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純潔の囚われびと

純潔の囚われびと


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ケイト・ヒューイット(Kate Hewitt)
 アメリカ、ペンシルバニア州で育つ。大学で演劇を学び、劇場での仕事に就こうと移ったニューヨークで兄の幼なじみと出会い結婚した。その後、イギリスに渡り六年間を過ごす。雑誌に短編を書いたのがきっかけで執筆を始め、長編や連載小説も手がけている。読書、旅行、編みものが趣味。現在はコネチカット州に夫と三人の子供と住む。

解説

 今後一生、愛なき結婚に身を捧げるなら、この一夜だけ、あなたを愛したい。

エレナはカダールの新国王と結婚するため、かの国に降りたった。祖国の平和のためならどんなことでもすると、亡き父に約束した。恋をしたこともなく、キスの経験さえないけれど、それはささいな問題。夫となるアジズについて、なにも知らないことも……。ところが、ふいにエレナは屈強な男の手で車に押しこまれてしまう。黒豹を思わせるその男性はカリル・アル・バキールと名乗り、アジズの許婚と知りつつエレナをさらったのだと告げた。しかも自分こそが、カダールの真の国王だというのだ!そして、花嫁を偽の王から奪うのは必要悪だとばかりに、おびえるエレナの服に、手をかけた……。

■砂漠の国カダールの玉座を争うアジズとカリルの異母兄弟。2人のロマンスを、気鋭の作家ケイト・ヒューイットがドラマチックに、セクシーに描きます。翻弄されるエレナは、果たしてどちらの“王”と結ばれるのでしょうか?

抄録

 静寂に銃声が響き渡り、岩に大きな音が反響して、オアシスの静かな水面にさざなみが立った。
 一匹の蛇が飛びあがり、身をよじりながら地面に落ちて息絶えるのを、カリルは冷ややかに見つめた。
 振り返るとエレナは青ざめ、恐怖に目を見開いている。彼女の体がぐらりと揺れるのに気づいたカリルは小声で悪態をつき、大股に近づいて震える体を抱きすくめた。「殺したよ、エレナ」黒髪を撫でながら言う。「もう死んだんだ。怖がらなくてもいい」
 エレナは震えつつ、カリルを押しのけた。「なにが死んだの?」
 質問の意味が頭に浸透すると、カリルはまたしても悪態をついた。「蛇だ! 攻撃しようと首をもたげていたのに、気づかなかったのか?」うつろな目をしたエレナの顎をつかみ、毒蛇の死骸に向ける。
 彼女が青ざめ、息を乱しながら言った。「私はあなたが――」
「君を狙ったと?」カリルは続きを補った。罪悪感と怒りが胸の奥でうずく。聞かなくても理由はわかっている。僕が誘拐犯だからだ。「傷つけないと約束しただろう」
「誰も信じないのは私も同じなの」エレナは離れようとしたものの、震えがとまらず脚がもつれ、カリルはもう一度彼女を抱き寄せた。「やめて……」
「ショックだっただろう」カリルは岩に腰を下ろし、エレナを膝に座らせた。温かくやわらかな体を感じて全神経に衝撃が走ったが、不思議と心地よくて、正しい行為だと本能的に悟った。
 エレナは体を硬くし、顔をそむけて、必死に毅然とした態度を崩すまいとしている。二人の共通点の多さにカリルは狼狽し、予想外の理解できない感情にとらわれた。出会ったときからそうだった。エレナには体だけでなく、心も揺さぶられてしまう。
 カリルが湿った髪をそっと彼女の顔から払うと、エレナは震える吐息をもらし、彼の胸に頬をつけて体の力を抜いた。するとカリルは深い満足感と、さらなる飢えを覚えた。昨日もこの髪に触れたいと思った。目を閉じているので、エレナのまつげが長いのがわかる。
「あなたは私に銃口を向けたわ」ささやく声は、どこか他人事のように弱々しかった。
「蛇を狙ったんだ」カリルは答えた。エレナがショックを受け、起こったことを理解しようとしているのはわかったが、激しい憤りと罪悪感を抑えられない。安心させられなかった僕が悪いのだ。彼女に信用されるようにするべきだったのに。
 誰も信用できないおまえがか?
「黒い蛇だったから」カリルは落ち着きを失わないよう、言葉をつないだ。「命が危ないと思ったんだ」
「全然見えなかったわ」エレナは少し気を取り戻したようだ。それでも震えながらすすり泣き、彼の胸に顔を押しあてた。
 体を押しつけられて、喜びが電流のようにカリルの体を走り抜けた。今みたいにぬくもりを求められたことが、かつてあっただろうか? その行為に対して、守りたいという欲求を感じたことはどうだ?
 思い返しても一度もなく、これまでの人生がいかに空虚だったかを、カリルは思い知った。脇目もふらず心を殺して突き進んできた日々には、温かみなど皆無だった。
「もう大丈夫だ、|いとしい人《ハビブテイ》」言葉は不思議と口をついて出ていた。カリルはエレナの髪を撫で、まわした腕に力をこめた。華奢な肩の震えと不規則な呼吸から察するに、彼女は必死に涙をこらえているようで、長い間感じたことのない気持ちに、彼は喉がつまりそうになった。
 しばらくすると、エレナはカリルを押しやった。涙はすでに消え、顔は青ざめているものの、毅然とした表情をしている。「ごめんなさい。ばかだと思ったでしょう?」彼の膝に座ったまま、エレナは背筋を伸ばし、女王らしく頭を高く上げた。
 カリルは早くも彼女のぬくもりを恋しく思った。「いや、まったく」騒ぎたてる自分の感情は、無理やり胸の奥に押しこむ。「短い間にいろいろあったからな」わかってほしいと思いながら、カリルは言葉を慎重に選んだ。僕の言葉を信じてくれ。「恐ろしい目にあわせて、申し訳ない」
 表情をやわらげて小さく口を開いたものの、エレナは頭を振ってカリルの膝から転がるように下りた。「確実に避けられたことなのに?」
 親密だったひとときは終わってしまった。カリルは鋭い喪失感を禁じえず、そんな自分に驚いた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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