マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクション恋愛小説ロマンス小説

公爵と物言わぬ花

公爵と物言わぬ花


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:800pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆1
◆レビューを書く

¥0サンプル
購入する


解説

“公爵夫人”になるために生きてきた美貌の令嬢と、思いがけず“公爵”になったプレイボーイの運命は……?

厳しい両親のもと、完璧な花嫁になるための教育を施されてきたイザベラは、いつの日か婚約者のゲイジ公爵に嫁ぐためだけに操り人形のような毎日を送っていた。愛してもいない人との結婚――幸せな未来など諦めていたある日、実は相続の問題で、本当のゲイジ公爵は別の男性だったと判明する。真の公爵として現れたのは、あろうことか放蕩者として悪名を轟かすニコラス。以前の公爵も好きになれないような人だったけど、まさかこんな不埒な人の妻になるなんて……何もかも見透かすようなニコラスの視線に、イザベラは身を震わせた。

抄録

 沈黙が広がり、ニコラスがなにか言おうとしたとき、ようやくイザベラがふたたび口を開いた。「つまり、わたしが聞きたいのは、あなたについての物語なんだと思うの」それから首を回してニコラスを見た。その黒い目には、ニコラスが一、二度垣間見たぬくもりが宿っていた。
「ぼくについて、どんなことを知りたい?」ニコラスは自分の過去を振り返り、おそらく四分の一は聞かせるにふさわしくないという結論に至った。
 イザベラが内気そうにほほえんだ。「弟さん――グラフ、とおっしゃったかしら。子どものころは兄弟でどんな遊びをしていたの?」
 ニコラスは笑って身を乗りだし、肩でイザベラの肩をそっと突いた。「グリフだよ。だが|不機嫌《グラフ》のほうがあいつをよく表しているかもしれないな。とりわけぼくが勉強を邪魔したときのあいつを」
「グリフ。そうだったわ。わたしがそう呼んだこと、弟さんには言わないでくださる?」おずおずとした口調に、ニコラスは腹が立った。イザベラにではなく、冗談さえ言えなくなるほどこの女性を叱った人物に。
 ワインを飲むことと、愉快な話で笑うこと。この二つの目標を達成できたなら、本当の意味で妻をもっとよく知ることができるかもしれない。
 そうしたら――。いや、それについては考えまい。いまは子どものころを思い出して、妻に聞かせられる愉快な逸話を見つけなくては。
 どれほど妻を欲しているかでも、上品な寝間着の下をどれほど拝みたいと思っているかでもなく。
 それほど上品ではないこちらの寝間着の下を、どんなに見てほしいと思っているか、でもなく。
 どれもこれも、考えてはだめだ。
 ニコラスは不埒な考えを押しやって、しゃべりはじめた。「もう察しはついているだろうが、グリフはぼくより勉強好きで、なにかしらの餌で釣らないかぎり、いつまでも本にかじりついているような子だった。そこでぼくは歴史上のできごとをいくつか調べて、一緒に演じてみないかと提案した」
「いくつくらいのころかしら?」もうおずおずとした口調ではなくなって、楽しそうな声になっていた。妙なことに、ニコラスのほうも妻に思い出話を聞かせるのが楽しくなってきた。
「最初に始めたのは、ぼくが十二で、グリフは九つか十のときだった」首を倒してベッドのヘッドボードに頭をもたせかけ、天井を見あげて当時を思い返した。「グリフはイギリス初期の歴史に夢中だったから、ぼくたちはイングランド征服やマグナ・カルタやロビン・フッドをしょっちゅう演じた。ぼくはいつもウィリアム征服王を演じたが、毎回勝ちはしなかった」
「信じられないわ」イザベラが低く温かな声で言った。
 くそっ。こっちは紳士でいようとしているのに、向こうは男の自尊心をかきたてて、ほかにどんなことができるか披露したくなるようなやり方でほめるとは。そんなことをされたら、適切な言動をするべきだという思いこみを忘れさせて、男の口でのぼりつめるのがどんなものかを体験させてやりたくなる。
 激しい行為を終えたあと、心ゆくまで満ち足りた状態で一緒に横たわるのがどんなものかを。
 過去の女性たちには、そんなことをしてやる必要さえ感じなかった。だがいまは、切望していた。妻の耳元で甘い言葉をささやきたいくらいだった。
「グリフはぼくよりずっと賢い。ぼくには運動神経と度胸があるが、グリフは……」言葉を止めてくっくと笑った。「グリフは演説で木の皮を剥ぐこともできる」
「どういう意味かしら」イザベラが言った。
 ニコラスはますます笑った。「言葉どおりの意味さ。弟は口が達者なんだ」くそっ、口が達者だと? なんて思わせぶりな言葉だ。「かたやぼくが頼りにできるのは……まあ、なんだろうな」
「あら」イザベラが言って身を乗りだし、先ほどニコラスがしたように肩をぶつけてきた。「まるでほめ言葉を待っていらっしゃるみたい」
 ニコラスは手を伸ばして、妻の手を取った。「当然さ。男はみんな、自分のレディに認められたいものだ」
 イザベラは一瞬凍りついたようだったが、すぐにやわらかな息をもらした。それを聞いたニコラスの体には震えが走った。「わたしたちはお互いに、ありのままの自分でいるべきだ、とおっしゃったわね。相手を好きになれないこともあるかもしれないと」
「それほど共通点がないことがわかるかもしれない、と言ったんだ」ニコラスは訂正した。「その二つはまったく違う。もちろんきみがぼくを嫌いになる可能性はあるし、そうなったら困るが」
 そう言うと、ニコラスは思いきって、自身の鼓動が速まるような行動に出た。イザベラが怖じ気づくかもしれないと知りつつも、抑えられなかった。妻には‘これ’が必要で、ニコラスのほうは心から望んでいた。
 イザベラの手を離すと、片腕をあげて妻の肩に回し、やわらかな体をそっと引き寄せてから、そのままなでおろして細いウエストを抱いた。
 イザベラは温かくやわらかで、こうしているのがじつに正しく思えた。ニコラスは息を止めたまま、妻がまた凍りつきませんように、ぼくを拒みませんようにと祈った。
 そのとき、わずかではあるがイザベラの体から緊張が抜けたので、ニコラスはほっと息をついた。妻はニコラスの腕に寄り添い、もう一度ため息をついた。今度のため息は満足のそれに近いように聞こえた。
「あなたのことは嫌いではないと思うわ、ニコラス」イザベラが彼の胸のあたりでそっと言った。
 その瞬間ニコラスは、イギリスのみならず世界中までもたった一人で征服したかのごとき誇りに満ちあふれた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。