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あの日の風が恋しくて

あの日の風が恋しくて


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:800pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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解説

 ★私たちは大人になって、再び出会う運命だった――傷ついた心をかかえて。S・ウィッグスが繊細に描く、コンテンポラリー・ロマンスの極地!★
 海辺のイタリアンレストラン〈セレスタズ〉の閉店が迫った時刻に、一組の客が店に入ってきた。夏になるとこの地方を訪れる東海岸のセレブ、別荘族のグループだ。その中の一人の視線に、レストランオーナーのローザは凍りついた。アレックス・モンゴメリー――昔、庭師の父が通っていた別荘のお坊っちゃま、そして幼いローザの、夏の間だけの親友。二人がティーンエイジャーになったとき、その友情は未熟な愛情へと形を変えた。直後に引き裂かれる運命だとは知る由もなく……。予期せぬ再会に、ローザの胸に忘れたはずの痛みが走った。

抄録

 アレックスはローザからトレイを受けとり、白く塗ったコーヒーテーブルに置いた。そして彼女の手をとってソファーに導き、ぎこちない瞬間を軽くいなした。
「ありがとう」ほほえんで言うが、その顔は少しつらそうだ。顎が目に見えて腫《は》れている。
「どういたしまして。顎はいかが?」
「平気さ」コーヒーをひと口飲むと、アレックスの顔に喜色が広がった。「最高だよ」
 リラックスなさい、とローザは自分に命じた。ただコーヒーをほめただけよ。「ありがとう」そう言ってから続ける。「ジョーイに望遠鏡を貸してくれたこと、お礼を言いたいと思ってたの」
「貸したんじゃない、あげたんだよ」
「貴重なアンティークなんでしょう?」
「本来の目的で使われなければなんの価値もないさ。彼は情熱を傾ける対象を見つけたんだ。その気持ちを大事に育ててやろう」
「あの子はまだ子どもよ。壊すとか、質に入れるとか、ネットオークションにかけるとかしたらどうするの?」
「それは彼の自由だ。条件なんていっさいつける気はないよ」
「ありがとう。パパの話だと、ジョーイはあれを分解して部品の整理を始めたそうだわ。この夏の一大事業になりそうよ」
 心地よい沈黙が二人を包んだ。意外なほどの心地よさだった。だからアレックスの次の質問には不意をつかれた思いがした。「何を考えているんだい、ローザ?」
 その問いに嘘《うそ》をつくこともできたけれど、ローザは昔から嘘がへただった。「あなたといっしょだと居心地がいいと思っていたの。少なくともいまはね」
「それには理由があるんだ。ぼくたちが二十年来の知りあいだからなのさ」
 ローザは深々と息を吸いこみ、ここに彼を呼んだのはわたしなのだと自分自身に言い聞かせた。まったくなんてすばらしいアイディアだったのか。目をつぶると古傷がうずきだすようだ。アレックスはかつてその手にわたしの心をつかみとっていた。たぶんそのせいで最後には裏切られたような気分になってしまったのだろう。
 静寂の中でボッチェリの声がドラマティックに高まった。ローザは目をあけ、カップごしにアレックスを見た。アレックスは{君と旅立とう《コン・テ・パルティロ》}にうっとりと聞きほれているようだ。見たところは。
「きみはイタリア語も勉強したのかい?」とアレックスは尋ねた。「つまり、聴講生として」
「もちろん」
「コン・テ・パルティロ。“さよならの時間《タイム・トゥ・セイ・グッバイ》”だ」アレックスはかかっている曲の英語タイトルを口にした。
 ローザは片方の眉をあげた。「この曲を知ってるの?」
「ぼくもこのCDを持ってるんだ」
 たぶんローザが不安になってきたのはこのときだったのだろう。自分が再び彼を愛しはじめたのを自覚してしまったのだ。
 動揺が彼女を襲った。彼を愛する? アレックス・モンゴメリーを愛するのは暗闇《くらやみ》の中で崖《がけ》から足を踏みだすようなものだ。理性ある女ならそんなことはしない。
 だが、ローザは自分をとめられなかった。
 恐ろしい実験に使われるねずみのように、痛みのもととなるものへと、つい戻ってしまう。
「大丈夫かい?」アレックスが訊いた。
「大丈夫じゃないわ」ローザはおぼつかない手つきでカップとソーサーをテーブルに置いた。
「どうしたんだ?」
「あなたをここに呼んだのは間違いだったわ。悪いけど、もう帰って。要するに、“さよならの時間”ってことだわ」
「うちに来いと言ったのはきみのほうだよ」
「だからそれが間違いだったの。そんなことは言うべきじゃなかったんだわ」
 アレックスは彼女の手をとり、柔らかなまなざしで言った。「ぼくがこうしてここにいたって、この世の終わりってわけではないだろう?」
 彼の手をふりほどくのは狭量でばかげているとわかっていた。それにふりほどきたいとも思わない。いまのローザは魅入られたように、崖から未知の世界へと落下を続けていた。アレックスには彼女を助けることはできない。助けるどころか、彼女の背を押したのがアレックスなのだ。
 彼はローザの顎に片手を添え、唇と唇が触れあいそうになるくらいそっと持ちあげた。ローザの動悸《どうき》が激しくなり、背筋を戦慄《せんりつ》が駆けぬけた。
 キスして。心の中で必死に叫ぶ。キスして、キスして、キスして。
 だが、してはもらえなかった。ローザの心の叫びはアレックスには聞こえず、ローザも口に出して言う度胸はなかった。
 ときには高いところから落ちるのも面白い、と彼女は思った。地面に激突するまでは。
 こんなことをしてはいけない理由をひとつひとつ思いかえす。アレックスは昔のガールフレンドを追いかけることでこの夏の時間をつぶすつもりなのだろう。婚約解消やら母親の死やら十年間も手つかずだった家の整理やらの反動なのだ。ローザにちょっかいをかけることが彼にとってはいい気晴らしになるのかもしれない。
「コーヒーを飲み終えるまではいてもいいわ」ローザは自分がそう言うのを聞いた。
「ぼくは飲むのが遅いんだ」
 ローザは彼に握られた手を見おろした。「こんなことをしてうまくいくなんて、なぜ思うのか理解できないわ」
「ひょっとしたら、うまくはいかないかもしれない。だが、うまくいく可能性だってあるんだ」アレックスは彼女の手を放し、もっと困った行動に出た。彼女の体に両腕をまわしたのだ。「きみに話したいことがあるんだよ、ローザ。きみと最後に過ごした晩のことだ」


*この続きは製品版でお楽しみください。

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