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イレーナの帰還

イレーナの帰還


発行: ハーパーコリンズ・ジャパン
シリーズ: ハーパーBOOKS毒見師イレーナ
価格:900pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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解説

生きたいと願った死刑囚の少女、第2章――。14年ぶりの帰郷、両親との再会。そして明かされる生い立ちと、国を揺るがす陰謀。

死刑宣告を受けながらも生き延びたイレーナは、故郷シティアに14年ぶりに戻ってきた。両親は涙ながらに娘を迎えるも、兄を始めとする他の者たちは、敵対国で育ったイレーナをあからさまに嫌悪し、密偵に違いないと疑う。またも四面楚歌となったイレーナに、さらなる危機と試練が――明らかになる14年前の真実と、2つの国に蠢く陰謀、そしてイレーナが生まれ持つ宿命とは? 見逃せない、第2章。

抄録

「着いたぞ」アイリスが告げた。
 わたしはあたりを見回した。そこは生命の息吹に満ち満ちた密林だった。草木が鬱蒼と茂っているせいで前に進むこともままならず、頭上を覆う木々からは蔓が垂れ、絶えず聞こえてくる鳥たちの鳴き声が耳をつんざく。密林に入ってからというものずっとわたしたちにつきまとっている毛のふさふさした小さな生き物たちが、大きな葉の陰からこちらをうかがっている。
「どこにですか?」ほかの三人の少女たちにちらりと目を向けながら、わたしは訊いた。みな困ったような顔をして、肩をすくめている。ひどく蒸し暑いため、着ている綿のワンピースは汗まみれだ。わたしの黒いズボンと白いシャツも、やはり汗ばんだ肌に貼りついていた。重い背嚢を背負い、曲がりくねった細い道を歩きつづけたせいで全員疲れていたし、名前もわからない虫が寄ってくるので身体が痒くて仕方がない。
「ザルタナ族の居住地だ」アイリスが答えた。「おそらく、‘ここが’おまえの故郷だろう」
 青々と茂る草木を見渡したが、集落らしきものは見当たらない。南へたどる道中、アイリスが「着いたぞ」と言うとき、そこはたいてい小さな町か村の真ん中で、木や石や煉瓦造りの家々があり、周囲には畑や牧草地が広がっていたのに。
 そうした場所に着くたび、鮮やかな服をまとった住民に歓迎され、騒々しい話し声と香辛料の匂いに迎えられた。彼らはわたしたちの話に耳を傾け、やがて、とある家族が大急ぎで呼び出される。そして、そこまで一緒に旅を続けてきた、北の孤児院にいた子どものひとりが、興奮とざわめきの中、存在すら知らなかった家族との再会を果たすのだ。
 そうしてシティアの南へと下るにつれて、旅の一行は減っていった。冷たい北の空気から遠く離れ、今わたしたちは、どこを見ても集落の気配などない高温多湿の密林の中でぐったりしていた。
「ここが?」わたしは訊いた。
 アイリスはため息をついた。きつく団子状に結った黒髪にはほつれが目立つ。険しい表情に似合わず、翡翠色の目がかすかにいたずらっぽく輝いた。
「見た目というのはあてにならないものだ。目ではなく、心で探すんだ」
 汗で濡れた手を|弓杖《ボウ》の木目に滑らせ、滑らかな表面に意識を集中させる。心が空っぽになり、密林のざわめきが消えると、意識を飛ばした。木漏れ日を求める蛇とともに藪の中を這い進み、手足の長い動物と一緒に、宙を飛ぶように枝の間を縫う。
 やがて、木の頂に集う人々が見えた。彼らは心を開けっぴろげにして、くつろいでいた。夕食の献立を決めたり、ここ界隈のニュースについて話したりしている。けれどその中のひとりは、密林の下方から聞こえてくる音を気にしていた。何かがおかしい。侵入者がいる。危険が迫っているのかもしれない。
“わたしの心に入りこんだのは、誰?”
 はっとして、われに返った。アイリスがこちらを見つめている。
「彼らは木の上で暮らしているんですか?」わたしは訊いた。
 アイリスがうなずいた。「だがいいか、誰かの心がおまえの意識を受け入れたからといって、その奥深くにまで潜っていいということにはならない。それは『倫理規範』に反する」師範級の魔術師が生徒を叱責するような、厳しい口調だった。
「すみません」
 アイリスは首を振った。「おまえがまだ半人前ということを忘れていた。城塞に行って、早く訓練を始める必要があるな。だが残念ながら、ここでしばらく足止めを食いそうだ」
「どうして?」
「ほかの子どもたちにしてやったように、おまえを家族のもとに残していくわけにはいかない。とはいえ、すぐに引き離すのは、やはり無慈悲というものだろう」
 すると、大きな声が木の上から聞こえてきた。「ヴァネッタデン」
 アイリスが腕をさっと振り上げて何やらつぶやく。だが、彼女が魔術をはねつけるより先に、わたしの筋肉はこわばってしまった。身動きできない。一瞬ひどく慌てたが、すぐに冷静になって心の防御壁を築こうとした。けれど、必死に積み上げた煉瓦は、何者かの魔術によって簡単に崩された。
 一方のアイリスは平然と木の頂に声をかけた。「われわれはそなたたちザルタナ族の同胞だ。わたしはジュエルローズ族のアイリス。議会に属する第四魔術師範だ」
 また聞き慣れない言葉が上方からこだました。魔術が解かれたとたん両脚が震え、わたしは地べたに座りこんで眩暈がおさまるのを待った。双子のグレイセナとニッキーリィも一緒にくずおれ、呻いている。メイは両脚をさすっていた。
「何をしに来た、アイリス・ジュエルローズ?」樹上の声が訊いた。
「行方不明だったそなたたち一族の娘が、見つかったらしいのだ」アイリスが答える。
 ややあって、枝の合間から縄梯子が下りてきた。
「さあ行こう、みんな」アイリスが促した。「イレーナ、わたしたちが登る間、下を支えてくれ」


 *この続きは製品版でお楽しみください。

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