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求婚のゆくえ

求婚のゆくえ


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ニコラ・コーニック(Nicola Cornick)
 イギリスのヨークシャー生まれ。詩人の祖父の影響を受け、幼いころから歴史小説を読みふけり、入学したロンドン大学でも歴史を専攻した。卒業後、いくつかの大学で管理者として働いたあと、本格的に執筆活動を始める。現在は、夫と二匹の猫と暮らしている。

解説

 レベッカの乗った馬車が一時停止したとき、半裸の若者が馬車に転がり込んできた。仲間と悪ふざけに興じた末に、売春宿から逃げ出してきたという。若者を家まで送り届けると、その兄のルーカスが現れて、冷ややかなまなざしで値踏みするようにレベッカを見た。そして、彼女が弟を誘惑し、金を巻き上げようとしたとなじった。こともあろうに、レベッカを売春婦と勘違いしたのだ! ルーカスのぶしつけな態度は我慢がならなかったが、その一方で、レベッカは不思議なときめきを覚えた。興奮と不安がないまぜになったこの気持ちは何かしら……。
 ★放蕩貴族と淑女の恋のゆくえは? そして、イギリスの国家機密をフランスに売り渡していた人物の正体とは? ★

抄録

 ルーカスは両目を細めて彼女の顔を見据えた。「馬車から降りるんだ、ミス・ローリー」さっきより強い調子で言った。
「いいえ、遠慮いたします」レベッカも繰り返した。「レディたるもの、お会いしたばかりの紳士のお宅にひとりで入るなどというまねはいたしかねますもの」
 ルーカスは唇を真一文字に結んだ。御者に何やら声をかけると、勢いよく馬車に乗り込んできて、扉をばたんと閉めた。そのとたんに車内が狭く息苦しくなったように感じられた。レベッカは半裸のスティーヴン・ケストレルを見てもたじろがなかった。だが、相手がルーカス卿となると、話は別だ。彼は服を着ていようといまいと、ひたすら脅威を感じさせる。レベッカは不規則に脈打つ心臓を落ち着かせようとした。
 敷石を蹴《け》る蹄《ひづめ》の音が響いたかと思うと、馬車がいきなり動きだした。レベッカは動揺のあまり胸がざわざわしたが、再び緊張を静めようとした。穏やかならざる状況になってきた。〈アークエンジェル・クラブ〉の使用人は紳士の命令につべこべ言わずに従うのが常で、それで高給を得ている。あるいは、ルーカス・ケストレルはクラブの会員かもしれない。だとしたら、わたしが大声をあげたり、馬車を戻すように言ったりしても、御者はたぶん取り合わないだろう。
 そんな想像をしているのを顔に出すまいという努力もむなしく、心の内が表情に表れてしまったにちがいない。ルーカス・ケストレルは片手を彼女の前に出し、すらすらと言った。
「心配には及ばない。きみがうちの屋敷に寄ってくれないから、わたしがきみの馬車にお邪魔するほうが話が早いと思ったのだ。御者には、馬の体が冷えないように、しばらくあたりを走ってくれと言っただけだ。きみが協力してくれれば、すぐにすむ」
 ルーカスの口調は落ち着いている。だがレベッカは、言葉の端々に脅すような響きがあるのを聞き逃さなかった。あごをつんと上げて青い瞳に怒りをにじませながら、彼女も辛辣《しんらつ》な口調で言った。
「どのように協力すればよろしいのでしょうか?」
 質素なボンネットの下にのぞく赤褐色の髪から、薄黄色のハーフブーツに隠れた足まで、ルーカスはレベッカの全身を物憂げなまなざしで眺めた。無礼きわまりない視線にさらされ、彼女はむっとした。放蕩者にぶしつけにじろじろ見られても我慢することに慣れていない。
「いろいろな協力方法が考えられるな」ルーカスはつぶやいた。「だが、今のところは弟のことだけを問題にしようと思う。あくまで、今のところはね」
 彼の言葉に、レベッカの顔に怒りの色が浮かんだ。今度は彼女のほうがルーカスを厳しい目で見つめたが、それは間違いだった。彼に目を向けたが最後、視線をそらせなくなったのだ。

 ルーカス・ケストレル卿は印象的な顔立ちをしている。ほっそりとして、肌は日に焼け、頬骨が高い。髪はほとんど茶色に見える暗褐色で、はっきりした眉の下の瞳は濃いはしばみ色だ。世間一般で言うハンサムではないけれど、すべての要素が合わさるとかなり独特で、強い印象を与える。レベッカはこのまま彼を見つめていたいと思った。それは、彼がどきりとするほど魅力的だからというだけではない。ガラス彫刻師として生計を立てている彼女は、際立ったイメージを見分ける目を持っている。ルーカス・ケストレルはガラス彫刻師が夢中になるような、角ばった力強い線を持った顔をしていた。引き締まった体のほうも優雅さをそなえていて、そのまま彫像や絵画になりそうだ。衣服を身につけていなかったら、このたくましい体はうっとりするほどすばらしいだろう……。レベッカは、温室にでも閉じ込められたように全身がほてった。いつもなら、こんなふうに男性に即座に反応することはない。画家にしろ、彫刻家にしろ、ガラス彫刻師にしろ、芸術家なら誰であれ、人体を芸術のフォルムとして見るのが癖になっている。完璧に醒《さ》めた目で見るのが習慣になっているのだ。しかし、今のレベッカのルーカス・ケストレルに対する反応は、“醒めた”という言葉で表せるものではなかった。
 ルーカスは物問いたげに片方の眉を上げ、口元に笑みを浮かべてレベッカを眺めている。彼女が何を考えているのかわかっていると言いたげだ。じっと見つめていたのを彼に気づかれて、レベッカは意識するよりも、いらだちでかっとなった。
「確かに、あなたは弟さんのご心配をなさるべきですわ」レベッカは動揺を取り繕うためにぴしゃりと言い返した。「いい若者がクラブで酔っ払い、仲間と悪ふざけに興じて、町じゅうを騒ぎ回り――」
「挙げ句の果てに〈アークエンジェル・クラブ〉の売春婦の腕に抱かれて、馬車の中でみだらな行為にふけるとは」ルーカスはレベッカの言葉を引き取って穏やかに言った。「そのとおりだ、ミス・ローリー。ところで、ミス・ローリーというのは本名なんだろうね。いずれにせよ、わたしもきみと同じ意見だ。スティーヴンの行状は憂慮すべき問題だ。男の子というのは悪さをするものだが、スティーヴンには大天使《アークエンジェル》の魔の手にかかるよりも、別のところで羽目を外してくれたほうがまだよかった。天使にかかったら、彼は身を滅ぼしてしまう」
 激しい怒りに駆られて、レベッカは思わず我を忘れそうになった。深呼吸して気を静めると、再び口を開いたときには、ありがたいことにほぼ平静な声を出すことができた。
「あなたはいくつか思い違いをなさっているようですわ。あなたの弟さんに初めてお会いしたのは、つい三十分前、彼がボンド・ストリートでこの馬車に乗り込んできたときです。お友達のせいで売春宿に置き去りにされたというお話だったので、ご自宅まで送ってさしあげることにしただけです。わたしたちの関係はそれだけですわ」レベッカは挑むようにルーカスを見た。「ほんの短い間だけでしたけど、それでも、あなたよりスティーヴン卿と一緒にいるほうがずっと好ましいのは確かですわね!」
 ルーカスは声をたてて笑った。「そうだろうな。スティーヴンは、きみの目にはとびきり魅力的に映ったことだろう。ところがわたしは、彼など足下にも及ばないほど広く世の中を見てきているから、単純でだまされやすい若造ではない」
 またしても彼は値踏みするような目でレベッカを見つめた。流行遅れの厚ぼったいウールのドレスに覆われた胸のふくらみを眺めてから、再び唇に視線を移し、不愉快になるほどじろじろ見ている。
「いくらでスティーヴンの相手をしたんだ、ミス・ローリー?」ルーカスは穏やかな口調で尋ねた。「百ギニーか?それとももっと高いのか?きみの値段はいくらだ?」
 レベッカは激しい怒りを感じながら、肩をすくめた。「あなたの判断力は、ご自分でおっしゃるほどではありませんね」彼女はようやく言葉を振り絞った。丁重な物言いをするのはひと苦労だったが、長年にわたっておじの得意先の応対をしてきたおかげで、どうにか感情を抑えることができた。「売春婦と伝統工芸職人の違いがわからないような紳士なんて、審美眼がないにもほどがあるわ」

*この続きは製品版でお楽しみください。

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