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貴婦人の条件

貴婦人の条件


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫ヒストリカル
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ポーラ・マーシャル(Paula Marshall)
 イギリスはレスターに生まれ、ノッティンガムで育つ。勤め先の資料図書館で同じ司書の夫と出会い、結婚。三人目の子が学校に入ったのをきっかけに英語の臨時講師として働きはじめる。その後、再び大学で歴史を学び、学士号を取得した。そこで得た知識を歴史ロマンスの執筆に役立てている。

解説

 亡き伯爵の遺言状が、今まさに読み上げられようとしている。後継者のジャックは、12年前に勘当されて行方知れず。莫大な遺産は、いったいだれが受け継ぐのか? ざわめく人々を、伯爵の養女キャスは部屋の隅でそっと眺めていた。親類に厄介者と呼ばれる彼女は、今日で屋敷を追われる運命なのだ。そのときひとりの男が現れて、全員が息をのんだ。ジャック……放蕩息子は生きていた。遺産も爵位も彼のものだ! だが驚きはそれだけでは終わらなかった――新伯爵はいきなり、キャスに結婚を申し込んだのだ。

抄録

「フィリップは……?」ジャックはキャスをあざけるような口調になった。「フィリップがどうしたんだ? なにが言いたいんだ?」
 キャスはかぶりを振った。「いいえ、彼がどうかしたわけじゃないの。ただ……」ちょっと言いよどむ。「あなたは無愛想だけれど、あなたのお父様やフィリップにはなかったやさしさがあるわ。それ以上は言わせないで」
 ジャックは黙っていた。それから衝動的な行動に出た。前かがみになると、片手を伸ばしてキャスの顔を自分のほうに引き寄せ、キスをしたのだ。初めは頬に軽く唇を押しつけただけだったが、そのうちに口が勝手に動きだし、彼女のやわらかな唇をとらえた。
 すてき! なんてすばらしいの! キャスには生まれて初めてのキスだった。彼の唇はとてもやわらかかった。ふたりの唇が触れ合ったところから小さな震えが走り、どんな女性も口にできない秘密の部分を通り、爪先まで小刻みに震わせた。まるで彼の手で全身を撫でられたような感じだった。
 ああ、なんてことだ! 頭のなかで大砲が炸裂《さくれつ》したようだ。ジャックは腿の付け根がこわばるのを感じた。こんな無分別な子供も同然の娘に欲望を覚えるとは。目的のために利用するだけの女だが、その純潔は踏みにじらないと誓ったはずだ。彼はキャスの寝巻きも脱がせ、ふたりで全裸でベッドに入り、ほんのはずみで自ら始めてしまったことを終わらせたくなった。彼女には兄と妹のようなキスをして、勇敢な彼女を慰めるだけのつもりだったのに、もう長いあいだ感じたことのなかった感覚がよみがえってしまった。
 ジャックは蜂《はち》のようにキャスの唇をむさぼった。まるで初めて好きになった少女にキスをする少年のようだった。楽しいはずの青春時代を奪ったこの十二年間が消えてしまった。純真無垢《むく》な少女にキスをする純情な少年……。
 彼はわれに返った。ぼくはジャック・デヴロー。冷酷で非情なジャック・デヴリンだ。悪名高い女たらし。自分のやりたいことを実行するためには、だれも、自分自身でさえ容赦しない。十二年前に大きなものを失ったが、それよりその後に得た性格や自尊心のほうがはるかに価値がある。
 ジャックはキャスから離れられなくなった。自制心はどこへ行ってしまったんだ? こちらを見る彼女の目は輝く星のようだ。彼女がジャックにしがみついてつぶやいた。「ああ、ジャック。ああ、ジャック」ぼくがその気になれば、キャスを思いのままにできる。そのとき、気高い心が叫んだ。だめだ。ほかのものを犠牲にしても、これだけは犠牲にできない。いま彼女をぼくの欲望の生け贄《にえ》にするわけにはいかない。
「恥ずかしい真似《まね》をしてしまった」ジャックはかすれた声で言った。「許してくれ」
「許してくれ?」キャスは阿片《あへん》チンキでものんだようにぼうっとした表情をしていた。「なぜそんなことを言うの? とても……すばらしかったわ。キスがこんなものだなんて知らなかった」
 ああ、だめだ、だめだ。無垢な彼女を汚してしまった。
 キャスはやめないで、と言いたかった。だが、若い淑女が、結婚しているといっても伯爵夫人となった女性が、そのようなことを口にすべきではない。人生でそうであるように、結婚生活においても男性がリードし、女性はそれに従わなければならないのだ。だれかに面と向かってそう言われたことはないが、想像はできる。それにさからってはいけないのだろうか。
 ジャックが急に体を離した。ワインの瓶が置いてあるところに行き、グラスにワインを注いで飲みほすと、中身が半分だけ残っている瓶を持ってキャスのところに戻ってきた。キャスは座ったまま、なにか悪いことをしてしまったんだわ、と考えていた。
 彼はわたしが取り引きを反故にするつもりだと誤解したかもしれない。慎重に行動しないと、罠《わな》にはめようとしていると思われる。でも、キスをしたのは彼のほうからで、わたしからじゃない。ああ、大人になって結婚するというのはむずかしいものだわ。正しくふるまうのは、子供のときほど楽じゃない。自分が子供だったときには、まわりの大人はなにをしゃべり、どうふるまうべきかを心得ていて、すべてが簡単そうに見えたのに。
 ところが、そうではなかった! 大人になると、すべてがむずかしくなる。デヴロー伯爵夫人のカサンドラでいることにくらべれば、カサンドラ・マートンの人生は子供のお芝居のようなものだった。
「ところで」ジャックはワインを飲んでもまったく酔わないようだ。「召使いに、なるほどと思わせる証拠を残しておかなければならない。あしたの朝、この瓶に残った赤ワインをシーツの上に垂らそう。ベッドを整えに来た召使いに、噂《うわさ》話の種を与えるのだ」
 キャスはうなずいた。ジャックの様子からすると、さっきのキスはなかったことにするつもりのようだ。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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