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琥珀の寵姫

琥珀の寵姫


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 トリッシュ・モーリ(Trish Morey)
 オーストラリア出身。初めて物語を作ったのは十一歳のとき。賞に応募するも、応募規定を誤ってしまい失格に。その挫折がもたらした影響は大きく、やがて彼女は会計士としての道を選ぶ。故郷アデレードからキャンベラに移り住んだとき、現在の夫と出会った。結婚し、四人の娘に恵まれ幸せな日々を送っていたが、夢をあきらめきれずもう一度小説家を目指すことに。数々の挫折を乗り越え、ついに自らの手で作家としての人生を切り開いた。今ではオーストラリアのロマンス作家協会で、副会長を務める。

解説

 この誘惑には抗えない。遠い過去からのさだめなのだから。

“自分の心に従いなさい”──旅先のイスタンブールで、アンバーは先祖の遺した日記に書かれた言葉を思いだしていた。彼女と同じ名のその女性は150年前、この地を訪れていた。アンバーは彼女の遺品とともに、その足跡をたどる旅に出たが、トラブルに見舞われ、すんでのところを現地の男性に救われたのだった。黄金色の肌と熱い漆黒の瞳を持つカダールは、彼女を安全な場所にかくまう一方、謎めいた誘惑をしかけてきた。「僕たちが過ごす夜は特別なものになる。君さえ望むなら」いつもは臆病で慎重なアンバーだが、いつしか先祖の勇気に倣い、初めての冒険に踏みだそうとしていた。

■祖母の遺品の中から1冊の日記と美しいブレスレットを見つけたアンバー。それは150年前の“アンバー”からのメッセージでした。不思議な縁に導かれ、旅立った彼女を待ち受けていたのは……。

抄録

 彼は楽しんでいた。小さな兎はなんとか不安を見せまいとしている。だが、二人の体が揺れて腕が触れるたび、彼女は飛びあがらんばかりに息をのみ、唇を湿して、何事も起こっていないふりをした。
 彼は笑みを浮かべた。これほど誰かの腕に触れたいと思ったことはなかった。
 カダールの住む十九世紀の建物の壮麗な入り口に着いたときには、彼女は息を切らしていた。
 アンバーは顔を上げ、円柱や立派な門の構え、アーチ形の背の高い窓のある正面玄関などを見た。「ここに住んでいるの?」
「ここにぼくの住居がある」建物全部を所有していると言う必要はない。彼女は詳しいことをきかなかったし、カダールも話すつもりはなかった。何階に住んでいるのかとさえ、彼女は尋ねなかった。
 だから、小さなエレベーターが最上階で止まると、アンバーは目を丸くした。ドアを抜けた先には、広々とした明るい部屋があった。鮮やかな色彩で装飾され、床から天井までのガラス戸もある。
「まあ」アンバーはスカーフを取り、ガラス戸へと引き寄せられていき、イスタンブールの全景を初めて目にした。地上にいたときは建物や木々、人や車の往来といった街の風景に囲まれていた。五階に上がると、街並みははるか下にうずくまり、眼前には船影の点在する紺碧のマルマラ海が広がっていた。
「どうぞ」カダールは掛け金を外し、ガラス戸を開けた。「ご自由に」
 外に出ると、広いバルコニーが住居を囲んでいるのがわかった。正面と右手の航路を船が頻繁に行き交い、左手には旧市街と|金角湾《ゴールデン・ホーン》を見渡すことができた。赤い瓦屋根や|尖塔《ミナレツト》が海や空と織りなす景色が広がっている。下からは往来の騒音が聞こえてくる。タクシーのクラクションや、狭い通りを走るバスとトラックの音だ。
 アンバーが景色を眺めているあいだに、夕日があたりを薔薇色に染め、ミナレットや空をピンク色に変えた。礼拝を呼びかける声が響き、鳥が飛びたつ。西に傾く太陽の光を浴びて、鳥もピンク色になって円を描きながら舞いあがっていった。
「すごい」ふさわしい言葉ではないとわかっていながら、目の前の景色の美しさや驚きを充分に言い表す言葉は思いつかなかった。
 背後からカダールの声が聞こえた。
「パリが世界で最も美しいと言う人がいる」
 彼の声は低く豊かで、空気の動きやアンバー自身の体の震えで、その言葉が感じられた。うなじの産毛が逆立ち、体が熱くほてってくる。
 彼に触れられたわけではない。なのに、アンバーはすべてを感じた。触れられないことで、かえって彼の存在を感じていた。
 アンバーは深く息を吸った。
 二十五年の人生の中で、彼女は自分を大胆だと思ったことはない。生まれつき、危険を犯すことが嫌いだった。
 分別のある、退屈な女だと思ってきた。
 けれど、いまこのとき、わたしはこの男性とこの場所にいて、百五十年前に未知の世界へと飛びこんだ女性の影を感じている。
 アンバーは待つつもりなどなかった。振り返り、顎を上げ、彼の不可解なまなざしを見返す。
「あなたならどこだと言うの?」彼女はささやいた。
「疑問の余地はない」
 カダールは彼女のほつれた髪を耳の後ろにかけ、少しのあいだ手を頬に当てていた。まるで電気ショックを受けたようだった。濃厚なトルココーヒーを思わせる漆黒の瞳が、彼女の顔を探るように見る。彼女の目から口元へ、そして唇で一瞬だけ止まった。
「イスタンブールだ」カダールは手を彼女の顎へと滑らせ、手のひらでうなじを包んだ。「この街が地球上で最も美しい」
 彼の唇は美しかった。キューピッドの弓のように男性的な線を描いている。言葉を紡ぎだすその唇はいつまでも見飽きなかった。低い声を聞きながら、彼はいったいどこの国から来たのだろうと、そんな思いをいつまでもめぐらすことができた。
 彼自身がイスタンブールの街のようだ。エキゾチックで、わくわくさせられ、謎と冒険に満ち、すべての世界が混ざり合っている。そして今夜、彼はわたしのもの。
 彼に引き寄せられると、アンバーは息を止め、口を開いた。「そう思うわ」彼女の目はすぐそばにあるカダールの唇を見つめていた。いま、彼のいるこの場所以外、どこにも行きたくなかった。
「きれいだよ」彼はさらにアンバーを引き寄せた。彼の唇が彼女の唇をかすめる。なめらかな感触で、からかうような愛撫。優しいキスにアンバーはめまいを覚え、息が苦しくなった。彼に寄りかかりそうになったが、すでに彼は片手をアンバーの腰に添え、自らのたくましい胸に引き寄せていた。
 カダールの唇はスパイスの味がし、今夜の喜びを約束していた。
 カダールのキスが深まり、欲求が高まっていくと、アンバーは彼の情熱的な唇と舌の性急な要求に応えた。彼女はカダールにしがみつき、息を切らし、欲求に目もくらむようだった。
 カダールがうめき声をあげ、わずかに身を引いた。アンバーが顔を上げると、彼の怒ったような顔が目に入り、黒い瞳と視線がぶつかった。
「きみの気分が悪くならなければいいが」
 彼の声は荒々しく、苦痛さえ感じられた。
 アンバーは困惑し、気がつくと、激しい興奮の中にわずかな恐怖心が入りこんでいた。誰もわたしがどこにいるか知らない。わたしを彼に引き渡した警察以外、誰も。そして、彼の言葉に誘惑されたわたしは、誰も責めることができない。
 彼は見知らぬ男性。
 彼は楽しみを約束した。
 でも、彼の楽しみがわたしと同じとは限らない。
 アンバーは身震いした。彼はわたしをどうするつもり?
 おそらく、彼女の目に恐怖が浮かんだのだろう。
「きみを傷つけたりはしない」カダールの声が少し優しくなった。「ただ、言っておくが、きみがこれから目にするものは決して気分のいいものではない」


*この続きは製品版でお楽しみください。

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