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和書>小説・ノンフィクションハーレクインMIRA文庫

愛人は叶わぬ夢を見る

愛人は叶わぬ夢を見る


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:300pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ニコラ・コーニック(Nicola Cornick)
 イギリスのヨークシャー生まれ。詩人の祖父の影響を受け、幼いころ歴史小説を読みふけり、入学したロンドン大学でも歴史を専攻した。卒業後、いくつかの大学で管理者として働いたあと、本格的に執筆活動を始める。現在は、夫と二匹の猫と暮らしている。

解説

 時に切なく、時に波瀾に、時にエロティックに――人気ヒストリカル作家N・コーニックの公爵と愛人の波瀾物語。

抄録

「あなたには関係ないわ、ロワース」
 イヴは軽い調子で言おうとしたが、ひとつひとつの言葉が棘のように喉に刺さった。彼宛ての置き手紙には、別の‘保護者’を見つけたと書いたのだった。確実に憎まれる方法を、ほかに思いつかなかったからだ。そうでもしなければ、ロワースのことだ、きっとあとを追ってきて真実を告げろと迫ったに違いない。彼を自由にしてあげるには、あれしか道はなかった。
 ロワースの男らしい声がイヴの物思いを破った。「残念だが、あるんだ。実際、ここに来たのはきみと会うためだ」
 つかのま、愚かな胸のなかでまたしても見果てぬ夢がちらついた。ありえないことが起こり、ロワースはまだ昔と同じ気持ちを抱き続けているのかもしれない。
 でも、それにしては何かがおかしい。この冷ややかな声、はかるようなまなざしはいったい……。
 ロワースは恐ろしいほど正確にイヴの気持ちを見抜き、またしても皮肉な笑みを浮かべた。
「心配はいらない。情熱に駆られて愛を告白し、きみを悩ませるつもりはさらさらないよ。むしろその正反対。これは単なるビジネスだ」
 さげすむようなロワースの口調にみぞおちがかき乱され、イヴはかすかな吐き気を催した。
「五年もたった今になって、いったいわたしたちにどんなビジネスがあるの?」必死に軽い調子を保とうと努めながらも、きかずにはいられなかった。「お互いに、何も言うことはないはずよ」
「ふたりだけで話がしたい」
「なんですって?」急に怒りがこみあげ、イヴは彼の手を振りほどいてくるりと向き直った。「あなたの勝手にされるのはお断りよ。あなたは昔から傲慢だったわ」
 昔は、ロワースの身に染みこんでいる自信に満ちた態度や、公爵である彼にへつらう人々のことをふたりで笑ったものだった。ロワースの愛人としてロンドンで過ごしたころを思いだすと、イヴの胸はずきんと痛んだ。
 オペラや芝居、バレエを見たり、絢爛豪華な夜会や舞踏会に出かけたり……。そのどれにも、イヴはすっかり夢中になった。どこへ行っても人々が文字どおりロワースに群がり、こぞってなんとか機嫌をとろうとした。彼が買ってくれた家で、シーツを絡ませて横たわり、愛しあったあとの余韻に浸りながら、イヴはよく彼らに対するロワースの尊大な態度をからかったものだ。
 するとロワースは笑ってキスをし、ふたりはいつしかまた体を重ね、夜が明けるまで愛しあうはめになった。ドアを閉ざした寝室のなかでは、ロワースはイヴだけのものだった。自分だけが彼の本当の姿を知っている、イヴはそう思った。
 たぶん、そんなものは錯覚にすぎなかったのだろう。それでもつかのま、その錯覚はイヴを幸せにしてくれた。ふたりとも幸せだった。
 キプリアン舞踏場で初めて会った夜から、ふたりは熱く燃えて惹かれあった。イヴは高級娼婦として初めてのお目見えの夜で、彼女の純潔が目当ての多くの紳士に囲まれていた。実際、その夜のイヴには、かなりの値がついていた。ところがロワースが到着したとたん、ほかの紳士たちの魅力は色あせてしまった。ロワースの身に備わった権威と、圧倒されるような魅力に勝てる男性はひとりもいなかった。イヴはひと目見たときから彼に心を奪われ、奇跡的に、彼もイヴに心を奪われた。
 ロワースはイヴを単なる愛人としてではなく、恋人のように扱い、あらゆるものを分かちあってくれた。短いあいだだったが、ふたりで過ごした時間は言葉につくせぬほどすばらしかった。
 水夫とお針子のあいだにできた非嫡出子のイヴは、まだ赤ん坊のときに親に捨てられ、ロンドンの貧民窟でありとあらゆることのために闘いながら生きてきた。そんなイヴさえも、ハッピーエンドを信じはじめたくらいだった。ふたりの関係には欲望以上のものがある、そう思っていた。ふたりともひと目ぼれだった、と。
 イヴは喉をふさぐ大きな塊をのみこんだ。あのころは昼も夜も幸せと喜びに満ち満ちていた。まるで別世界のように、今とはまったく違う毎日だった。想い出は日々色あせていくとはいえ、ロワースのことだけは別だ。彼を失ったことを忘れられなかったのは、あまりに深い悲しみと胸の痛みのせいかもしれない。
「昔からきみだけは、まっこうからぼくに逆らったが」そう言ったロワースの声には、それまではなかった感情がこもっていた。まるで悔いているような。「今度ばかりは無理だ」
「それはどうかしら」急に怒りがこみあげてきて、イヴは足を速めた。このままでは通りのまんなかで言い争うことになりそうだ。
「では、やってみるがいい。昔のように」ロワースは息ひとつ乱さずに苦もなく歩調を合わせ、動じるふうもなく応じた。「だが、逆らったところで何も変わらないぞ」
「しつこい人。まるでのら犬みたい」
「チャーミングな分析だな。そういえば、きみは昔から動物が好きだった」
 店に近づくころには、小走りになっていた。ロワースはイヴが住んでいる場所も、生きていくために何をしているかも、正確に知っているようだった。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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