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淑女と娼婦

淑女と娼婦


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫ヒストリカル
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆1
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著者プロフィール

 ニコラ・コーニック(Nicola Cornick)
 イギリスのヨークシャー生まれ。詩人の祖父の影響を受け、幼いころから歴史小説を読みふけり、入学したロンドン大学でも歴史を専攻した。卒業後、いくつかの大学で管理者として働いたあと、本格的に執筆活動を始める。現在は、夫と二匹の猫と暮らしている。

解説

 なぜ姉の頼みを聞き入れてしまったのだろう? ルシールはしきりに後悔していた。双子の姉になりすましてある屋敷に滞在するという計画は、短い期間とはいえ、あまりにも無謀だった。二人は顔立ちはそっくりだが、性格もふるまいも違う。何しろわたしは学問好きの地味な教師で、姉は社交界に名を馳せる高級娼婦なのだから。さまざまな厄介ごとが起こるのも当然だ。そのうえ家主の伯爵が、愛人になれと言い出すなんて!
 ★高級娼婦とお堅い教師。正反対の双子の姉妹は、替え玉作戦を実行することに。しかしその作戦は、心惹かれる伯爵をも欺くことになってしまい……。★

抄録

 ようやく少し気持ちが落ち着いたところなのに、ルシールは驚いて顔を上げ、シーグレイブ伯爵と目を合わせた。「なんですって?」
「相続税だよ。きみはクックズを相続したのだから、その一部を領主に上納するんだ」
 ルシールの胸の鼓動が速くなった。「上納ですって?金銭的な取り引きという意味ですか?」
「そういう場合もある――だが、いつもそうとは限らないよ」シーグレイブ伯爵はルシールに近づいた。「きみの場合は、別の上納方法を設けたいね……たぶんこんなふうに……」
 今度は、ルシールの熱っぽい想像に近い状態になった。どうしてシーグレイブ伯爵に抱かれているのか定かではない。けれど、たくましい腕が体に絡みついたとたん、先ほどのように不安と期待の入りまじった不思議な感覚が広がり、ルシールは震えはじめた。指に伯爵の上着の生地の滑らかな感触が伝わってくる。ルシールは厚い胸に手を当てたものの、彼を押しのけたいのか引きよせたいのかよくわからなかった。シーグレイブ伯爵は少しも慌てず、この瞬間を長引かせようと心に決めているようだ。
「ぼくの申し出を受けいれるとどんなに楽しいか、教えてあげたいんだよ、ミス・ケラウェイ」伯爵は二人の唇がかすかに触れるまで頭を下げていった。喉の奥から驚きと喜びのまじった声をもらし、ルシールは唇を開いた。軽い触れ合いがこんなにも強烈な反応を引き起こすとはとても信じられない。またしても強烈な熱気がみなぎり、甘美な感覚が広がると、体から力が抜けた。今回はルシールを放さずに、伯爵は圧倒的な影響力を持つ情熱的な口づけを続けた。
 心地よい日差しの暖かさに包まれながら官能的な猛攻撃を受けるうち、ルシールはわれを忘れた。無意識のうちに腕が伸びてシーグレイブ伯爵の首に絡みつく。彼女は震えながら伯爵を引きよせた。二人の体が触れあっている部分がはっきりとわかるので、もっと近づきたいと思った。男性的な肌のにおいがルシールを酔わせ、夢中にさせた。絹のドレスはスザンナの豊満な体に合わせて作られているので、片方の肩から袖が滑り落ちた。すると、シーグレイブ伯爵の指はむき出しの肌の上をかすめるようにして動き、胸の中ほどまで下がったレースの縁をたどっていく。
 ところが、伯爵はそっとルシールを自分の体から離すと、かすかにほほ笑みながら、ぼんやりしたブルーの目をのぞきこんだ。
「これはほんの手始めだよ」彼は謎《なぞ》めいた言葉を口にした。「注意しておくが、ぼくが要求する相続税はかなり重いぞ。では、ごきげんよう、ミス・ケラウェイ!」
 そこから少し離れたところでは、クックズの庭の手入れをさせるためにジョセリンが雇った若者が、ぽかんと口を開けたまま鍬《くわ》にもたれていた。やはりミス・ケラウェイに関する噂《うわさ》はどれも本当だったのだ。しかし、彼女はとてももの静かな話し方をする上品な女性でもある。とはいえ、誰も伯爵を責められない。若者は残念そうにため息をついた。伯爵と同じ立場になりたいと願う男は大勢いるだろう!

 翌朝、二度目の悪意に満ちた手紙が届けられた。ルシールは眠れない夜を過ごしていた。ベッドに入る前に鏡の前に立ち、厳しい目で自分の顔を観察しながら、どうしてシーグレイブ伯爵が態度を一変させて自分に惹《ひ》かれたのか、その理由を探ろうとした。けれど、何もわからなかった。やわらかな金髪はあまりにも真っすぐだし、色も薄すぎる。肌の色も青白いし、体も痩せすぎでとても好ましいとは言えない。伯爵はわたしをからかって楽しんでいるだけだ。それとも、仕返ししたくて芝居をしているのだろうか?わたしの気持ちを引きつけて、うまくいったとたんはねつけることに喜びを感じているのかもしれない。深いため息をつきながらルシールはベッドに入ったが、官能的な夢に苦しめられ、満たされない情熱に身を焦がされて一晩中寝返りばかり打っていた。
 朝食の時間になるころにはすっかり疲れきって、目の下に隈《くま》ができていた。前日の出来事で頭がいっぱいだったので、届けられた白い封筒について何もきかなかった。それは玄関ホールの床にあり、どうやら扉の下から押しこまれたらしい。封筒には太い大文字でスザンナの名前が書かれていた。一瞬迷ってから、ルシールは封を開けた。その内容には驚かされた。宛名《あてな》と同じ太い字で、スザンナの人間性や品行に関する不愉快な意見が並べられ、最後には、この村から出ていかないと報いを受ける、と脅している。
 ルシールは驚きと同じくらいに嫌悪感を覚え、手紙にこめられている悪意と敵意に改めてぞっとした。火がついていたら、何も考えずに手紙を暖炉に放《ほう》りこんだだろうが、今は小さく引きちぎるしかない。そして、もう手紙の一件は考えまいと心に誓い、本を持って椅子に腰をおろした。ところが、すぐに気持ちはページから離れて、いつの間にか手紙の差し出し人が誰なのか思いを巡らせている。仕方なく本を置いて、代わりに庭を散歩しようと決めた。
 まだ時間が早いので、庭は薄暗くてひんやりしている。ルシールは果樹園の中にある小さなベンチに腰をおろし、誰かがスザンナに対して抱いている憎しみを思い起こした。あれは従兄《いとこ》かしら?ルシールは考えた。あの日、村で会ったとき、ウォルター・マッチは軽蔑《けいべつ》の気持ちをはっきりと表していた。目の前でクックズの賃借権を奪われたから、恨みを抱いているはずだ。スザンナを村から追いだせば、彼にとって都合がいいだろう。そうすれば、賃借権は自分のものになるかもしれないのだから。けれど、シーグレイブ伯爵がセリーナ・マッチについて話していたことを考えると、叔母が匿名の手紙の差し出し人という可能性もある。
 シーグレイブ伯爵……。恐ろしい考えがルシールの心に取りつき、いつまでも離れなかった。ひょっとして伯爵があの手紙を書いたのかしら?それとも、わたしをディリンガムから追いだす作戦の一環として、マッチ親子に手紙を書くようけしかけたとか?そう思うと、ルシールは気分が悪くなった。まさか伯爵がそんな卑しい行為をするはずがない。けれど、わたしは伯爵について何を知っているだろう?心の平安を保つためには、もうシーグレイブ伯爵とは会わないようにしなければならない。ところが、ふと気がつくと、伯爵がまた訪ねてくるのではないかと期待しているし、二人の出会いの場面をあれこれ想像している。このままでは彼に恋するような愚かなまねをしかねない。
 ルシールは髪についた落葉を取り、悲しげにそれを見つめた。あまり自分に厳しくなってはいけない。何しろ、ミス・ピムの学校で修道女のような生活を送り、めったに人の集まる場所へは出かけないし、結婚相手にふさわしい男性と会ったこともないのだから。閉鎖社会から飛びだし、いきなりシーグレイブ伯爵のように魅力的な男性と会って、胸のときめきを感じない女性などめったにいないだろう。それがわかっても、少しも慰めにはならず、おまけに頭の中から彼を追いだすこともできなかった。オーカムへ戻ったら二度と伯爵に会えないかと思うと、なおいっそう悲しくなるだけだった。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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