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黒の微笑

黒の微笑


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks シリーズ: アイス・シリーズ
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆2
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解説

 アメリカ人のクロエはパリで暮らしている。翻訳で稼げる生活費は乏しいし、自分の人生には刺激が足りないと感じることもあるが、憧れの町での生活には満足していた。そのクロエのもとに、臨時の仕事が舞い込んだ。郊外のシャトーで催される食品業者会議での通訳で、破格の報酬が魅力だった。きっと刺激とは程遠い仕事ね、と思いつつ会場に到着したクロエは、直後に自分が間違っていたことを知った――待っていたのは、食品業者には見えない怪しい面々と、吸い込まれるような黒い瞳で彼女を見つめる、バスチアンという謎の男だった。

抄録

 バスチアンはドアの向かいにある窓にもたれて立っていた。幾何学的デザインでまとめられた庭園がその向こうに広がっている。夜のこの時間、庭園は驚くほどきれいな照明で照らされていた。バスチアンはたばこを吸いながら待っていたらしい。おもむろに窓から離れ、そのままこちらに歩いてきた。
 フランス人男性らしい優雅な物腰には慣れているつもりだった。けれどもこちらに近づいてくるバスチアンの体に思わず気を取られそうになったクロエは、頭のなかでぴしゃりとみずからの頬を叩《たた》いた。
「わたしを待っていたんですか?」と彼女は明るい声で言い、背後でドアを閉めた。部屋に舞い戻ってしっかり鍵《かぎ》をかけてしまいたいというのが本心だったけれど。
「もちろん。じつは俺の部屋もこの廊下の先にあってね。きみの部屋の隣だよ。この翼棟にある部屋に泊まっているのは俺たちしかいない。迷路のようなシャトーですぐに自分のいるところがわからなくなるし、入ってはならないところに迷いこんでしまわないよう、案内役を買って出ようと思ったんだ」
 まただわ、とクロエは思った。なにかをにおわせるような、ふくみのある物言い。ひょっとしたら神経質になっているのはハキムのゲストではなく、このわたしなのかもしれない。「方向感覚には自信があるんです」とクロエは言った。もちろんまっ赤な嘘《うそ》だった。たとえ詳しい地図を持っていたとしても曲がるところを間違えてしまうのが、普段の自分。でも、そんなことを向こうは知る由もない。
「フランスでそれなりの月日を過ごしてきたきみなら、フランス人の男がみな自分のことをチャーミングで女性にやさしいと思っているのは承知の上だろう。実際、俺にとってそれは生まれつき備わっている性格のようなものでね。きみだって思わぬときに、俺が影のようにぴったりついていることに気づくかもしれない。コーヒーや、あるいはたばこでもどうかと」
「わたし、たばこは吸いません」この会話はクロエを不安にさせる一方だった。光も通さないような黒い瞳やほっそりとしてしなやかな体を見つめていると、心のなかでざわざわと波が立つのを抑えられなくなった。それにしても、どうしてこんな人に惹かれなければならないのだろう。この手の男にはけっして惹かれるべきではないのに。「それに、どうしてわたしがフランスに長いこと住んでいると思うんですか?」
「アクセントだよ。少なくとも一年はこの国で暮らしていないかぎり、そんなふうに流暢《りゅうちょう》にしゃべることはできない」
「厳密に言えば、もう二年になります」
 バスチアンが浮かべたのは、かろうじて見てとれるほどのかすかな笑みだった。「ほら、思ったとおり。こういうことには結構、勘が働くんだよ」
「あいにく、いまは魅力のあるやさしい男性など必要としていませんので」と言ったものの、心はいまだに落ちつきを失っていた。なにしろ相手は見た目がすてきなばかりか、とてもいいにおいを漂わせている。その香りはほのかながらも、たばこの残り香に混じってたしかに感じられた。「わたしは仕事でここに来たんです」
「もちろん」とバスチアンはつぶやくように言った。「でもだからといって、楽しみながら仕事をしてはならないというわけでもないだろう」
 クロエはどぎまぎして仕方がなかった。ふたりは薄暗い廊下を歩きはじめていて、窓のわきを通るたびに、そこから差しこむ庭の明かりに照らされた。ヨーロッパ人特有の浮ついた戯れには慣れているつもりだった。その手のなれなれしさは、たいていの場合、過剰な自己顕示欲の表れでしかない。それに、この男が女たらしであることはもうわかっていた。相手はわたしがドイツ語を理解しなかったと思っているけれど、この男はみずからそう言っていたのだ。このような態度に出ているのもけっして意外ではない。
 せっかくの誘いとはいえ、クロエはゲームに乗るつもりはなかった。相手がこの男であればなおさらのことだ。手慣れた様子で魅力を振りまいているものの、彼は戯れるだけ戯れて離れていくような、ただのプレイボーイではない。実際の彼にはもっとべつのなにかがあるという印象が、クロエはどうしてもぬぐいきれなかった。
「ムッシュー・トゥッサン……」
「バスチアン」と彼は言った。「そして俺はきみをクロエと呼ぼう。クロエという名の女性と知りあうのははじめてだな。とてもすてきな名前だよ」まるでシルクで肌をなでるようなやわらかな声だった。
「バスチアン」クロエは抵抗をやめて言った。「わたしにはこれがいい考えだとはどうしても思えないの」
「誰かつきあっている人がいるのかい?だとしても、いっこうに気にすることはない。ここで起こることはあくまでもここだけのこと。せっかくの機会をふたりで楽しめない理由はない」バスチアンはさらりと言った。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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