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死霊の国のアリス

死霊の国のアリス


発行: ハーパーコリンズ・ジャパン
シリーズ: ハーパーBOOKS
価格:900pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

ジーナ・ショウォルター

解説

少女の泣き声は誰にも聞こえない。その日、わたしの家族は皆殺しにされた。なぜわたしだけ生き残ったの……。わたしの中の声なき声があなたを殺せと囁く。竹中美麗挿絵付血塗られた学園黙示録……。

「怪物が襲ってくる」という妄想に取り憑かれた父親のもとで育てられたアリスは、16歳の誕生日、本物の“怪物”に襲われて家族を皆殺しにされてしまう。ひとり生き残り、罪悪感に苛まれるアリスは、転校先で学園を支配する美貌の不良少年コールに出会う。全身傷だらけのコールは、まるですべてを見透かすように――アリスに怪物(ゾンビ)が見えることを知っているかのように――見つめた。

抄録

「ねえアリス。ねえってば」
 私は裏庭に敷いたブランケットに寝転がり、幼い妹のためにデイジーで花輪を作っていた。明るい太陽の光が降り注ぎ、ふわふわの白い雲が、どこまでも続く淡い水色の空を漂っていた。アラバマの夏のにおい、セイヨウスイカズラとラベンダーの豊かな香りを吸い込むと、生き物たちの姿が目に入ってきた。背の高い、ひょろっとした芋虫。片方の羽が破れた蝶。木のほうへ駆けていく、太った白ウサギ。
 八歳のエマが、私のまわりで踊っていた。煌めくバレリーナの衣装、動くたびに揺れる小さなおさげ髪。母さんをそのまま小さくしたようなエマは、私とはまるで似つかない。
 二人ともさらさらの黒髪に、アーモンド形の金色の目をしている。母さんは背が低くて、百六十センチそこそこ、エマなんて百五十五センチまで伸びるかどうかも怪しいものだ。かたや私は、白っぽいブロンドの巻き毛に、大きな青い目、何キロあるのかというくらいに伸びた足。百七十七センチという身長は、学校のほとんどの男の子より高くて、いつだって目立ってしまう。行く先々で“キリンみたいな奴だな”という目で見られた。男の子の興味を引いたことなど一度もない。男の人たちの視線を集める母さんとは正反対だ。
「アーリースー」エマが私の気を引こうと、足を踏み鳴らした。「聞いてるの?」
「ねえ、これまでと同じでどうしようもないじゃない。エマの発表会は明るいうちに始まるけれど、終わるのは日が暮れたあとでしょう? パパが私たちを家から出してくれるはずがないわ。ママだって、あのプログラムに申し込んでもいいって言ってくれたじゃない。あなたが発表会に行けなかったからって泣いたりしないって約束すれば」
 エマは私をまたぎ、上品なピンクのスリッパを履いた足を私の肩の横に置いて立った。「今日はお姉ちゃんの誕生日よ。私がママに教えてあげたの、知ってるでしょ? それに今また思い出したんだから、嫌じゃなければ聞いてほしいお願いがあるの。だめ?」エマは私の返事を待たずに言葉を続けた。「パパはお姉ちゃんの頼みをなんでも聞かなくちゃいけないんでしょ? だからお姉ちゃんが出かけたいってお願いしてくれれば……それで……」エマの声に切実な願いがこもる。「それで、エマを観に行かせてってお願いしてくれれば、きっとパパは観に来てくれるわ」
 私の誕生日。そう。両親も忘れていたのだ。いつもそう。エマと違って、両親はいつも思い出してくれない。去年も父さんは、ウイスキーを一気飲みして自分にしか見えない怪物のことを話してばかりで、母さんは父さんの散らかしたものを片づけ続けてた。
 今年、母さんは忘れないように引き出しの中に何枚もメモ書きを入れていたし(私はそれを見つけてしまったわけだけど)、エマが主張していたように、可愛い妹は、それとなく母さんに思い出させようとするどころか“アリスの誕生日がもうすぐだから、パーティーをしなくちゃいけないと思うの!”とまで言ってくれた。だが誕生日の朝を迎えても、今年も何も変わっていなかった。
 まあ、気にしてはいない。一つ年をとり、ついに華の十六歳になったからって、人生が変わるものでもない。とっくの昔に、私はそんなことを気にするのはやめていた。だけど、エマは違う。妹は、私とはずっと無縁だったものを欲しがってる――一身に浴びる両親の視線と愛情を。
「私の誕生日なんだから、エマが私に何かしてくれる日でしょう?」私はからかうように言った。
 腰に手を当て、無邪気にぷりぷり怒っているエマが、私は世界中の何よりも好きだ。「もう! 私のためにパパにお願いさせてあげることがお姉ちゃんへのプレゼントなの!」
「そんなプレゼント、聞いたことないわよ」私は必死に笑みを噛み殺した。
「でもプレゼントよ。だってお姉ちゃんは私の発表会をすっごく観たいはずだもの。だからきっと、頑張って言い聞かせてくれるでしょ?」
 何か言ってやりたい気分だったが、ステージで踊るエマを観たいのは確かだった。エマが生まれた夜のことは、よく憶えている。恐怖心と高揚感が激しく混じり合って、私の頭に記憶を焼きつけたのだ。私が生まれたときと同じように、両親は、いよいよ出産となっても母さんが家を離れなくてもいいよう、助産師を呼ぶことにしていた。だが、助産師は家に入れなかった。日が落ちたころに母さんの陣痛が始まっても、父さんは怪物が入ってくることを恐れて、誰も家に入れようとしなかったのだ。
 死んでしまうのではないかと心配になるくらい悲鳴をあげる母さんから、エマを取り上げたのは父さんだった。私は毛布の下に隠れ、怖くて泣きながら震えていた。やがて物音が途絶え、みんなが無事か心配になった私は、こっそり両親の寝室に行ってみた。慌ただしく動き回る父さんのそばで、母さんがぐったりとベッドに横たわっていた。恐る恐るベッドに近づいた私は、正直言ってぞっとした。赤ん坊のエマは、全然可愛くなかったのだ。赤くて皺だらけで、耳には薄気味悪い黒い毛が生えていて(あとで抜けたから、本当によかったと思う)。母さんは優しく笑いながら手招きしていた。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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