和書>小説・ノンフィクションボーイズラブ小説弁護士・検事


著者プロフィール

 晶山 嵐子(しょうやま らんこ)
 出身地:大阪/星座:獅子座/血液型:A型/趣味:読書、映画鑑賞/誕生日:8月19日。

解説

 幼い頃に両親を亡くした中学教師の俊介は、顔は瓜二つ……だが性格は最強の美人の姉、幸子にずっと振り回されっぱなし。そんなある日、大企業の社長夫人の座に納まっていた姉に突然起きた離婚騒動……。十億の慰謝料をもぎとる! ……と姉が雇ったやり手弁護士、真崎は銀縁眼鏡の超エリート然とした色男。が、彼の狙いは俊介の躰で……。せめぎあうインテリジェンスとインモラル♪ 

イラスト しおべり由生
※こちらの作品にはイラストが収録されていません。

目次

成功報酬

抄録

今朝出てきたマンションに、俊介は車で入っていった。駐車場からエントランスに入り、真崎の後をついて部屋に入る。
 玄関を入ってすぐの小部屋で、俊介は十分ほど待たされた。
 中に入れば入ったで「どちらのビデオがいいですか?」と、真崎が出してきたのは昨日のベッドシーンとさっきの車中でのビデオだという。どちらもラベルはない。
 俊介が心底厭そうに眉間に皺を寄せたのを見て、真崎は薄く苦笑した。
「あなたを脅す気はないですから、どちらもお返ししましょう」
「コピーは?」
「ない、というのを信じていただくしかないですね。はい、眼鏡です。本当に度が入っていないのですね」
 俊介は、真崎の手から眼鏡とビデオをひったくった。眼鏡はかけずに胸ポケットに突っ込む。
 両手を肩の位置で広げて、真崎はあきれたように言った。
「今日は帰りますか? 送りましょうか?」
「自力で帰りますっ!」
「そんなに躰中痛そうなのに?」
 眼鏡とビデオを手にした俊介は、真崎に背を向けた勢いで壁にぶつかった。クス、と笑った真崎が壁に手をついて俊介を覗き込む。
「あなたがあんなに抵抗しなければ、そんなに躰は痛くないはずなんです。自業自得と思ってください」
「なっ!」
 あまりの言いように振り返った俊介は、真崎の腕の中に抱きしめられた。顎をとられてくちびるを塞がれる。
 俊介は思いっきり歯を噛み合わせた。
 ギジャッ……と、粘膜が歯の上で切れる感触。潮の臭い。俊介は心の底から後悔した。
 血が口の中に溢れ返る。
 他人の血が。
 精液と同じぐらい汚い……液体。
 病気を持っていれば即座に感染してしまうものを、口の中に入れてしまった。
「げーっ……げほっげほげほっ……」
 傍にあった硝子のテーブルに向かって噎せ返り、舌を歯で扱いて血を吐き出す。いくら嫌いでも、豪華な絨毯(じゅうたん)を汚す気にはならなくて、拭けば終わりの場所を探したあたり、自分でも人が良すぎると自嘲(じちょう)した。
「意外に攻撃的なんですね。危ないことはやめた方がいいですよ? 攻撃するなら自分が痛くないように攻撃しないと」
 噎せて涙まで溢れさせている俊介とは対照的に、真崎は鎮まり返っていた。
 ティッシュを手に取って、口許を拭(ぬぐ)っている。
「私が肝炎にかかっていたら、即伝染(うつ)ってます」
「ああ、だから物凄く後悔した」
「安心してください。毎月の血液検査では何も出ていません」
「嘘ではないと信じておくよ。毎月、血液検査をしなければならないような危ない男の言うことでもな! ファーストキスが男だなんて、ほんとうに最低だっ。法律で勝てると思って好き勝手して……今まで何人に同じことをしてきたんだ。悪徳弁護士っ」
 俊介は自分の口を拭ったティッシュを丸めて、真崎に投げつけた。
 蒼い顔でぜぇぜぇと肩を揺らし、真崎を睨みつける。
「訴えはしないさっ、安心するがいいっ。僕の恥になるっ。わざわざそんなこと、しはしないよ。だがお前を許したわけじゃないっ!」
 ソファーに手をついたまま、真崎を指さして非難する。
「訴えないだけで、一生お前を恨む人間が増えたんだ。いつか痛い目を見るがいい」
 俊介の言葉に、真崎はあきれたように大きく溜め息をついただけだった。
「楽しい週末を過ごしたかったのですが、残念です」
 また、溜め息をついて真崎は頭を振る。黙って外へ続くドアを開けた。
 二巻のビデオで膨れた鞄を持って、俊介は逃げるように部屋を飛び出す。マンションを出て、傍の自販機で茶を買い、口をゆすいだ。何度もうがいをし、その場に座り込む。

*この続きは製品版でお楽しみください。