マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションハーレクインシルエット・ラブ ストリーム

消せない傷を抱いて

消せない傷を抱いて


発行: ハーレクイン
シリーズ: シルエット・ラブ ストリーム
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★☆☆☆1
◆レビューを書く

¥0サンプル
購入する


著者プロフィール

 ゲイル・ウィルソン(Gayle Wilson)
 あのリンダ・ハワードをして“絶妙な会話のセンスといい、個性豊かな人物設定といい、読者をストーリーに引き込むすべを心得ている”と絶賛せしめた実力派。ロマンティック・サスペンスと、十九世紀初頭の摂政期を舞台にした歴史ロマンスを書き分けながら、北米ではこれまで二十作以上の作品をハーレクインから刊行。ロマンス小説界の由緒あるRITA賞を二度も受賞したほか、数々の賞を獲得している。すでに独立した一人息子も教師となり、現在は夫と増え続ける犬や猫とともにアラバマ州に暮らす。ミニシリーズ『孤高の鷲』は元CIAエージェントのヒーローたちの孤独な闘いと真実の愛にたどりつくさまを描いた連作で、北米で大好評を博し、続編が次々と刊行されている。

解説

 情報分析官としてCIAに勤めるグレイスは上層部に逆らったばかりに中東の無法地帯へ赴くことになった。そしてヘリで視察中に銃撃に遭い、とらわれてしまう。幽閉された洞窟で、瀕死のパイロットの介抱をしながら、彼女の脳裏をよぎるのは、唯一愛した男性ランドンの面影だった。一度きりでいい。死ぬ前にひと目ランドンに会いたい。あきらめたはずなのに、封印してきた恋心はつのるばかりだ。その夜、肩を揺さぶられて彼女が目を覚ますと、眼帯をつけた屈強な男がかたわらにいた。救出のため、軍に送りこまれてきた精鋭の兵士だろう。でも面影が……。まさか!? グレイスは息をのんだ。
 ★リンダ・ハワードもその実力を絶賛するゲイル・ウィルソン。元CIAエージェントたちをホットに描いた人気ミニシリーズ『孤高の鷲』の最新作を2007年3月から二カ月連続でお届けしています。★

抄録

「時間だ」
 その声でグレイスは目を開けた。傍らにひざまずく男の、浅黒い細面を見上げていた。男の手はやはり、グレイスの肩に置かれている。
 彼の夢を見ていたのだった。どんなことが起こっていたのかは思い出せないが、重ねた唇が動く感触は覚えている。そして目を開くと、目の前にかがみこんだ彼の顔があって……。
 まだ夢にとらわれたままに違いない。わけもなくふと思い立ち、手を浮かせて、彼の上唇を縁取る見慣れない口ひげに触れた。思ったよりもずっと柔らかい。
 グレイスは、やはり予定にない行動に出た――親指で下唇をなぞったのだ。ときにはいかめしく引き結ばれる唇だが、そのふっくらとした豊かさが彼の本質を示していることを、グレイスは遠い昔に知っていた。
 その唇がグレイスの指の下で動き、口がわずかに開いた。一瞬、彼が親指にキスしてくるのだと思った――過去に何度となくそうしたように。しかし彼はそのままグレイスを見つめつづけていた。
 ランドンは、無意識に開いてしまったらしい唇以外、二度と身動きをすることはなかった。グレイスは彼の頬に手のひらを当てた。ランドンは顔をかすかにそむけて、グレイスの手が顔に触れないようにした。
 触れられたくないと思っているのは明らかだった。わたしには触れられたくないのだ。それは、彼がわたしを捜しに来た理由がなんであれ、かつてのような体の結びつきを求めているためでないのと同じくらいはっきりしていた。
 恥ずかしくてたまらなかったが、自分の行動を弁解しようにも、あなたとのエロティックな夢を見ている真っ最中に起こされたからだと説明する以外、言えることは思いつけなかった。グレイスは体を起こそうとして、全身の筋肉がこわばっていることに気づいた。
 山登りなどふだんはまったくやらないのだから、驚くには値しない。それでも、こんな状態で、ゆうべしたことをまた続けるのかと思うと泣きたくなった。しかし、ランドン・ジェイムズにそんな姿を見せる気はさらさらない。
「その変装、もうやめてもいいんじゃない?」グレイスは彼の右目を覆う眼帯を見た。「こんなところであなたの顔を見る人はいないわ。だいいち、そのままじゃ距離感覚がつかみにくいでしょう」
 彼は唇を閉じ、真一文字にきつく引き結んだ。そしてまた口を開き、冷ややかな声で言った。「どの変装だ?」
 返事をしそうになって、彼の言葉にからかう口調がまったくないことに気づいた。一つだけの黒い目がグレイスの目を見つめ、この話を続けるつもりなら続けてみろと挑んでいる。
“どの変装だ?”ですって。そんな質問、無意味だ。だが、もし……。
 グレイスは目をそらして、今明らかになった事実を理解しようとした。それが、ここアフガニスタンで彼の身に起こったことの一つなの? 対外安全対策チームが解散させられないうちに、CIAを去ることになった理由の一つ?
「残っているのを全部飲んでしまえ」ランドンは言い、グレイスが枕にしていた革袋に向かって首を傾けた。
 またもや、ばかばかしいことに、つい拒否することを考えた。しかし、素直にキャップをはずして、残っていた水を角製のカップに注いだ。
「あなたは?」口元にカップを運ぶ前に、彼に尋ねた。
「自分のがあるからいい」
 グレイスは、ランドンが肩にかけた、まだふくらんだままの革袋をじっと見た。ゆうべと同じくらいのふくらみ方に見える。もしも彼が自分を犠牲にして、グレイスのために水を節約しようとしているとすれば――。
 この先に待ち受けている困難について、彼は、話してくれたこと以上の何かを知っているに違いない。下ってしまえばそれで終わりというのであれば、水は二人分たっぷりあるのだから。
 グレイスは尋ねはしなかったが、ランドンは山道に衣類や水の革袋を隠しておいたように、山のふもとになんらかの移動手段を手配しておいたのではないかとずっと考えていた。手配していないのなら、つまり、わたしに国境を徒歩で越えさせる気なら、わたしは自分の体力と気力を限界まで振りしぼる必要がある。
 グレイスは顔を仰向けてカップの水を飲み干した。そしてふたを戻し、山羊革の袋を彼に向かって差し出した。ランドンはそれを受け取って、張り出した岩の奥深くに押しこむと、グレイスに向かって手を突き出した。
 彼の唇に指を這《は》わせたあとだというのに、まるで思春期の少女のように手を取るのを拒むなんてばかげている。それに、脚と背中の筋肉の痛み方からすると、文字どおり手を貸してもらわないと立ち上がれないような気がした。
 グレイスは手を伸ばして、彼の手のなかに自分の手を差し入れた。彼の手は、見た目になんの苦もなく、やすやすとグレイスを引き上げた。
 彼に起こされてから初めて、暮れていく空に意識が向いた。ランドンは“日が沈むまで”といった言葉を守った。日中、容赦なく照りつけた太陽は、今山の稜線に沈みつつある。まもなく荒野の夜特有の冷えこみが始まり、今日の暑さの記憶も空想だったかのように思えるだろう。
 闇《やみ》のなかを移動するのは、さまざまな意味で楽だろう。とりわけ、彼の顔に触れたとき、あの黒い瞳のなかに見えたものを、もはや見なくてすむ。


*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。