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悪夢のあとには 記憶をなくしたら

悪夢のあとには 記憶をなくしたら


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・リクエスト記憶をなくしたら
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 アン・マリー・ウィンストン(Anne Marie Winston)
 ベストセラー作家で、“ロマンス小説界のオスカー賞”ともいわれるRITA賞の最終候補者にもなった経歴を持つ。赤ん坊やあらゆるタイプの動物、これから開花しようとするものすべてを愛し、執筆活動以外の時間は、子供たちの運転手や読書をして過ごす。ちょっとした刺激ですぐに踊りだしてしまう陽気な性格。庭の手入れは、雑草で太陽が見えなくなってからするという。

解説

リンの顔にはまだ、元夫の暴力による醜い傷跡や痣が残っていた。最後に受けた暴力はとくにひどく、病院で目覚めたときには、記憶まで失っていた。男性への恐怖心はいまだに消えなかったが、リンは立ち直ろうと、友人の兄キャルの牧場で家政婦として働きはじめた。キャルは元夫とは違い、ことあるごとに彼女をいたわってくれる。いつしかリンは、たくましいキャルに恐怖を感じなくなり、抱いていた感謝の気持ちも、愛に変わっていった。だがそんなとき、元夫の死体が発見され、リンは殺害容疑をかけられてしまった。記憶も戻らず、自分が殺人者かもしれないという思いに彼女は悩む。キャルへの愛も空回りするばかりで……。
★“記憶喪失の物語”――突然消え去ってしまった記憶。もどかしさと闘いながら、切ない愛をはぐくむ恋人たちの物語です。★

抄録

 リンはコーヒーの入ったマグカップをキャルに渡した。「よし、合格だ!」一口飲んでそう言うと、キャルは玄関に歩いていき、身をかがめて、前夜リンが磨いておいたブーツに手を伸ばした。たくましい腿をおおうデニムがぴんと張り、思わずリンの視線は引き寄せられた。口の中がからからになり、彼女はあわてて目をそらして、料理を皿に盛った。
 そのときのことを思い出すと、今でもリンは笑い声をもらしそうになる。
 キャルはまだ流しに立っている。リンは水差しに水を入れようと流しに行き、ついでに傷口をのぞいてみた。縫うほどではないが、抗生物質の軟膏を塗ったほうがよさそうだ。ガス台で煮えたぎっている鍋に急いで水をたすと、キッチンに蒸気がたちこめ、ゆでたトマトの香りが漂った。
 キャルがペーパータオルで傷口を乾かしている間に、リンはもう一度食器棚まで行って、必要なものをとってきた。
「ありがとう。僕もなにかつけたほうがいいかなと思っていたんだ。有刺鉄線が切れてね、身をかわしたんだが、このありさまだよ」
 リンはぞっとした。キャルは柵を修理していたのだろう。支柱の間に張った有刺鉄線が突然切れればどんな凶器に変わるか、考えただけでも身がすくむ。
 リンは軟膏をすりこんだガーゼをキャルの指にそっと巻くと、はずれないようにテープでとめた。たこのある固い手に触れただけで、リンの手は震えた。
 今、このキッチンに立って、私はキャルの手を握っている。これは現実なんだわ。こんなにも彼の近くにいるなんて、甘美な拷問を受けているようなものだ。リンは女性にしては背の高いほうだが、目の前の彼の広い胸を見ていると、自分がひどくちっぽけで、か弱い人間に思われた。
 リンはキャルを見つめて、ほほえんだ。「さあ、これで死にはしませんからね」
 キャルが温かな目でリンを見おろした。「初めてだな、君が冗談を言ったのは」これほど近づくと、彼の黒い縁取りのある虹彩、小さな黒い斑点が散っている銀色にも見えるグレーの瞳、茶褐色のまつげ、眉間でくっつきそうな、太く黒い眉がよく見えた。キャルはリンの視線を受けとめて、笑みを浮かべた。「今日までよくがんばってきたね」
 ほめてもらったような気がして、リンはまごついた。「その、私、なんとか、お役に立てれば……」
 キャルがうなずく。言葉にうまく表せないリンの気持ちを察しているようだ。「君はほんとうに役に立っているよ。君が来るまで、どうやってこの牧場をやっていたのかと思うくらいだ」いつの間にかキャルの手がリンの肩に伸びて、彼女を抱き寄せた。
 リンは一瞬、えもいわれぬ恐怖にのまれそうになったが、それはすぐに消え去った。これはキャルの腕、キャルの体よ。こわがる必要はなにもないんだわ。キャルの大きくたくましい体を心に刻みこみながら、リンはその胸に顔をうずめた。目を閉じて、彼の香りを吸いこむ。馬と鞍の革のにおい。干し草と健康的な男性の汗のにおい。キャル独特の言いしれない香りがする。
 しかし、キャルはすぐにリンを放した。「悪かった。こわがらせたな。ただ、君に感謝したくてね」
 リンはまたまごつきながら、キャルから視線をそらした。私がどんなにキャルに恋い焦がれているか、彼は気づいているかしら? でも、こんな気持ちを知られたら、恥ずかしくてたまらない。ぎこちなさを隠そうと、リンは唐突に話しはじめた。「そんな、こわいなんて。ちょっと、びっくりしただけです」
 キャルが眉を上げ、にやりとした。グレーの瞳がいたずらっぽく光るのを見て、リンの心臓はとまりそうになった。「君が一度にこんなに話すとは驚きだね」
「私だって話くらいできますわ。ただ、それほど言うことがなかっただけです」リンの声は彼女自身の耳にも大きくハスキーに響いた。首を絞められた後遺症で、声帯の損傷はずっと残るかもしれないと医者に告げられていたが、歌手になるわけでもなし、リン自身はそれほど気にしていなかった。
 キャルは不思議そうな表情を浮かべて、じっとリンを見つめている。
 沈黙に耐えきれずにリンは口を開いた。「なにか?」
 キャルは肩をすくめると、笑顔を見せて、その場の妙な緊張を破った。「実にハスキーな声だね。前からそうだったのかい?」
「いいえ、すっかり変わってしまって。以前の声には戻れそうにありません」
「二、三カ月、ようすを見ればいい。しばらく使っていなかったんだから。ふつうに話すことだよ、自然にね」
 リンがうなずいた。
 沈黙が流れる。
「さて、また戻って、柵の修理を終わらせてくるかな。ウィルソンのところの牛が、今週はもう三度もうちの牧草地に侵入してきているんだ。また柵を破ってみろ、牛肉にしてウィルソンに返してやる」
 リンはほほえみながらキャルを見送った。自分のところの家畜を外に出さず、よその家畜を侵入させないようにするのは、牧場においては永遠の課題だ。乱暴な言葉を吐いているが、キャルがよき隣人であることはリンにもわかっていた。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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