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東京伝説 うごめく街の怖い話

東京伝説 うごめく街の怖い話


発行: 竹書房
シリーズ: 東京伝説
価格:700pt
形式:MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆4
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著者プロフィール

 平山 夢明(ひらやま ゆめあき)
 1961〜
 神奈川県生まれ。映画、ビデオの批評・製作からCFの企画、インタビュー、ルポ、自動販売機の営業、コンビにの店長と、様々な職歴を重ね、現在は生理的に嫌な話を書かせたら日本で三指に入る小説家にして、日本で一番陽気な怪談コレクター。近著に『「超」怖い話A』等がある。血液型はB型。蠍座。

解説

 別れた女の実家に供花や卒塔婆を投げ込んでは墓場にする男、腐った赤子を抱いてヒッチハイクする女、ゴキブリを自由に操ることのできる不思議な男……。「超」怖いシリーズの鬼才、平山夢明がじかに拾い集めた、ぬめるような怖さを湛えた本格怪奇譚全42話。幽霊や妖怪など一切出てこない。これはすべて現実の名のもとに起きた恐怖、極限のリアルホラーである。

目次

素振り
リモコン
地下病院
家庭教師
歌舞伎町の笛吹き男
東京プリティ・ウーマン
ホームレスの人
ネックレス
親切
エンスト
宅配のこと
水道屋
山手線
祟≪たた≫り場
サイコごっこ
ぬいぐるみ
コンビニ
タクシー
病院まで
終末ラーメン
取り扱い注意
圏外
婚約者
代償
合い鍵
アンケート
パクられ屋
廃墟

ホテル
髪二題
立ち読み
野次馬
夜道
タトゥー
ヒメバン
内職
野外
事故
食べてはいけない
ビー玉
フラスコ

抄録

山手線


「なんか変な感じがしていたんですよね」
 山中さんはパートへ向かう車内で見た不思議な親子の話を始めた。
 七十代と三十代の親子。ふたりは車両の連結部の優先席に並んで座っていた。
「もう、おばあさんって言ってもいいぐらいの年の母親と息子なんだけど」
 二月ということもあって厚着なのだが母親は眠っているように見えた。息子はその母親の耳元に口を寄せ、ずっと何事かを語りかけているのだが、はっきりとは聞こえなかった。
 比較的、混んでいたので周囲にも乗客はいたのだが、自分以外に誰も彼らに注意を払う者はいないようだった。
 夕方、入院している友達のお見舞いに行くために山中さんはパートを早めに切り上げると、また電車に乗り込んだ。
 あの母子がいた。
「それが同じ席に座っていたんです。たぶん車輌も同じ」
 まるで彼らだけ時間が経っていないかのように感じたという。
 やはり母親は眠っていて息子はその耳元に口をつけるようにして何事かを囁 ≪ささや≫いていた。
 妙な好奇心がわいて彼女はふたりの前に素知らぬ顔をして立った。

 母親はあれからずっと眠っているのか身じろぎもしなかった。
 その時、気づいたことがあった。
「防虫剤の臭いがしたんです……。古い学校のトイレに似た」
 臭いは母子から漂ってきていた。
 彼女はメールを打つふりをしてふたりを盗み見ていた。
「変なことに気づきました」
 口紅の塗り方がおかしかった。
「自分で塗るときは斑 ≪まだら≫にならないんですよ。ほら、唇って延ばすじゃないですか。塗り残しがないように……」
 ショールの母親の唇は雑だった。口紅の欠片≪かけら≫が拭われることもなく付着していた。
 ますます気になった彼女は、息子がぶつぶつ言っているのをなんとかして聞きたいと耳を澄ませた。
〈……んだよ〉と聞こえた。
 とその時、車両が大きく揺れた。
 その弾みで山中さんはもっていたケータイを落としてしまった。
 母親の組んでいる手元に落ちたのを息子が掴むと彼女に差しだした。
「ごめんなさい」
 彼女は母親に頭を深く下げた。
 別の臭いがした……。防腐剤の臭いではなかった。
 それは去年の夏、叔父の葬儀で嗅いだことのある臭い−死臭だった。
 すると息子は母親に話しかけるのを止め、じっと山中さんの顔を睨み始めた。
 山中さんは悲鳴を上げないようにするのに必死だった。自分の考えに確信はあった。
  勢いのついたケータイは顔に、目元に当たったのだ。彼女は目を開けないどころか微動だにしなかった。その時、目の前にいる母親の姿をしたものがなんであるかを、その車輌でたったふたりだけが知っていた。
〈だから……死ぬんだよ〉
 息子は少し大きな声で呟いた。
 駅に着くと、突然、男は立ち上がり、文字通り抱きかかえるようにして〈母親だったもの〉を連れて降りた。
「言うなよ……」
 すれ違いざまに吐かれた声がいつまでも山中さんの耳の底にこびりついていた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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