞いたことない? 誰かが匿名の贈り物やラブレターを贈ったりするっていうのを?」
「ラブレターなんて受け取っていない」
「バレンタインのカードよ。ただのたわいもない、いたずらよ。わたしったら、ばかみたいにあなたのことを……」と、言いかけてふと口をつぐんだ。それを口にすることはできない。形のいい大きな手で小型ナイフを突きつけて、目の前にのしかかってくる相手に向かって……。
「俺のことをなんだって?」新たに胸元のボタンが飛び散る。エマのシルクのブラウスの前がぱらりとはだけた。
「いい加減にして、もう。これ以上、我慢できないわ」エマは噛みつかんばかりに言った。
「こっちはとうに我慢の限界さ。さあ、質問に答えるんだ。俺のことを……なんだって?」
「あなたを……魅力的だと思ったのよ……ロマンチックで、謎めいていて。だからあなたにプレゼントを贈ったら楽しいかなって思ったのよ。でも、結局、あなたはわたしからだってことが、わからなかったんでしょう? だから不思議に思って、興味をかき立てられたんだわ」
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