マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン文庫

愛しすぎて…

愛しすぎて…


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 未評価
◆レビューを書く

¥0サンプル
購入する


著者プロフィール

 シャロン・ケンドリック(Sharon Kendrick)
 ウエストロンドン生まれ。写真家、看護師、オーストラリアの砂漠での救急車の運転手、改装した二階建てバスで料理をしながらのヨーロッパ巡りなど、多くの職業を経験する。それでも、作家がこれまでで最高の職業だと語る。医師の夫をモデルにすることもある小説のヒーロー作りの合間に、料理や読書、観劇、アメリカのウエストコースト・ミュージック、娘や息子との会話を楽しんでいる。

解説

なぜステファノがここに?クレシダは舞台の上で凍りついた。客席に別居中の夫がいるのだ。ハンサムな顔に冷笑を浮かべて。熱烈に愛しあった果てに、イタリア人実業家の彼と結婚したとき、クレシダは自分を世界一幸せな花嫁だと思った。だが、それは幻想にすぎなかった。別居するまでの1年半の間、多忙な夫の顔を見るのはほとんどベッドの中だけだったのだから。もう愛していない――そう思っていたのに楽屋で彼に求められ執拗に唇を奪われると、痺れるほどの悦楽が彼女の中を貫いた。「あなたはけだものだわ」クレシダは必死に拒んだが……。

抄録

 ステファノはゆったりと狭い戸口に立っていた。まるで、ここにいるのが当然の権利だとでもいうように。いかにものんびりしているように見えるが、なめらかな褐色の肌の下で彼の筋肉が張りつめているのが、クレシダにはよくわかっていた。
 見かけは、二年前とほとんど変わっていない。顔の線がわずかに厳しくなったようだが、それほど大きな違いはなかった。あのころも、彼の顔には柔らかさなどなかったのだから。当時から目は厳しく鋭く光って、何もかも見すかすようだった。ととのった唇には、いつも皮肉な笑みが浮かんでいた。彼にも無邪気で屈託のない少年時代があったとは、とても信じられない――彼はいつだって、自分のほしいものがなんなのかちゃんと知っている、静かでそっけない男だった。クレシダは、ステファノがここに来たわけを探ろうとして、冷酷な焦げ茶色の目をのぞきこんだ。けれど、何もわからない。ただ、昔を思い出させるたったひとつの感情が浮かんでいるだけだった。欲望という感情が。
 クレシダは必死に冷静さをたもとうとした。ここはイギリスの大都会の真ん中にある劇場なのよ。仲間たちがたくさんいるわ。文明から隔絶されたイタリアの山のなかの小屋にいるような気分にさせられたとしても、実際にはそうじゃない。ちょっと大きな声を出すだけで、すぐに誰かが駆けつけてくれる。そしてステファノは地位も名誉もある実業家だから、そんな騒ぎをマスコミに知られたくはないはずだ。
 彼もその辺は心得ているようだった。いまステファノは、しゃくにさわるくらい楽しげな表情を浮かべて、クレシダを見つめていた。
「ずいぶん腹を立てているようだな」オリーブ色の肌に映える真っ白できれいな歯の上に、ちらりと舌がのぞいた。「その顔が好きなんだ。君はよくそんな顔をしていた。以前僕たちが……」
 クレシダのほおが真っ赤になった。両手で耳をおおいたくなるのをこらえるのがせいいっぱいだった。「やめて!」クレシダは叫んだ。それ以上聞きたくなかった。あのころのことを思い出せば、自分をコントロールできなくなってしまう。「あなたが離婚を認めないとしても、それはあなただけの問題よ。現実には、もう離婚が成立するんですもの。イギリスの法律でね」クレシダはついに心を決めて問いただした。「どうしてここへ来たの?」そして返事を待ちうけるように彼を見つめた。が、ステファノは何も言わない。
 沈黙が続き、焦げ茶色の目がゆっくりとクレシダのからだを眺めまわした。はじめは冷淡な目つきだったが、やがて彼の目は、水着のワイヤーで持ちあげられた胸に留まった。視線はそのまま下がっていく。引きしまった下腹を見て、目がきらりと光った。そしてむきだしの腿の柔らかな曲線をじっと見つめたとき、その目がいっそう輝きを増した。
 彼の無礼な視線に、クレシダのほおがかっと熱くなった。彼女はステファノがいちばんいやがるはずの言葉で応酬した。「もう充分にごらんになった?」
 ステファノの唇が皮肉っぽくゆがんだ。「いや、まだだ。でも、これは……これは……」ふいに彼は何かイタリア語で、吐き捨てるようにつぶやいた。
「なんて言ったの? わからなかったわ」
 ステファノが怒ったように目を細めた。「たぶん、英語で言えば、観淫症というところだろうな」
「観淫症ですって? いったいなんの話?」
「観客さ。君を見て楽しむ連中のことだよ」
 クレシダは声をたてて笑った。「まあ、ステファノ……私はべつに見苦しい格好をしているわけじゃないわ」
「気に入ってるのか?」ふいにステファノが、ぞっとするほど静かな声できいた。
 クレシダはあっけに取られた。「何が?」
「男たちさ……君のからだを眺めて、ベッドに連れこみたいと考える連中のことだ。それが嬉しいのかい? そうなのか?」
 クレシダが否定しようとした瞬間、ステファノが彼女の腕にふれた――軽いふれ方だったが、その下に鋼のような強さが隠されているのがわかった。
「そうなのか? そんな連中に……胸を見られたいのか?」ステファノがもの憂げとも見えるしぐさで片手を伸ばし、クレシダの胸を包みこんだとき、彼女は息をのんだ。何もかも知りつくした巧みな愛撫に、クレシダのからだを歓喜が走りぬけ、膝から力が抜けていく。あれからもうずいぶん時がすぎたのに。ずいぶん……。
 彼の指が、口の代わりに言葉を語りかけてくる。やがてステファノはクレシダの首筋に唇をつけ、ゆっくり心ゆくまで口づけをした。それから優しく官能的に耳たぶを口にふくみ、とうとう最後には彼女の唇をとらえた。クレシダと同じように彼も欲望の虜になっていると感じさせるようなキス。自分自身の弱さを呪いながらも、いつしかクレシダはすっかりキスに夢中になっていた。長い間欲望を抑えつけていた反動で、まるでこの瞬間だけがただひとつの真実のような気がした。
 結婚生活が最悪の状態のときでさえ、ステファノはクレシダからこんな反応を引き出した。彼はクレシダの先生であり、指導者であり、主だった。愛の技巧をクレシダに教えこんだのはステファノで、彼女からこんな反応を引き出せるのも彼だけだった。


*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。