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愛は強制捜査で暴かれる

愛は強制捜査で暴かれる

著: 小野田五月
発行: イースト・プレス
レーベル: アズ・ノベルズ



解説

 新人挿画家の由宇斗を幼い頃から見守り続けてきた二人の男……IT業界の覇王こと高津、そして検事の成瀬。彼らは夭逝した由宇斗の兄・可威斗の幼なじみだった。かつて可威斗と共に企業を興し、業界トップにまで押し上げた辣腕、高津……だが、由宇斗が密かに想いを寄せる成瀬が東京地検に異動となった時から、運命の砂時計は零れだして……。捩れていく三人の関係と捜査の行方……。哀切のサスペンスフルラブ★

※イラスト 羽田共見
※こちらの作品にはイラストが収録されていません。

抄録

「……ねえ」
 ほんの束(つか)の間躊躇った後で、由宇斗は清水(きよみず)の舞台から飛び降りる覚悟を決めた。
「うん?」
「何も言わないで、黙って聞いてくれる?」
「なんだ?」
 怪訝そうな顔で成瀬が聞き返してくる。
「僕ね、今度成瀬さんが東京に戻ってきたら、絶対に言おうって心に決めていたことがあるんだ」
 一度だけ大きく深呼吸をしてから、由宇斗は思いきって胸の中で暖め続けてきた言葉を口にした。
「好きだよ、成瀬さん」
 言ったとたん、全身から力が抜けそうになった。
「……………」
 成瀬はと言えば、まるで理解不能な外国語でも聞いたかのように固まっている。
「僕は成瀬さんが好き……兄さんの親友だとか、気にかけてくれる身近な人とかって意味だけじゃなく……判る?」
「………………」
 挫(くじ)けそうになるのを懸命に踏ん張って、まっすぐ見つめながら告げる由宇斗の前で、やはり成瀬はしばらく沈黙したままだった。それでも、見返す目の中に侮蔑(ぶべつ)や嫌悪の色は浮かんでこない。罵倒(ばとう)されることも覚悟していた由宇斗にとって、黙って聞いてくれるだけでもありがたかった。
「僕はね、子供の頃からずっと成瀬さんが好きだったんだ……ほとんど覚えてない父さんの代わりだとか、死んじゃった兄さんの代わりだとか、そう思おうとした頃もあったけど……」
 この際だから吐き出すものはすべて吐き出させてもらおう。由宇斗はそう思って言い続けた。
「成瀬さんが検事になって、転勤続きで滅多に会えなくなったのは寂しかったけど、考えるにはちょうどいいチャンスだった。一時の気の迷いとか、思い違いだったりしたら、会えない間にそうだと気づくでしょ? その間、成瀬さんへの気持ちがなんなのかずっと考えてきた……真面目に、真剣に考えて、考えて、そうして判ったんだ……誰の代わりでもない。成瀬紘一郎っていう一人の人間に、僕は恋してきたんだって」
 言葉を尽くして思いを伝える由宇斗を無言で見返し、やがて成瀬はテーブルに肘(ひじ)をついて頭を抱え込んだ。
「……由宇斗……」
 呻(うめ)くような低い声が聞こえてくる。
「ごめんね。男の僕から告白されて、成瀬さんが困るのはわかってるんだけど……でも、黙ったままで後悔したくなかったんだ」
 困惑している成瀬の心中が手に取るように判る。けれど、彼の口から非難の言葉は出てこなかった。
「なんで、俺なんだ」
 額に手を当てて唸(うな)る成瀬は、まさに困り果てている様子だった。
「どうしてなんだろうね。僕にもよく判らない……でも、誰かを好きになる時って、そういうものじゃないかなって思うんだ。何かの本で読んだことがあるよ。理由の必要な恋は本当の恋じゃないって」
 どんな本だったのか覚えていない。成瀬もそんな本は専門外で知らないだろう。けれど由宇斗は真実だと思っていた。それに自分でも言った通り、己の心を偽ったまま生涯を終える気になれなかったのだ。父は交通事故というアクシデントだったが、母も兄も不治の病に罹(かか)って呆気(あっけ)なく早世してしまった。ならば同じ遺伝子を受け継いでいる可能性の高い自分も、残された人生に余裕があるとはかぎらない。由宇斗が告白しようと決めたのは、そんな現実を認めた時だった。
「でも、応えて欲しいなんて高望みはしないよ。だから安心して」
「由宇斗……」
「僕の気持ちだけ判ってもらえたらいいんだ……軽蔑する? 男のくせにって」
「…………いや」
 ようやく顔を上げた成瀬は、深い溜息をつきながら首を横に振った。
「本当に?」
 嫌われることも覚悟していたので、由宇斗が少し安堵したような表情を見せる。この時ばかりは成瀬が懐の深い人間だったことを、普段はそれほど信じていない神様に感謝したい気分だった。
「よかった。こんな気持ちを打ち明けたら、もう口もきいてもらえないかもしれないって覚悟していたから……だったら、今まで通り僕と会ってくれる? 成瀬さんの時間が空いた時だけでいいんだ」
「………………」
 由宇斗の言葉にしばらく応えなかった成瀬は、やがて大きな溜息を吐き出して再び頬杖をついた。
「まいったな」
 低い呟きに由宇斗が「え?」と首を傾げる。

*この続きは製品版でお楽しみください。