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遠い夏の秘密

遠い夏の秘密


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ロビン・ドナルド(Robyn Donald)
 ニュージーランド北部の牧場主の家に、一男五女の長女として生まれた。十五歳で師範学校に学び、十九歳で結婚、同時に小学校の教師となる。子育てを終えて一時休んでいた教職に戻り、かたわら執筆を始めた。蘭の花が咲き、キウイやオレンジの実る美しい北部の村に住む。

解説

 あなたと愛し合ったあの夏に私は身ごもった。でも、この子の父親はあなたじゃない……。

 ■一人息子のニックとテーマパーク巡りを楽しんでいたケイトは、かつての恋人パトリックと思いがけず再会した。七年前の夏、ケイトはパトリックと初めて愛し合った。ところがその二週間後、あろうことか彼のいとこに襲われ、彼女はニックを身ごもった。それ以来、ケイトはパトリックの前から姿を消し、女手ひとつでニックを育ててきた。あの夏の秘密を、彼に言うことは絶対にできない……。しかしパトリックはニックを自分の子と思いこんで、ケイトが否定しても動じず、これからも会うことを強く望んだ。つらくても、真実を告げなくてはいけないのだろうか? いつしかケイトは、彼を突き放せない自分の気持ちに気づいていた。

抄録

「今夜、食事に行こう」ことさらのんびりとした口調でパトリックが誘った。
 ケイトは首を振った。「無理だわ。荷造りがあるし、あすの朝は服を買いに行く予定なの」
 パトリックの表情は変わらなかったが、磨いた鉄のような色の瞳に黒いまつげがかぶさった。「すると、これでさよならか」冷めた口調だ。
 ケイトの目はニックの濡れた頭に注がれたままだった。「ええ」当然の返事なのに、どうして冷たく無情な最後の言葉のように心に響くのだろう。
「臆病なんだな」あざけりに満ちた言葉だった。
 ケイトはかっとなった。「あなたと食事に行かないのが? 臆病じゃなくて、常識的なだけよ」
 パトリックはけだるい声で言い返した。「おいしい料理をレストランで食べるのを断る人間のどこが常識的なんだい?」
 ケイトは身を乗り出し、ニックに呼びかけた。「上がってらっしゃい。顎が震えているわ」
「子供をだしにしているのはどっちだ?」パトリックは噛みしめた歯の奥から問いつめた。
 彼も怒っている。お互いさまね。ケイトはよそよそしく答えた。「ニックの体が冷えてきたのよ。それに、わたしはあの子をだしにはしないわ。この世でいちばん大事なわが子ですもの」
 ニックが不服そうにステップを上がり、こちらに来ると、二人は立ち上がった。まだ怒りが尾を引いていたが、ケイトは軽く促した。
「ミスター・サザランドにさよならを言いなさい、ニック」
 ニックは細い腕を伸ばして挨拶した。パトリックも怒りを抑え、握手して挨拶を返した。そして、ケイトがあっけにとられているうちに、彼は身をかがめて彼女の唇を奪った。たちまちケイトの体は息づいた。長い間このキスを待っていたかのようだった。
 パトリックが顔を離した。ケイトは彼の瞳を見つめるばかりだった。
「これを思い出すんだ、眠れる森の美女」低い声が容赦なく響いた。「夜、ベッドでむなしくなったときは」彼は踵を返し、歩き去った。
「ママ!」ニックがケイトの手を引っ張り、憤慨してきいた。「おじさん、なぜキスしたの?」
「あれはお別れの挨拶なのよ」声がかすれていた。
「ぼくにはお別れのキスをしてくれなかったよ」ニックはふくれ面をした。「タオルはどこ?」
「後ろにあるわ」ケイトは努めて穏やかに言った。息子とともに部屋に入り、普段どおりに振る舞った。だが、パトリックのキスで焼き印を押されたような気分はずっとついてまわった。

 最後の日、午前中は買い物に出かけ、服とみやげを買った。ニックはずっと欲しかった測候所のおもちゃを手に入れた。荷造りがすんだあと、ケイトは部屋をもう一度見てまわった。それから腕時計を見て、パスポートがバッグの中に入っているのを確かめた。確かめるのはこれで三度目だ。「さあ、ニック。出る時間よ」
 シャトルバスで高速道路を一時間走り、大きなブリスベン橋を渡るのは、夢の中の出来事のようだった。ケイトはニックの質問に答えながら、ときおり息子の頭ごしに外の景色に目をさまよわせた。空港に着くと、荷物を載せたワゴンを押しながら広いターミナルを進み、カウンターで搭乗手続きをした。
「ああ、どちらもファーストクラスにご変更になっています」コンピューターに二人の名前を打ちこんだあとで係員はパスポートを一瞥し、ほほ笑んだ。「より快適にお帰りになれますよ」
「どうして変更になったんでしょうか?」ケイトは眉を寄せた。
 係員は再びコンピューターの画面を見た。「たまにあるんですよ」雑談口調だった。「今夜はあまりこんでいないので、運のいいお客さまはいいお席に移れるんです。わたしなら喜んで乗りますね」
「じゃあ、そうします」ケイトは笑顔で搭乗券を受け取った。「ありがとう」
 荷物がベルトコンベアに乗って消えるのを見送ったあと、ニックは風通しのいい木陰のコンコースを全部見てまわりたいと言い張った。
 億劫に感じながらも、ケイトは息子の話になんとか調子を合わせた。だが最後にカフェに寄ったときは、それさえむずかしくなった。
 ジュースを半分ほど飲んだとき、ニックがきいた。「ミスター・サザランドはオークランドに住んでいるんだよね?」
「ええ」ケイトは無愛想な返事を笑顔でつくろった。
 ニックはグラスの底の氷をストローでつついた。「ファンガレイまで会いに来てくれるかなあ」
 この子までそう思っているのだ。ケイトは胸が痛くなった。「そんな時間はないでしょうね」
 ニックはまた氷をつついた。長いまつげを伏せ、母親を見ないでぼそっときく。「もう会えないの?」
「とても忙しい人なのよ」ケイトは優しく言い聞かせた。「でも、ここは楽しかったでしょ?」
「うん」ニックはストローでテーブルの上の水滴を吹き、複雑な模様を描いている。「ミスター・サザランドと一緒のときはもっと楽しかったよ」
 ケイトは学校のことを話題にした。クラスのみんなにこの休暇のどんなことについて話すか、隣人のアンナとジェイコブは何にいちばん興味を持つだろうかと、彼女は息子に問いかけた。するとニックは子供らしくけろりとしておしゃべりに熱中した。
 ジェットコースターのスリルに話が及ぶと、ケイトは思った。この子がパトリックのことを思い出すときは、物悲しい気分になるだろう。でも、やがて楽しさだけが記憶に残るに違いない。


 *この続きは製品版でお楽しみください。

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