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和書>小説・ノンフィクションハーレクインシルエット・ダンフォース

恋のクレッシェンド

恋のクレッシェンド


発行: ハーレクイン
シリーズ: シルエット・ダンフォース
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 キャスリーン・ガリッツ(Cathleen Galitz)
 ワイオミング州出身。同じ建物に幼稚園も高校もおさまる田舎の学校で、中学生と高校生に国語を教えている。現在もワイオミングの小さな町に、夫と二人の子供と共に暮らす。執筆や授業、そしてボーイスカウトの活動で忙しくないときは、近所の山をハイキングしたりスノーモービルで走り回ったりしている。

解説

 ヘザーは幼少のころからピアニストとして名声を勝ち得るため、親の操り人形のように生きてきた。自由も希望もないそんな生活にいやけがさし、すべてを捨てて、ベビーシッターとして雇われたトビー・ダンフォースの家へやってきた。ところが、そこで目にした光景に仰天する。トビーが激しい口調で息子をなじっていたのだ。思わず飛び込んで子供をかばったヘザーに向かって、彼は怒りとともに言い放った。「この家から出ていってもらおうか」

抄録

「君の家族はどうなんだい?」トビーが尋ねた。
 はっとしてヘザーは視線を車内に、思いを現在へと引き戻した。
「あなたのところみたいに理解のある両親ばかりじゃないわ」ヘザーは消え入りそうな声で答えた。
 トビーは問いかけるように彼女を見た。「どういう意味かな?」
 もともと内気なヘザーは、個人的な問題を人に話すことなどめったになかったが、優しいまなざしで見つめるこの男性になら、少しくらい打ち明けてもいいような気がした。ちょっと説明しておけば、いよいよ彼の大家族と同席する段になったとき、たとえ私がうまく打ちとけられなくても、理解してくれるかもしれない。気持ちの安定を保つには、毎日ほんの少しの時間、静かに瞑想する必要があることを彼が認めてくれるといいのだけれど。
「一人っ子だから、こういう大家族のにぎやかさが珍しくて。あなたのご両親と違って、私の父と母は自分たちの夢をかなえようとして、私に希望をかけるだけかけていたの。残念ながら私は両親をひどく失望させてしまったけど」
「こんなに美人で才能のある娘を自慢にしない親がいるなんて信じられないな」トビーが言った。「そういう親は、子どもを失って初めて、あら探しばかりしていた自分の態度を考え直すものさ」
 彼のひどくまじめな表情と真剣な口調に、ヘザーは思わず涙ぐみそうになった。彼の家族のだれかが、愛するわが子を思いがけず失ったことがあるのかしら? こんなふうに家族について話すのは、生傷に塩をすり込むことにしかならない。彼が私の飛行機恐怖症をなだめてくれたからといって、私の抱える悩みまで背負い込むほど余裕があるわけではないわ。彼には彼の問題があるんだもの。ヘザーは、たいしたことではないというふりをしようとした。
「両親が私の教育につぎ込んだ大金のことを考えれば無理もないのよ。それに……」
 博物館を思わせるような建物に続く私道に車が入り、ヘザーの意識が一瞬窓の外にそれた。正面に見えてきたのは、ここがダンフォース家の地所だということを示すDの飾り文字が中央についた錬鉄製の門。それが開いて、Dの字が二つに分かれた。ヘザーは驚きのあまり息をのんだ。
「ここであなたは生まれ育ったの?」
「ありがたいことに違う」トビーの声が喉でかすれた。「一族の中でも落ちこぼれ者は、もっと奥まったところで暮らしてるんだ」
 トビーがさらりとそう言ってのけたところをみると、落ちこぼれというのは誇張なのだろう。屋敷を取り囲む地所は、マスコミで強大な一大帝国として取り上げられる名門ダンフォース家の第一印象を、さらに強調するものだった。これだけ広大で手の込んだ庭園の手入れをするには、おびただしい数の庭師をフルタイムで雇わなければならないだろう。もしかして、地所は海まで続いているのかしら? 機会があれば、境界まで歩いていって確かめてみよう、とヘザーは思った。
 クロフトヘイブンはジョージ王朝様式の壮大な建物で、史跡としても登録されている。建てられたのは百年以上前だが、手入れに抜かりはない。もちろん最新式の電化設備や各種配管など、近代化は図られているものの、本来の建物の美観を維持するために細心の注意が払われている。ハリウッドでさえ、十九世紀を舞台にした大作の撮影に、これ以上の舞台を探すのは難しいだろう。
「すばらしいお屋敷ね」ヘザーは言った。
「確かに」トビーはうなずいた。「でも、物事は見た目がすべてじゃないからね。ここで暮らしていたいとこたちにとっては、僕の両親の家のほうが懐かしい思い出がいっぱい詰まっていると思う。母親を亡くしてから、いとこたちは忙しい父親からは愛情らしい愛情を与えられたことのない、寂しい子ども時代を過ごした。金で必ずしも品性が買えないように、れんがやモルタルだけで家は作れないものなんだ」
 それにはヘザーも反論できなかった。そのときふと、目の隅で小さな動きをとらえ、全身に鳥肌が立った。巨大な樫の木の下に古めかしい服装の女性の姿が見えたのだ。遠すぎて、濃い色の髪と十九世紀末風の服以上のことは見定められなかったものの、間違いなく女性は悲しげな表情を浮かべながら、ヘザーに向かって、おやめなさいというように人さし指を振っていた。
 だが、まばたきすると、その一瞬で女性は消えてしまった。
 ヘザーは思わずトビーの腕を手探りでつかんだ。
「どうしたんだい?」彼はヘザーの手に手を重ねた。
 ヘザーは人肌のぬくもりに包まれてほっとした。彼女自身の肌はすっかり冷えきっている。あなたも木の下にいた不思議な女性を見たかとトビーにきこうとして、彼女は思い直した。トビーもこれから顔を合わせる親戚たちにヘザーを“頭のおかしなベビーシッター”だと紹介したくはないだろう。
 あの女性は南北戦争の再現劇の役者の一人だったのかもしれないわ。
 そうでなければ、ドキュメンタリー映画の撮影中だったとか。
 いいえ、長く苦痛な空の旅で疲れきっているうえに、この目を見張るようなクロフトヘイブンのオーラに圧倒されて、ちょっと頭がぼんやりしていただけよ。
 でも、もしかすると私に警告するために、わざわざお墓から出てきた幽霊かもしれない。いまのうちにお逃げなさい、と……。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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