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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ロマンス

悲しい嘘を重ねても

悲しい嘘を重ねても


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 キャサリン・スペンサー(Catherine Spencer)
 三十数年前にイギリスからカナダのバンクーバーに移り住む。英語の教師からロマンス作家に転身。カナダ人の男性と結婚し子供にも恵まれ、現在は孫もいる。あいた時間があれば、ピアノを弾いたり、アンティークショップをのぞいたり、庭の手入れをしたりしている。

解説

 二十八歳の誕生日に夫から離婚を言い渡され、ダイアナは傷心を抱えたまま、自分探しの旅に出る。養女だった彼女は、実の母親を捜すことがかねてよりの願いだった。いくつかの手がかりを頼りに訪れた南フランスの小さな村で、ダイアナは若き実業家アントン・ド・バロア伯爵に出会う。彼は三年前に妻を亡くした際マスコミに苦しめられたので、ひとり旅のダイアナをリポーターではないかと疑い、確かめるため強引に接近を試みたのだった。そうとは知らないダイアナは彼に魅了されていく。しかも実の母親が、アントンの城で働いているらしく……。

抄録

 女性の警戒を巧みに解いては、すきを狙《ねら》って、いきなり質問を浴びせかけるのね。「数週間よ」ダイアナは答え、さらなる尋問に備えて身構えた。
「よかった。それならまた会える」
「まだ誰かとつき合う自信はないわ」
「べつにつき合おうとは言っていない」アントンはダイアナを制した。「友情の手を差しのべたいだけだ。せっかく来てくれたからには、はるばる来た甲斐があったと、満足して帰ってもらいたいからね」
 この人は言葉に困るということがないのかしら。「おかげさまで、すでにそう感じているわ」
「それはよかった」アントンは彼女のグラスにワインをつぎ足した。「結婚する前、君は何をしていたのかな?」
「大学に通っていたのよ。専攻は現代語学。卒業したら教師になるつもりだったの」
「気が変わったんだね」
「ええ」
「一日六時間以上、年に十カ月、子供と過ごすのが耐えられないと思ったから?」
「とんでもない! 子供は大好きよ。できることなら自分の子を……」ダイアナは言葉を切った。ハービーの究極の裏切りが、しつこい虫歯の痛みのようによみがえった。「でも、だめだったの」
「子供には恵まれなかったのかい?」
 彼の声は突然、深い思いやりに満ち、ダイアナは催眠術にかかってしまいそうだった。
「わからないわ。試したことがないから。ハービーは、子供を持つのは仕事が落ち着いてからにしたいと言って。だからわたしは大学をやめて、法律事務所で翻訳と通訳の仕事を始めたのよ」
「つまり君は、夫を出世させるために、自分のキャリアと将来の夢をあきらめたと?」
「まあ、そういうことになるのかも」
「自分がどれほどの宝を捨てたか、その大ばか者はいつになったら気づくんだろうな」
「永遠に気づかないと思うわ」
 アントンは手をのばし、彼女の手を温かく握った。「だがもし気づいて、彼に頼みこまれたら、君は‘より’を戻すかい?」
「まさか」声がかすれた。心臓が激しく鳴っている。どうしてこんなふうに感じるのかしら。初めて男性に手を握られたわけでもないのに。
 理由はともかく、ダイアナは体に力をこめ、身構えた。本人がどう言おうと、彼がわたしを誘惑しようとしているのは間違いない。
「よかった」
 アントンがゆっくりと笑みを浮かべたので、ダイアナの理性はたちまち吹き飛んでしまった。
「夜明けの決闘は避けたいからね」
 わずかなりとも理性の残っているうちにと、ダイアナは彼の手を振りほどいた。「大丈夫よ。わたしが彼に興味がないのと同様、彼のほうもわたしには興味ないから」
「では君は、何に興味があるのかな?」
「睡眠不足を補うこと」ダイアナはあくびを装い、てのひらを口に当てた。「なんだかひどく眠くなってきたわ。ワインのせいかしら。おやすみなさい、アントン。すてきな夜をありがとう」
 ダイアナが去るより先に、アントンは自分も立ち上がり、彼女の行く手をさえぎった。
「お礼を言うのは僕のほうさ」彼はささやき、彼女の手の甲にそっと唇を当てた。
 それだけなら、ダイアナもなんとか対処できただろう。とどのつまり、彼はフランス人で、そのうえ伯爵なのだから。けれどそのまま手を放すのかと思いきや、アントンは彼女の手を表に返し、てのひらの中央に、やわらかな温かい唇を押し当てた。ダイアナは呆然《ぼうぜん》となったまま、キスの影響が足の裏にまで達するのを感じた。そして定かではないが、小さく声をたててしまった気がした。
 相手に与えた影響を完全に承知のうえで、アントンはキスした部分を包みこむように、ダイアナの指を折り曲げた。それから彼は長いまつげを半ば伏せ、彼女をじっと見つめてささやいた。「また明日」
 ノーと言えるものなら言いたかった。一歩一歩の動きを見られていることを意識しながら、ダイアナは駆け出したくなる衝動をぐっと抑えた。宿の玄関から中に入り、もはやアントンの視線が及ばないと確信するや、彼女は本当に駆け出した。階段を一気に駆け上がり、狭い廊下を走り抜け、悪魔に追われているかのように、安全な小部屋を目指した。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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