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封印された恋

封印された恋


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・イマージュ
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ナターシャ・オークリー(Natasha Oakley)
 ロンドン生まれ。すでに小学生のとき、大人になったら作家になりたいと言っていた。十四歳で演劇と出合い、シェイクスピアやイプセンやチェーホフに夢中になる。演劇学校を卒業後、プロの女優として活躍。最初の子供が生まれると家庭に入ったが、五人目の子供が夜泣きをしなくなったのを機に、作家になる夢がよみがえり、執筆活動を始めた。現在は夫と子供とともにベッドフォードシャーで暮らす。執筆していないときや人込みが恋しくなったときは、骨董市やオークションに出かけるという。

解説

 若く世間知らずだった母は、ある貴族に燃えるような恋をした。だが彼には妻がいて、数時間の喜びは、彼女に苦労と重荷をもたらしたのだった。母は貧しいなか、たった一人で私を育ててくれた。プルバラ子爵は、相手の女性のその後を一度でも思っただろうか――。エロイーズは父親に会う決心をし、勇気を奮い起こして手紙を書いた。まったく反応がないまま三週間が過ぎた今夜、エロイーズはパーティの席上で子爵の再婚相手の息子を目にした。セクシーな魅力をたたえ、なんの苦労もなさそうな上流社会の住人。彼女は、心の底から憤りがわき上がるのを覚えた。
 ★母親の死後、実父に会おうとしたヒロインは実父の親族からひどい誤解を受けてしまいます。育ちや階級の差をテーマに、切ない恋を描いたナターシャ・オークリーの力作をお楽しみください。★

抄録

 ジェムがエロイーズの手を押さえた。「ロンドンへ急いで帰るつもりがないなら……君に見せたいものがあるんだ」
 二人はハーブ園を抜け、中央にある長い小道に戻った。‘いちい’の高い生け垣の向こうに、寺院を改造した大邸宅が威風堂々とそびえている。歴史的で美しい建造物だ。永遠にそこに存在しそうに思えた。
 エロイーズが建物を振り返ったとき、ジェムの表情が目に入った。誇りと満足が入りまじった顔。彼は心からこの場所を愛している。ジェムの言葉が頭の中でこだました。“アベーには、たくさんの人が深い愛着を持っているから”
 彼の考え方はエロイーズにとって衝撃的だった。こういう大邸宅に住む人々は、財産として家を愛しているのだと思っていたからだ。だが、ジェムは自分の家に愛着を持っているようだ。表情や声にそれが表れている。だからこそ、彼はここにいるのではないだろうか? もし私がコールドウォールサム・アベーで大きくなっていたら、ジェムのような考え方をしたかしら? 一つの場所に愛着を感じられるなんてすばらしいことだ。友人や家族がいて、心のふるさとがあると確信できるなんて。
 エロイーズにはふるさとと感じられる場所などなかった。今日、彼女はそのことに気づいた。人を寄せ集めただけでは家族にならないのだ。家族になるには長年一緒に過ごし、お互いの幸せのために力をつくさなくてはならない。アベーでは私はいつも部外者だわ。私がいると、ベリンダに大きな苦痛を与えてしまう。
「なにを見せてくれるの?」
「僕のお気に入りの計画さ。気に入ると思うよ」
 エロイーズは顔をしかめたが、ジェムはそれ以上なにも言わずに、砂利を敷いた小さな中庭に連れていった。ランドローバーがとまっている。
「どこへ行くの?」
 ジェムはほほえんだ。「遠くはないが、そのヒールで歩くのはつらいところだ」
 彼女は足元を見た。靴には凝っている。やわらかなクリーム色の革と、踵がねじれたデザインになっているのが気に入っていた。まるでエロイーズの心を読んだかのように、ジェムが笑いかける。彼の瞳の罪深いきらめきを見て、彼女ははっと息をのんだ。
「私のコラムを読むべきね。高いヒールはふくらはぎの形をよくするのよ」
「そんな必要ないだろう?」ジェムがすかさず言い返した。
 愛撫《あいぶ》するような、からかうようなまなざし。エロイーズは必死で自分に言い聞かせた。ここにいてはいけない。頭痛がするとか言って、今すぐ帰るのよ。
「行こうか」ジェムが車のドアを開けた。
 エロイーズは我にかえった。すり切れたシートに座った拍子に、スカートから白い太腿があらわになる。彼女はあわててドレスのやわらかなひだを直した。男性のそばにいて、これほど心が乱れたのは初めてだ。私はジェムになにを望んでいるのかもわかっていない。彼にキスしてほしいの? 抱きしめてほしいの? それとも愛してほしい? 母はロレンスに、こういう気持ちを抱いたのかしら? ひょっとしたら、コールドウォールサム・アベーには魔法がかかっているのかもしれない。
 ジェムは狼狽《ろうばい》したふうもなく、しなやかに運転席に座った。だがその瞳に欲望がよぎったのを、エロイーズは見逃さなかった。彼も私に惹《ひ》かれているのだ。意外だった。二人はなにもかも違うのに、どこに共通するところがあるの?
 見知らぬ二人が出会っただけだったら、思いのままに好きになったり嫌いになったりできただろう。だけど、私はジェムの義理の父の私生児。事実は、二人の間に見えない壁として立ちはだかっている。どちらも、その壁を越える勇気はないだろう。あまりにも高すぎるから。禁じられた道は進めない。ジェムが見せたいというものを見たら、アベーから立ち去ろう。永遠に。
 車はエロイーズが知っている目印をすべて通り過ぎた。彼女はジェムを見た。「ここはどこ?」
「まだアベーの領地内だよ」ジェムは急カーブに備えてギヤを入れ替えた。「さて……僕のお気に入りの場所に到着だ」彼は納屋を改造したような建物の外に車をとめた。大きな窓ガラスがある。
 エロイーズはあたりを見まわした。
「すばらしいだろう?」ジェムがそばに来た。
「風車がある丘からアベーへは戻れる。ここはダウンズと呼ばれる丘陵地帯なんだ」
「息をのむような美しさだわ」
「ここを見た瞬間、どうにかしなければと思った。都市区画委員会の同意を取りつけるには、何年もかかったよ」
「ここはあなたのものなの?」
「すべてね。僕の二十一歳の誕生日に、ロレンスがくれた。だが住居に改造していいという許可が下りたのは、去年のことだ。作業にかかって八カ月になるが、やっと家らしくなってきたよ」
 ジェムは話しながら、エロイーズを重々しいドアへと案内し、桟敷のある天井の高い玄関ホールに入った。とてつもなく広い空間の中央に、大きな円テーブルがでんと鎮座している。
 エロイーズはきめの細かい木の天板を撫《な》でた。そうしているうちに記憶がよみがえり、ジェムを振り返る。「これって、田舎家の作業場であなたが作っていたテーブルでしょう?」
「アーサー王伝説にある円卓のつもりなんだよ。なにかいわれのあるものが欲しかったんだ。ずいぶん場所をとるけど」
 すばらしい技巧を凝らしたテーブルは信じられないほど美しく、思わずエロイーズは目をみはった。円形の大きな天板はいくつかの部分に別れていた。違う色の木を組み合わせ、その一つ一つに言葉が浮かびあがるようになっている。“美徳”という言葉があった。
 エロイーズは“名誉”という文字を指でなぞった。「これはなんていう技術なの? 象眼細工?」
「そのとおり。大量生産されるものには向かないね。作るのにとても金がかかるんだ。好きだからこそできる作業だな」
 さまざまな言葉があった。“信念”“希望”“平和”“愛”“勇気”……。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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