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蝶になるとき

蝶になるとき


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ダイアナ・ハミルトン(Diana Hamilton)
 イギリスの作家。ロマンチストで、一目で恋に落ち結ばれた夫との間に三人の子供がある。現在、子供たちは独立し、夫と二人暮らし。たくさんの猫と犬に囲まれている。

解説

 大富豪で、プレイボーイと名高いアンドレア・パスカーリ。マーシーは彼の屋敷で、家政婦として住み込みで働いている。男性慣れしておらず、地味で不格好なマーシーは、魅力的な雇主に心乱されつつも、その気持ちを隠して仕事に励んでいた。ある日、アンドレアが驚くべき依頼を持ちかけてきた。彼の広告代理店が作るコマーシャルに出演してほしいというのだ。聞いた話では、彼の会社は宝石などの高級品の広告しか手がけないらしい。この私が、美しく着飾ってコマーシャルに出るなんて……。彼は私の中に、隠れた魅力を見いだしてくれたの? だが撮影日に台本を渡されたとたん、マーシーは屈辱のあまり震えだした。

抄録

「ぜひ君にモデルになってほしいんだ」
 一瞬、何も言えずに相手を見つめることしかできなかった。アルコールのせいで、耳や頭まで変になったのだろうか。ワインなんて飲むんじゃなかったわ、とマーシーは心の中でうめき声をあげた。彼はまた先ほどと同じ目でマーシーを見つめている。混乱しているマーシーの瞳を、銀色の眼光が捕らえた。うっとりするような彼の口元に官能的な微笑が浮かぶ。マーシーはごくりと唾《つば》をのんで混乱を振りはらうように頭を振った。
「もう一度言ってください」
「君は僕が今考えているプロジェクトにぴったりなんだ」
 長い指でマーシーの顔を挟み、上を向かせると、アンドレアは値踏みするように顔をのぞきこんだ。マーシーはぎょっとしたが、ひそかに喜びを覚えた。動揺して全身が熱く燃えあがり、同時に悪寒を帯びたかのごとく震えだす。
 キスをされるのかしら。そう思うと妖《あや》しい興奮に血管が脈打ちだした。彼の視線が顔のあらゆる部分に注がれ、続いて胸元に落ちる。ぶかぶかの家事服で隠された、マーシーが自分では気に入っていない大きな胸に。そこで彼の唇がゆるんだ。
「これから撮影するコマーシャルで、出番は少ないがいちばん重要な役を演じてもらいたいんだ。数時間でいい。〈コロネット〉の商品で……君はその役にぴったりなんだ」
 蜂《はち》の羽音に似た小さな奇妙な音が、頭の中でしていた。何もかもがあまりに意外で、すぐには理解できない。わかるのはただ一つ、彼が手を離したとき、熱くほてった頬に触れていた冷たい手の感触が失われるのが残念だ、ということだけだった。彼はその手で、マーシーの手の中で危なっかしく傾いていたワイングラスを取りあげた。そして彼女がとても信じられない金額を謝礼として払うと告げた。
「考えてみてくれ」滑らかなシルクを思わせる魅力的な声でそう言われると、マーシーは骨までくにゃくにゃと溶けてしまいそうになった。アンドレアは無駄のない動きでするりと立ちあがり、マーシーの手を取って立たせた。その拍子にかすかに体が触れあったので、マーシーは脚から力がさらに抜け、危うく座りこむところだった。
 アンドレアはすでにさっさとドアの方に歩きだしていた。マーシーのためにドアを開け、どうぞ、というように魅力たっぷりの微笑を向ける。
「同意してくれたら恩に着るよ。今夜一晩考えてもらって、明日の朝、もう一度話そう」
 ありったけの意志の力をかき集め、マーシーはなんとかそのまま部屋を出て、ベッドにたどりついた。夕食を食べるのも、熱いお風呂に入ることも忘れてしまった。彼女は震えながら、明日ショックと酔いが覚めてから、今夜アンドレアの部屋であったことをもう一度考えてみよう、とひたすら自分に言いきかせた。


「すごいじゃない!」カーリーが叫んだ。
 マーシーは携帯電話を耳から離し、自室の座り心地のいいアームチェアに置いて、鼓膜が破れる心配がなくなってからまた会話に戻った。
「ゆうべはなんだかよくわからなくって」マーシーは正直に言った。「何しろ、大きなグラスにワインを二杯も飲んでしまったから」
「冗談でしょう」カーリーは大声をあげる。「お酒なんか全然飲めないくせに。クリスマスにラム酒が入ったソースをスプーンに一杯なめただけで酔っぱらったのを覚えていないの?」
「親切に勧められたのに飲まないのは悪いと思ったのよ」マーシーは続けて、たしかアンドレアが言っていたと思われることをカーリーに話してきかせた。もちろん、キスされるかと思ったことについては言わなかった。あまりにばかげた想像だ。
「でも今朝、朝食を持っていったときに、もう一度ちゃんと説明してくれたの」そのときのことを思いだすと、マーシーの顔に温かな笑みが浮かんだ。アンドレアは朝食に出した燻製《くんせい》の魚を最初は嫌っていたが、魚は脳の働きにいいからとマーシーがきっぱりと言い渡すと、残さずに食べたのだった。「来週の月曜にスタジオで撮影があるんですって。メイクをして衣装をつけて、私は午後から撮影だそうよ。その前の撮影がどのくらいで終わるかによるらしいけど。それに、すごいお金がもらえるの。これでジェームズは当分学生ローンを借りないでもすむわ」
 カーリーはため息をもらす。「信じられない」
「私だって。私がテレビの広告にスカウトされるなんて、夢にも思わなかった」
「違うのよ。せっかく稼いだお金を自分のためになぜ使おうとしないのかって言っているの。いつだって自分のことは後まわしなんだから。まあ、あなたのことだから、どうせ言っても無駄だろうけど」カーリーの口調が軽くなった。「やっぱり、あなたは絶対に磨けば光る素材なのよ。雇主には見る目があったということね。いつも言っているでしょう、少し手をかければ、あなたはすごくきれいになれる人だって。チャリティ・ショップで買った古着ばかり着るのはやめなさい。髪をちゃんとセットして、私にメイクをやらせてみて。そのボスはあなたの中に眠っているスター性を見抜いたんだわ」そんなことあり得ないわ、と言いかけたマーシーに、カーリーは熱っぽく続けた。「ねえ、今度、あなたのところに招待してよ。さぞすごい家なんでしょうね。中を見てみたいわ。そうそう、その広告はいつ放映されるの?」
「さあ……」それすら知らない自分がばかみたいに思える。「ゆうべの話では〈コロネット〉とかいう会社の商品らしいけど。今朝、会社の名前をもう一度教えてくださいとは言えなかったの。昨日ちゃんと聞いていなかったと思われてしまいそうで」もちろん、ちゃんと聞いてはいなかった。しかも、キスされるのではないかなどとばかな想像をしてどきどきしていたせいだなんて、告白できるはずもない。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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