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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・プレゼンツ 作家シリーズ

春に来た妖精

春に来た妖精


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・プレゼンツ 作家シリーズ
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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著者プロフィール

 スーザン・マレリー(Susan Mallery)
 シルエット・スペシャル・エディションを代表する人気作家。USAトゥデイ紙や大型書店のベストセラーリストの常連。作家が書くどんな奇抜な作品も、ごく当たり前に受けとめられる土地、南カリフォルニアに、世界で一番セクシーな夫と、二匹のかわいいけれどあまり頭のよくない猫と暮らす。

解説

 クレイグ・ヘインズは疲れていた。警官である彼は、六年前に離婚してから、男手だけで三人の息子を育てているのだが、特別捜査に携わっているため忙しく、家の中は荒れ放題で、息子たちとの関係もうまくいかなくなっている。彼は一刻も早く住み込みの子守を見つけたいと思っていた。一方、ジル・ブラッドフォードは住む場所を探していた。離婚の痛手を癒すため、友人のキムの家に身を寄せていたが、そのキムが間もなくハネムーンから帰ってくる。新婚夫婦の家に居候するわけにもいかず、ジルにとって、住み込みのナニーは願ってもない仕事だった。グレイグとジルの利害は一致した。ふたりはひとつ屋根の下で暮らすことになるのだが……。

抄録

 彼を見あげたジルの目は混乱に満ちていた。クレイグは隣に腰をおろすと、両手で抱きしめてキスをした。彼女の唇は柔らかくて甘かった。ふたりの呼吸が速くなっていく。彼は背筋にそって両手をさげていき、腰から今度は胸のほうへあげていった。
「やめて!」ジルは身を離してかすれた声で言った。「やめてちょうだい!」
「どうしたんだい?」
 彼女は引きつった笑い声をあげた。「もう二度とこんなまねをするつもりはないからよ」
「いったい、なんの話をしているんだ?」
 ジルはからだをずらし、ふたりのからだが触れあわないようにした。顔は陰になっていて、目だけが街灯の光を反射している。膝に両手を置いた彼女は落ち着いて見えた。リラックスしているようにさえ見える。しかし、よじれるように組みあわされた手が、心の動揺を表していた。
「こんなのフェアじゃないわ。少なくともわたしにとってはフェアじゃないわ。もう二度とこんなことはごめんよ」
「こんなことって?」
「利用されること。わたしは生まれてからずっと男の人に利用されてきたんだわ」
 クレイグは身をこわばらせた。彼女を利用したことは一度もないと抗議したかったが、ふと自分のことを非難されたのではないのを感じとった。「なんの話をしているんだい?」
「男の人はいつだってほしいものを手に入れるためにわたしを利用してきたのよ。わたしのことなど気にもかけてくれなかった。実の父は離婚する前もしたあとも、母を傷つけるためにわたしを利用したの。義父は人々の前ではわたしの味方のようなふりをしておきながら、ふたりきりになると、ばかで醜いわたしなんか嫌いだとはっきり言ったわ」
「なんてやつだ」クレイグはうなり声をあげた。その男を見つけだして、血を吐くまで殴ってやりたかった。
「それから今度はアーロンが一番ひどいやり方でわたしを利用したの。彼はふたりの共通の友人から、わたしの人生の目的は家族を持つことだって聞いたのね。彼はそれをわたしに対して利用した。ふたりの娘を話題にして、どんなに母親を必要としているかを話して聞かせたの。わたしはばかだったから、彼の話を真に受けて結婚し、家族の面倒を見始めたわ」
 ジルは目を閉じて深く息を吸った。
「二年して、わたしは自分の子供がほしくなった。だけど、アーロンは反対だったわ。すでにふたりいるんだから、これ以上はいらないと言って。でも、わたしがあまりにしつこく子供がほしいとせがむので、とうとう彼も同意したの。半年試みたけど、なにも起こらなかったわ」
 彼女の唇は震えていたが、口調はしっかりしていた。
「わたしは不妊治療を受けたかったけど、あの人はもう少し試みを続けようと言いはった。ちょうどそんなとき、彼の別れた奥さんが、娘たちの養育権を求める訴えを起こしたの」
「そんな話、無理にしなくたっていいんだよ」
「いいえ、話すわ。わたしがなぜこんな気持ちを抱くのか知っておいてほしいの。裁判の手続きが始まったので、今妊娠するのは時期が悪いということでふたりの意見が一致したわ。それでわたしはまたピルを服用し始めた。結局養育権の争いに敗れると、アーロンは怒り狂った。わたしは必死で慰めようとしたわ」
 ジルは両手をさらに強く握りしめた。クレイグが身をのりだしてその手をとると、彼女はまるで命綱にすがるように彼の手を握った。その暗いまなざしは片時も彼の目から離れようとしない。彼女の心を思いやってクレイグの胸は痛んだ。
「まだ法廷にいるときだったわ」ジルがさらに続ける。「前の奥さんは笑い声をあげながら娘たちを抱きしめていた。わたしがアーロンを抱きしめようとすると、彼はわたしをつき放したの。わたしは泣きだした。そしてやけになって、アーロンに、わたしたち自身の子供をつくればいいじゃないのって言ってやったの」彼女の声はかすれていた。「そしたら彼女が……アーロンの前の奥さんが……わたしをあわれむような目で見つめて、あなたはばかね、と言ったの。判事やほかのみんなの前で、アーロンは数年前に……ヘザーが生まれてすぐに、パイプカットの手術をしたって言ったのよ。だから、そのあとで再手術をしていなければ、子供はつくれないんだって」
 クレイグは大声でののしった。心の底からわきあがってくる怒りにからだが震える。だが、ジルは、彼のののしり声が耳に入らないかのように先を続けた。
「アーロンはそっぽを向いたまま、ひと言も弁解しなかったわ。今の話は本当なの、と尋ねると、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、ただ肩をすくめただけ。女の子たちも、まるでわたしなど存在しなかったかのようにわたしを無視していた。あの数年間はなんの意味も持たなかったんだわ。その週にアーロンから、弁護士に離婚手続きの書類を作成させたと聞かされたの」
 ジルのからだが小刻みに震えだした。彼女を引き寄せて抱きしめてやるべきか、それともそっとしておくべきか、クレイグにはわからなかった。
 彼女は握りしめていた彼の手を放すと、胸の上で腕を組んだ。「あれ以来、彼とは会ったこともなければ、話をしたこともないわ。彼と娘たちにすべてを与えたのに、わたしにはなにも与えられなかった。あんなことを何年も続けたなんて、わたしは本当にばかだったわ。でも、人生のなかでたった一度でいい、誰かのものに、家族の一員になりたかったのよ」
 ジルの話にクレイグは心底驚いた。あまりにも理解しがたいことだった。この世にろくでなしどもがいることは知っていた。自分の父親もそのひとりだ。なぜジルはそういった人間たちとかかわりを持ってしまったのだろう。
「ジル、ぼくはアーロンとは違うよ」
「わかっているわ。でも、そんなことはどうでもいいの。わたしはもうこんりんざい利用されたくないのよ。手ごろな人間だからって、それに乗じられるのはいや。ここにいるのだって、子供たちの世話をするためだけで、それ以上はなにも望んでいないわ。あなたたちとかかわりを持つわけにはいかないの。二度と傷つくのはごめんだもの」
 クレイグは抗議したかった。そんな羽目になるはずはないのだ。ぼくと彼女はお互いに強く引かれあっているのだから。もしかしたら……。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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