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億万長者と無垢な家政婦【ハーレクイン・セレクト版】

億万長者と無垢な家政婦【ハーレクイン・セレクト版】


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・セレクト
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ジェニー・ルーカス(JENNIE LUCAS)
 本屋を経営する両親のもとたくさんの本に囲まれ、アメリカ、アイダホ州の小さい町で遠い国々を夢見て育つ。十六歳でヨーロッパへ一人旅を経験して以来、アルバイトをしながらアメリカじゅうを旅する。二十二歳で夫となる男性に出会い、大学で英文学の学位を取得した一年後、小説を書き始めた。現在、幼い子供ふたりの育児に追われながらも執筆活動を通して大好きな旅をしているという。

解説

過去に男性から手酷い裏切りを受けて以来、家政婦のルイーザは休暇も取らず、仕事に明け暮れてきた。男性の興味を引かないよう、黒縁眼鏡をかけて髪をひっつめ、だぶだぶの灰色の服で地味に装って。だがアルゼンチン出身の億万長者ラファエル・クルスに5年間仕えるうち、彼への思慕が抑えきれなくなってしまう。ラファエルは次々に美女と浮き名を流すプレイボーイ。彼が新しい恋人とデートに出かけた夜、ルイーザは悲しみに耐えきれず、ひとりキッチンで泣いていた。そこにデートを早めに切り上げたラファエルが帰宅して……。

■2009年に日本デビューしたジェニー・ルーカス。彼女の名を一気に知らしめるきっかけとなった、2011年の大ヒット作をお届けします。これぞジェットコースター・ロマンスの決定版!
*本書は、ハーレクイン・ロマンスから既に配信されている作品のハーレクイン・セレクト版となります。ご購入の際は十分ご注意ください。

抄録

背後から錬鉄製の門扉が開く、長いきしみ音が聞こえた。門扉に油を差しておかなくちゃ。ルイーザは振り返った。庭師か、ディナーパーティ用の大量のシャンパンを配達してきたワイン業者が来たのだろう。
 けれど思いがけないそびえるような人影が闇から現れ、ルイーザははっと息をのんだ。いや、闇から現れたのではない。
 彼自身が闇だった。
「ミスター・クルス」ルイーザはつぶやいた。口の中が突如からからになっていた。
 見つめる彼の目が夕日を受けてきらめいた。「ミス・グレイ」
 低くハスキーな声が庭にこだまし、ルイーザの胸は大きく鼓動した。突如心許なくなった手が籠と剪定ばさみを落とさないように、ぐっと指先に力をこめる。予定より三日も早い。でもラファエル・クルスが予定どおりの行動を取ったことがあるだろうか?
 ハンサムで、冷酷で、リッチ。このアルゼンチン人の大富豪は、詩人のような謎めいた抗いがたい魅力と氷の心を兼ね備えている。
 長身で広い肩、体力をうかがわせる隆々とした筋肉。強さ、男性的な美しさ、財力、スタイリッシュな外見。どれを取っても、ほかの男たちから抜きん出ている人だ。けれども今日は、黒髪がひどく乱れていた。いつもは完璧な黒いスーツも皺だらけで、ネクタイもゆるんで曲がっている。顎のあたりも、鋭い頬骨と鼻梁の高い鼻の下から広がる影で黒く覆われている。日に焼けたオリーブ色の肌に、明るい灰色の瞳がくっきりと浮いて見えていた。
 全体的に乱れ、今日の彼は上品というより野性的な雰囲気を漂わせていた。それでもどういうわけか、記憶にあるよりずっとハンサムに見える。
 ひと月前、わたしは彼の腕の中にいた。抱かれたのだ。誰にも触れられたことのなかったこの体を情熱的に――。
 ルイーザは自分の思考を遮ると、心を落ち着けるために深々と息をした。
「おかえりなさいませ」その声に感情はいっさい表れていなかった。冷ややかなほど凛としている。まさに力ある人物に仕える者にふさわしい。これも訓練のおかげだ。「ようこそイスタンブールへ。準備を整えてお待ちしていました」
「もちろん、そうだろう」彼が唇に冷笑を浮かべて歩み寄った。黒髪は乱れているばかりか、湿っている。「きみが期待を裏切るとは思っていないよ、ミス・グレイ」
 ルイーザは顎を上げ、彼の冷酷な美しい顔を見上げた。
 まなざしに陰りがあった。なんともいえず疲れた表情だ。あの苦もなく無情になれるプレイボーイが、なぜかいつになくやつれて見える。
 意に反して、不安と心配で胸がいっぱいになると同時に、霧が雨へと変わり、頭上の暗い木々にぱらぱらと音をたてて落ちはじめた。
「あの……大丈夫ですか、ミスター・クルス?」
 彼が体をこわばらせた。
「当然だ」冷ややかな声だった。余計な口出しに気を悪くしたのは明らかだ。
 ルイーザは自分が腹立たしくて、籠の取っ手を持つ手に力をこめた。わたしったら、何を考えているの? 個人的なことに口出しをするなんて。それがいけないことくらい、十カ月のハウスマネジメント訓練で教わらなくとも、ラファエル・クルスのパリ邸での五年で学んだはずなのに!
 彼は感情を表に出さなかった。ルイーザも努めてそうしてきた。最初の一、二年は楽だった。けれど、必死に努力したにもかかわらず、いつしか……。
 こうして彼を見ていると、最後にこの顔を見たときのことが頭に浮かんでしかたがなかった。自分がこのプレイボーイの主人をあきれるほど、惨めなくらい愛していると自覚した夜のことが。あの夜、わたしがキッチンの隅でひとり泣いているところへ、彼がまた別の絶世の美女とのデートを切り上げて思いがけず早い時間に帰宅したのだ。
“なぜ泣いている?”彼は低い声で尋ねた。目に何か入ったと、嘘をついてごまかそうと思った。けれど目が合うと何も言えなかった。まっすぐ近づいてくる彼を見て、身動きすらできなかった。抱きしめられながらも、骨の髄までわかっていた。結局はつらい思いをするだけだと。それでも押しのけられなかった。できるわけがない。彼を――絶対に自分のものにはならないとわかっている、この扱いにくい禁断の男性を愛しているのに。
 シャンゼリゼ通りからほど近いペントハウスで、きらびやかな街と夜の灯台のように明々と灯るエッフェル塔を背景に、彼はルイーザの名をうなるように呼んだ。手首をつかみ、体をキッチンの壁に押し当てて荒々しく唇を奪った。ルイーザは互いの欲望が炸裂した衝撃と飢えたような抱擁のなかでただ喘ぎながら彼の名を口走ることしかできなかった。
 何年も抑えこんできた欲望に屈して彼を求めてしまった。残酷な結果を迎えるとわかっていながら、どうして身を任せたのだろう?
 しかも妊娠する可能性も考えず……。ばかなことを考えちゃだめ! ルイーザは必死に自分に命じた。妊娠しているはずがない。妊娠なんてしたら、ラファエルが許さない。わざとそう仕向けたと、嘘をついたと思われる。
 ルイーザは唇をなめた。「お元気なら……よかった」たどたどしく告げる。
 彼の目がルイーザの顔をなぞり、口元をさまよってから、不意に背後の鞄に向けられた。「夕食を部屋に運んでくれ」怒鳴るように言う。
 それから彼は大股で振り返ることもなく屋内へと入っていった。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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