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アンダルシアの休日【ハーレクイン文庫版】

アンダルシアの休日【ハーレクイン文庫版】


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 アン・メイザー(Anne Mather)
 イングランド北部の町に生まれる。息子と娘、二人のかわいい孫がいる。自分が読みたいと思うような物語を書く、というのが彼女の信念である。ハーレクイン・ロマンスに登場する前から作家として活躍していたが、このシリーズによって、一躍国際的な名声を得た。

解説

カッサンドラは大資産家の息子に求婚されるが、彼の兄のエンリケに恋してしまう。しかしそれは、結婚を阻止するための罠だったのだ。スペインの旧家デ・モントーヤ家出身のエンリケは、彼女を金目当てのふしだらな女だと決めつけた。罠に気づいたときは、抗しきれず身をまかせたあとだった。男性に幻滅したカッサンドラは妊娠したことさえ告げず、彼の一族と関わりを絶った。二度と会うこともないと思っていた。だが、運命はいたずらにふたりを引き寄せる。その10年後……。
*本書は、ハーレクイン・リクエストから既に配信されている作品のハーレクイン文庫版となります。ご購入の際は十分ご注意ください。

抄録

「あなたってほんとにひどい人ね!」
「嘘つきのほうがもっとひどいよ。さあ、乗って」助手席のドアをさっと開けた。
「いやだと言ったら?」
 彼はまばたきもせずカッサンドラを見据えた。「お互いに時間の無駄になるだけだ。話し合う必要がある。僕は内輪の恥を世間にさらしたくない」さっと車のドアを開け、彼女が乗るのを待った。
 カッサンドラは憤然と乗り込んで、日焼けした素足を惨めな思いで見下ろした。エンリケのほうは運転席に長身を納めた。
「そんな心配そうな顔をしなくてもいいよ、カッサンドラ。僕はかみついたりはしない」
「ほんとうに?」二人の視線がぶつかった。エンリケが先に目をそらせた。カッサンドラは切ない思いに胸を突かれた。彼も私と同じことを思い出していたのだろうか……。苦い思い出ばかりなのに、いまだに彼を見るとときめきがわき起こる。そんな自分に嫌悪感を覚えた。
 エンジンの音に、カッサンドラはぎょっとして我に返った。「何をするつもり?」
 エンリケは肩をすくめると、バックミラーをのぞいてチェックした。「ここにただ座って話をするとでも思っていたのかい?」
「もちろんよ。私はトゥアレガになんか行かないわ」
 エンリケは短く笑って駐車場から車を出した。「僕も招待した覚えはないよ。バーへ行こう、誰も僕たちの顔を知らないような店に」
「とにかく、早く話をすませてしまいたいわ」
 彼がそっけなく応じた。「それは無理な相談だな。そもそも君は、自分勝手な秘密を守りたかったのなら、僕の父に手紙を書くべきじゃなかったんだ」
「私が書くわけないでしょう!」
「まあね。僕も今ではそうだろうと思っている」
「今では? じゃあ今までは、私が書いたと思っていたということ?」
 エンリケは肩をすくめた。「当然だろう」
 カッサンドラはあきれて彼を見つめた。「あなたやお父さまに私が何かを求めるだなんて、本気で思っていたの?」彼が答えないので、カッサンドラはぞっとした。私は相変わらず欲深な女に見られていたのだ! 財産目当てでアントニオをたぶらかした女だと……。
 胸をナイフでえぐられたような痛みが走った。カッサンドラは思わずドアの取っ手をつかんだ。メルセデスがすでにプンタ・デル・ロボを出て、時速六十キロで走っていることも、彼女の意識にはなかった。一刻も早くエンリケのそばから離れたい。それしか頭になくて、ドアの隙間から吹き込んできた風に頭がくらくらした。
 いきなり手が伸びてきて彼女の腕をわしづかみにし、座席に引き戻した。同時にメルセデスは急カーブを切って海岸通りから飛び出し、砂地に突っ込んで急停止した。そこは崖の上だった。
「|気でも狂ったのか《エスタス・ロコ》!」エンリケがスペイン語を使ったことが、彼のショックの大きさを物語っていた。だが、振り向いたカッサンドラの涙に濡れた顔を見て、彼の表情が曇った。「まともじゃないよ、君は」珍しくかすれた声でつぶやくとエンジンを切り、急にドアを開けて外に出ていった。
 エンリケは崖っぷちまで行ってたたずみ、海をにらんだ。ゆったりしたコットンのズボンが、暖かい潮風にはためいている。きっと私が落ち着くように時間をくれたのだ。カッサンドラは我に返ってそう思ったが、エンリケ・デ・モントーヤの本性が垣間見えた気がして、落ち着きを取り戻すどころではなかった。彼は、悠然とした物腰だけではおおい隠せない、激しい気性の持ち主なのだ。高速道路であんな急カーブを切って、危ないところだった。エンリケは命がけで私を救ってくれたのだ。彼が止めてくれなかったら、私はどうなっていたことか……。
 いったい私は何を考えていたのだろう。自分の愚かさが実感となって広がり、全身が震えだした。走る車から飛び降りたりして私に万一のことがあったら、誰がデヴィッドを育てるというの。私の家族が親権を主張しても、負けるのは目に見えている。
 逆にエンリケは、なぜ私を飛び降りさせなかったのだろう。彼は今、そうすればよかったと後悔しているのだろうか。いや、そうは思えない。
 カッサンドラは深呼吸をしてからドアを開け、車から降りた。ふらつく足を踏み締めてエンリケのそばへ行くと、強い潮風が吹きつけてきて髪をかき乱した。彼女は髪を押さえながら、エンリケのこわばった横顔を見つめた。
「ごめんなさい」しばらくして言った。
「車に戻るんだ。僕もすぐに行く」エンリケは振り向きもせずに冷たく答えた。
 カッサンドラは唇をかんだ。「あなたの言うとおりよ。あんなばかなことをして、あなたまでいっしょに命を落としていたかもしれない」
 ようやくエンリケが顔を向けた。感情のうかがえない、ぼんやりとした表情だった。「忘れるといい。僕はもう忘れた」
「あなたは、いやなことをなんでも都合よく忘れられるの?」声が震えた。
「僕は何一つ忘れてはいない」荒々しい口調に一変し、カッサンドラはたじろいだ。
「忘れずにいて、よく自分に我慢できるわね」言わずにはいられなかった。
「まったくだ」エンリケはスペイン語でつぶやき、車のほうへ戻っていった。「行こう」


*この続きは製品版でお楽しみください。

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