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噂の子爵

噂の子爵


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 メアリー・ブレンダン(Mary Brendan)
 ロンドン北部に、六人きょうだいの三番目の娘として生まれた。グラマースクールに学んだのち、国際的な石油企業の秘書や不動産のデベロッパーなど数々の職業を経験、現在は図書館に勤務している。夫と二人の息子とともにイングランド南東部ハートフォードシャー州に在住。

解説

 デイヴィッドは落ちぶれたコートニー子爵家の次男で、称号も財産もまったく手にする見込みがなかった。言わば真心だけが彼の取り柄だったが、その純粋な思いに突き動かされて臨んだ求婚は相手の父親によってすげなく拒絶された。七年後、遠縁の親戚の葬儀に出かけた彼は思いがけない再会を果たす。かつて恋に落ち、結ばれずに終わったヴィクトリアがそこにいたのだ。苦い過去がよみがえり、デイヴィッドは彼女を見つめた。もう一度、彼女に言い寄ってみようか――いまや僕は莫大な富が転がり込んだ、噂の子爵なのだから。

抄録

 馬車の速度が上がった。ヴィクトリアは夕暮れの景色を見つめた。馬がこんなに速く走れるとは今まで知らなかった。風が吹きこんで、彼女はまたボンネットを押さえようとした。あれがあったら顔が冷えずにすむのに、と思いながら舌打ちすると、デイヴィッドが気づいた。
「寒いのか?」
「少し」彼女はつんとして答えた。この十分間ほどずっと、今どのあたりかしら、ハマースミスからメイフェアまでどれくらいかかるのだろうと考えていた。もう彼の屋敷に着いていいはずなのに。というのも彼女のぼやけた目の前を流れていくのは町の景色ではなく田園風景だったからだ。
 デイヴィッドが身を乗り出し、窓を閉めた。そしてヴィクトリアを両腕で包み、自分の席に引き寄せた。
「屋敷に着くまできみをただ見ているのは酷だよ、ヴィッキー」彼はやさしく言い、押しのけようとするヴィクトリアを抱きしめた。「それにほら、こうしていっしょに座るほうがあたたかい」
「もうじきあなたのお屋敷に着きます」そう思ったとたん悲しくなって、声が切れ切れになった。涙までこみ上げてきてしまったわ。
 ヴィクトリアは急いでまぶたを閉じた。デイヴィッドが彼女の顔をのぞきこむ。ヴィクトリアのまつげが濡《ぬ》れているのに気づいた彼は、いきなり長い脚を前の席にのせ、片方の脚を壁際に突っ張って体を安定させた。そして、両腕にさらに力をこめた。
 ヴィクトリアは抵抗しようと思ったものの、そのぬくもりと心地よさには逆らえなかった。頬の涙を冷たい指がぬぐったとき、彼女はデイヴィッドの胸元に顔を埋《うず》め、あたたかな外套の中に手を入れた。
「もうじきあなたのお屋敷ね?」彼女はデイヴィッドの香りを感じながら再びきいた。
「ぼくは、きみを送ってから帰るよ、スイートハート」彼はやさしく言い、彼女のつややかな黒髪にキスした。そして座席の背にもたれてため息をついたが、やがてくすくす笑いだした。「やめてくれ、ヴィッキー」彼は外套の中でもぞもぞ動いている小さな手をつかんだ。「悪い気はしないが……ハマースミスに引き返したくなるかもしれないぞ」彼は指をヴィクトリアの指にからませ、親指で彼女のてのひらをなでた。「ブライトンからいっしょに帰ったときのことを覚えているかい? ぼくたちはウェインライトの馬車に、ディッキーは彼の馬車におばさんと乗ったよね? あの晩、おばさんはバーレーワインを飲みすぎていた。でなければ、あんなにうまくふたりきりにはなれなかっただろう」
 ヴィクトリアは思い出し、ため息をついた。
「ぼくたちが何をしたか覚えているだろう?」
 少し間をおいて、彼女はかすかにうなずいた。
「今、同じことをしようか?」
 たとえ酔っていてもその記憶は衝撃的で、ヴィクトリアははっとした。覚えているわ。もちろん、忘れるはずがない。あれほど何度もキスされたことも、あれほどやさしく愛撫《あいぶ》されたことも、みだらな気分を楽しんだことも……そして、きみのためだと言って最後にデイヴィッドが離れたときに感じた残念な気持ちも経験したことはなかった。彼にいったい何度言われただろう。愛している、これからもずっと愛し、守っていくよと……?
「だめよ!」彼女は外套に顔を埋めたまま叫んだ。
「なぜだい?」デイヴィッドはやさしくきいた。
「今は違う……状況が違うわ」ヴィクトリアは頭痛をこらえながら言った。あまりの痛さに理性的に考えることも、心地よい彼の腕から逃れることもできなくなっていた。
「何が違うんだい?」彼はなだめるようにヴィクトリアの背中にゆっくり手をはわせた。
「やめて!」彼女は体をねじってデイヴィッドから離れようとした。
 しかしデイヴィッドは手を離さないばかりか、いきなり彼女を膝の上に抱き上げた。豊かな長い髪が彼の肩に広がった。「何が違うんだい?」彼はやさしく言いながら、彼女の目を見つめた。「言ってみて……」
「あなたは今はもうわたしを愛していないもの」ヴィクトリアはついにそう答え、急いで彼の胸に顔を伏せようとした。だが、彼はそうさせなかった。
「愛してないから、違うというのかい?」彼は苦笑した。「ぼくがふしだらだから虫酸《むしず》が走るんじゃないのか?」
「あなたはふしだらなんかじゃありません!」ヴィクトリアは思わず言ってしまい、彼と目を合わせた。「わたしはそんなこと、言っていません」
 デイヴィッドは片手で彼女を支えながらもう一方の手でその頬をなで、ハート形の顔にかかった髪を払った。そして体を倒して彼女の唇にあと数センチのところまで顔を近づけた。「ぼくがどれほどきみを愛しているか話したら……」彼は言葉を切り、彼女の唇に軽くキスした。「朝になっても覚えていてくれるかな?」
 ヴィクトリアはすばやくまぶたを開け、酔いのまわった目でとがめるように彼を見た。「口先だけでしょう? あなたは嘘をついて誘惑しようと……」
「その気だったら、ぼくはハマースミスで誘惑できたんだよ、嘘もお世辞もきみの機嫌をとる必要もまったくなしに」
 彼女は思考力を取り戻そうとした。
「どうだい? そうじゃないかな?」彼はヴィクトリアが考えこんでいるのを見て微笑んだ。
「わからないの……頭がぼうっとして」
 デイヴィッドは彼女を抱いたまま座席に倒れこんだ。「眠るといい。朝になったらもう一度きみに言うから」彼女の髪に唇をつけてささやいた。ヴィクトリアは彼にいっそう体をすり寄せ、そのやさしい声を聞いた。「愛しているよ、ヴィクトリア」


*この続きは製品版でお楽しみください。

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