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愛を賭けて

愛を賭けて


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫ヒストリカル
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ローラ・キャシディ(Laura Cassidy)
 出版と広告業界でキャリアを積んだあと、息子の誕生を機にフリーランスのライターに転向。数多くの記事や短編小説を執筆した。その後、16世紀に書かれたロマンティックな詩に魅入られ、ヒストリカル・ロマンスの執筆を手がけるようになった。

解説

 家族を火事で失って失意の日々を送っていたジュディスは、英国女王エリザベス一世ともゆかりの深いラティマー家に仕えることになった。跡継ぎのジョージは聡明で見目麗しく、貴族の女性たちから理想の花婿と噂されている。だが、生まれつき未来を予見する力があるというジョージはジュディスこそ夢にまで見た運命の女性だと言いだした。まさかわたしのような一介の召使いが、伯爵家の御曹司と結ばれるわけはないのに!

抄録

「どうしてぼくを避けているんだ?」ジョージは穏やかに言った。
 ジュディスが目を通していた本は表紙が固くて分厚い、おもしろみのないイングランドの狩猟法に関するものだ。どうして書斎からこの本を選んできたのかはわからない。近ごろは自分でも説明のつかない行動ばかり取っている。閉じた本が手から床に滑り落ちた。
 ジョージが立ち上がって、それを拾った。背をかがめたときに本の題が見えたので、眉を吊《つ》り上げた。「ケント州の狩猟法に興味があるのか?」
「いいえ……どうしてその本を手に取ったのか、自分でもわかりません」
「それでは……ぼくの質問の答えはわかっているのかい?」
「どうしてそのような質問をなさるのかわかりませんわ」ジュディスは無愛想に答えた。「このお屋敷ではジョージ様にはジョージ様の、わたくしにはわたくしの仕事があります。わたくしはその仕事をしているだけです」
 ジョージは重みを確かめるように両手で本を持っていたが、体の向きを変えてテーブルの上に置き、ジュディスのほうへ向き直った。「たしかにそのとおりだよ、ジュディス。だが、冷たい言い方だ」
 ジュディスは顔を赤らめた。「生意気なことを申しあげて、すみませんでした」
「いや、いいんだ。きみが無理にぼくを避けているようなので、わけが知りたかっただけだ」
「ジョージ様もわたくしに話しかけてくださいませんでしたわ」ジュディスは六週間ものあいだ心にわだかまっていることをここで言うつもりはなかったが、彼がなんと答えるのか、聞いてみたかった。
「話しかけてほしかったのか?」ジョージは青い瞳でジュディスをまっすぐに見つめた。意識して彼女を避けていたわけではない。それどころか、いつも彼女のことを考えていたのだ。身を切るような寒風のなかで農地を見まわっているときも、冷たい夜空の星の下、友人たちと出席した集まりから家に戻るときも。
「とんでもないですわ!」
「そう望んでもなんの不思議もないよ。ぼくたちは友だちじゃないか」
「わたくしたちの立場ではお友だちにはなれませんわ」ジュディスは冷ややかに言った。会話が行き詰まっているあいだ、ジュディスは彼がどうして“冷たい言い方だ”と言ったのかがわかった。わたしったら、偉そうにジョージ様にお説教をしてしまったんだわ。でも、あんなふうに言われたら、ほかにどうしようもなかった。もっとも、彼にあんなふうに言わせたのはわたしだけれど……。ジュディスは威厳を奮い起こした。「わたくしはこの家の召使いで、あなた様はわたくしのご主人です。そのことをお忘れになりませんように」
 意外なことに、ジョージは声を立てて笑った。そしてジュディスの隣に腰を下ろした。背後の窓は霜の幻想的な花や葉っぱの模様でおおわれている。今夜は風は吹いていない。紫がかった鉛色の冷たい空の下の庭は静まり返っている。「きみにはとても大事なことなんだね、身分の違いをわきまえるということは」
「そうです」ジュディスはこれまでジョージがそばに来ても息苦しくなったことはなかったが、今初めて息苦しくなった。彼が怖いからではなく、むしろ自分自身が恐ろしいからだ。ジョージ様はやってはいけないくらい親しげに大事なことを話されている。「それをわきまえていなかったら」彼女は無理して先を続けた。「わたくしたちはどうなるのでしょう?」
「わからないな。きみはどう思う?」
 ジュディスは浅く息を吸いこんだ。どうしてこんなに息苦しいの? まともに考えられないわ。「こういうことです。わたくしたちは友人になることはできません。なぜなら……なぜなら、わたくしは召使いだからです。もしもわたくしが間違ったことをしたり、ジョージ様に失礼なことをしたり、やるべき仕事を怠けたりしても……きちんと叱《しか》っていただけなくなります」ジョージの口の端がおもしろがっているようにゆがんだので、ジュディスはいきりたった。「わたくしの言いたいことはおわかりでしょう! 世の中はそういうものです! みんなが平等になったら、秩序もなにもなくなってしまいます!」
 ジョージは彼女のほうを見た。黒い瞳孔《どうこう》が広がり、白目の部分が白というよりも輝く真珠色になった目が、彼女の目をとらえた。「わからないかな、その態度でそういうことを話題にしたら、ぼくたちは対等の立場に立っていることになるんだよ。ほかの召使いが……アニーがぼくにそんな口をきくところを想像できるかい?」
 ジュディスは眉根を寄せて考えた。「いいえ。アニーのことと、今話していることとは違いますもの。わたくしはそういう言葉を学び、アニーは学ばなかっただけのことです。どんなふうに表現しようと、事実は変わりませんわ」
 ジョージはため息をついた。「ジュディス、きみの考え方はすばらしい! この先五十年間もこういう会話ができたら、どんなにいいだろう」
「どういう意味ですか?」また息が苦しくなった。どうしたのかしら?
「はっきりしているだろう? 窓の外が凍えるような寒い夜に、暖かい部屋にふたりで腰を落ち着けて、お互いの考えをぶつけ合う……。きみはぼくの意見に反論し、ぼくはきみの現実的な答えを否定する。だが、意志の疎通は完全だ。きみは召使いのだれかとこんな関係を築くことができるかい? ぼくだって、知り合いのだれかとこんなふうに気持ちを通わせることができるだろうか?」
 ほかのだれともできないわ! ジュディスは思わず心のなかで叫んだ。少なくともわたしのほうは。でも、ジョージ様もそうなの? 「まだおっしゃる意味がわかりませんわ」
「わからない? では、ぼくが言いたいのはこういうことだ」ジョージは彼女の片手を取って唇に近づけた。「ごらん」ジュディスの顔に顔を近づけて口づけする。情熱とは無縁のやさしいキスだった。ジュディスはウィンザーからの帰り道で彼が自分のマントをやさしく肩に着せかけ、あごの下で注意深く紐《ひも》を結んでくれたことを思い出した。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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