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女神におまかせ!

女神におまかせ!


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:300pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆1
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解説

 マリクが経営するマタニティショップ<女神さまにおまかせ>は、いつも十代の妊婦たちでいっぱいだ。よき相談役の彼女が作るファンキーなマタニティドレスは少女たちに大人気。その店を、アルマーニのスーツに身を包んだ男性が訪れて、突飛な服装のマリクと向き合った。熱い火花はトラブルの発生のしるし? それとも、ミスマッチな恋の始まりか?

抄録

 ウィルは疑わしげな目つきで出されたものを見おろした。「ピーナッツバターなんて食べるのは二十年ぶりだ」
「じゃあ、あなたは二十年も、このすばらしい自然の恵みから遠ざかっていたわけね」マリクは自分もテーブルについた。「ミルクを飲んで」
 ウィルはおとなしく食べはじめた。やがて、その顔に血の気が戻りはじめると、マリクはほっとして胸を撫でおろした。彼の目はもうそれほどぎすぎすして見えない。その代わり、猫をかぶっているようにも、何やらおもしろがっているようにも見えた。自分のどこがそんなにおもしろいのか、マリクには見当もつかなかった。軽はずみな舌か、この赤紫色の髪か、育ちすぎの体か、それとも全然別のことか。とにかく、どうも気に入らない。
「あなた、何を見ているの?」マリクはきいた。だが、答えはわかりきっている。彼が眺めているのは、彼女の顔だ。
「きみはそばにいる者全員の世話を焼かなきゃ気がすまないたちなんだろう」ウィルはそう言うと、ミルクを一気に飲み干して身震いした。「自分の子どもはいるのかい?」
「いいえ」
「どうして産まない?」
「いまのところ、夫がいないから。わたしは根が古風な人間なの。子どもには父親と母親がいたほうがいいと思っているわ」
 マリクのふいをついてウィルが手をのばし、彼女の短い髪をかきまわした。「根が古風だって?」ウィルはつぶやいた。その手は髪の手ざわりを楽しむように、心持ち長く置かれていた。「きみの髪は硬くてごわごわしているのかと思ったよ」彼はにっこりとほほ笑んだ。「きみの性格みたいにね」
 この人、ほんとにいい男だわ。マリクはしぶしぶながら認めた。わたしに思いきり出端をくじかれても、もうこっちのやり方をのみこんで、互角にわたり合っている。
 マリクは表情を変えずに彼の手の届かない位置まで頭をそらし、そっけなく言った。「もう具合はいいようね。ランバート出版はメッセンジャー・サービスを使っているんでしょう。誰かに妹さんの写真とサイズをここまで持ってこさせてくださらない? それを見て、わたしがデザインを決めるわ。それにしても日がないわね。バレンタインまであと二週間足らずよ」
「むちゃなたのみだってことはわかってるんだが」ウィルはちょっと悲しげな口調で言った。
 マリクは彼の魅力に惑わされたくなかった。「そのとおりね。でも、ランバート出版のためなら最善をつくしましょう」
「これはランバート出版の依頼じゃない。個人的なたのみなんだ」
 その場合、マリクの返事は決まっていた。だったら、どこか別の店をさがして。彼女はそう言おうとして口を開けたが、出てきたのはちがう言葉だった。「いいわ」その口調が不機嫌そうに聞こえたのが、せめてものなぐさめだ。だが、そんなささやかな満足感も、彼がにっこりすると吹き飛んでしまった。男はこんなふうに惚れ惚れするほど美しい笑顔を浮かべるべきじゃないわ。とくに、スーツを着たウィル・ランバートみたいな男は。彼には、どこかにきっと小枝のようにほっそりした小柄な恋人がいるのだろう。彼はその恋人に、実は今日やたらと機嫌の悪い大女にでくわしてね、なんて話をして、ふたりでいっしょに笑うのだ。やっぱり彼に、乗りつけたレクサスでミシガン湖へ飛びこんでおしまい、と言ってやればよかった。
 ウィルを玄関へ案内しながら、マリクは自分の心臓が奇妙な具合に反応しているのに気がついた。たぶん、ストレスのせいだ。マリクはそう判断した。ウィル・ランバートは気疲れのする商談相手だし、今日はもう十分すぎるほどそんな相手と向き合っていたのだ。「ターニャ! ミスター・ランバートをお見送りして」そう店の奥に呼びかけて、マリクはキッチンへ戻ろうと背を向けた。無性に彼の前から逃げ出したかった。そのとき、ウィルが手をのばして彼女の手をつかんだ。力ずくで行かせまいとする握り方ではなかった。彼の手はひんやりとして力強く、たこやまめで皮膚が驚くほど固くなっていた。ふいをつかれたマリクは、その手をふりほどくことも忘れていた。
 代わりに、マリクは彼の手を握り返した。きびきびとしたビジネスライクな握手だった。そして、そのまま手を引いた。ウィルは彼女の手を放さざるをえなかったし、言おうとした言葉を口にすることもできなかった。彼は何を言うつもりだったのだろう。マリクは頭の隅で考えたが、知らないほうがきっと身のためだと思い直した。
「わざわざおいでくださって、ありがとうございました、ミスター・ランバート」マリクは店主としての威厳をこめて言った。「必要なデータはできるだけ早くこちらに送ってください。あなたをがっかりさせたくありませんから」
 ウィルは彼女をじっと見おろした。「そんな心配は金輪際無用だと思うが」彼は静かに言った。
 マリクが言い返す言葉を考えつく前に、ウィルは店から出ていった。彼女は茫然としてその後ろ姿を見送った。温かく、力強い彼の手の感触が、まだ肌に残っていた。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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