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和書>小説・ノンフィクション>ハーレクイン>ハーレクイン文庫

解説
15世紀初頭のウェールズ。反イングランドの戦いが激化するなか、ついに今日、ドリスルウィン城が国王軍の手に落ちた。陣頭指揮に立ったのは誉れ高き屈強の騎士ラウール・ド・シャレ、“シュヴァリエ”という異名を持つ、皇太子ヘンリーの忠臣だった。城の明け渡しと、城主リンの処刑を求めるシュヴァリエに対し、リンはとっておきの宝物を差し出し、命乞いをした。宝物とは、うら若き美女キャトリン。莫大な財産の相続人であり、あのデヴロー一族、ウェンステープル伯爵家の許嫁だという。これは願ってもない幸運――シュヴァリエの瞳が妖しく光った。
抄録
「どうかしたのか?」
キャトリンは手短に説明した。
「ディネヴールの領地には雄牛も鹿《しか》も生息している。天候が回復したら、わたしたちで馬を走らせて、城代に祝宴のごちそうを分けてもらえないか頼んでみよう。そうだ、使者を出してもいい」
「いえ。雨は長くは続きません。じきに晴れますわ。わたくし、サー・グリフィズが戻られてから乗馬をたしなんできました。いっしょに遠出できたらうれしいわ。あと一週間待ってから、使者を出すかどうか決めましょう」
「わたしについてくるつもりか?」
「わたしたちで馬を走らせて、とさっきおっしゃいましたわ」
「別にそなたを指したわけではないよ、かわいい人だ。兵を一隊と、ルイがここの仕事をせずに済むなら彼も同行させる」
キャトリンは、さきほどからの不愉快が限界に達した。ド・シャレがちかごろやさしくなったので、つい調子に乗って言いすぎてしまったわ。それに、わたくしをかわいい人ですって! 侮辱だわ。彼女の顔は真っ赤になり、やがて蒼白《そうはく》になった。彼はわたくしがからかわれるとかっとなることを知って、わざと言ったのだわ。
「またからかうおつもりですね、セニョール」彼女は声を荒らげた。「前に約束してくださいましたわね、馬に乗ってもよいと」
彼女の判断力を鈍らせるもの憂げな笑みがド・シャレの口元に浮かんだ。「覚えているよ。だが、そなたをいっしょに連れていけば、お返しが期待できるのだね?」
「お返し?」彼女は思わずかっとなってきき返した。彼の言うお返しは、ひとつしかない。
「どうしてそんなに怒るのかな、かわいい人だ。キスは嫌いか?」
キャトリンが気を取り直して答える前に、ド・シャレは前かがみになって彼女の唇に唇を触れあわせた。
キスとも呼べないほどかすかに触れただけだったが、キャトリンはうっとりした。あえぎながらよろよろとうしろへ下がる。体を壁で支えないと立っていられそうになかった。どうかだれにも見られていませんように。大広間にはおおぜいの人がいるが、ほとんどは忙しく働いている。それにふたりが立っているところは暗がりだ。そうでなかったら、こんなところで口づけなどするはずがない。
「よくもそんなことを」キャトリンは激しい口調で言い、唇を触れあわせたことによって感じた興奮を怒りに変えた。
ド・シャレは緊張もしないでにやついているだけで、キャトリンの抗議もまともに取りあわなかった。「またわたしが卑しい下心を持っているとでも言うつもりか、キャトリン」口調はおだやかだが、その声には危険な響きがある。「わたしがそなたの純潔を踏みにじる男だと思っているのか?」彼女はショックで息がとまりそうになった。それを見たド・シャレは、面白がってさらににやにやした。「もっと口のきき方に気をつけたほうがいい。この前はそなたが謝ったので許したが、こんどは許すかどうかわからないぞ。親愛の情をこめた挨拶《あいさつ》程度の口づけに、どうしてそんなに大騒ぎするのだ」
親愛の情をこめた挨拶程度の口づけなどではなかった。それはふたりともわかっている。謝らないわよ。キャトリンは頭を持ちあげて、言いなりにはならないという強い意志を表した。「よろしければ、ほかに仕事がありますので、失礼しますわ」
ド・シャレの笑みがあざけりに変わった。「ほかに仕事がある? 逃げるつもりか? 我慢にも限度というものがあるのだよ、キャトリン。リン・アブ・ブレクヴァがそなたにしたことを、そっくりそのまままねてもいいのだ。それとも、いっそリンのところに送り返してしまおうか?」
心臓の鼓動が激しくなり、胃のあたりが痙攣《けいれん》して、猛烈な吐き気がしてきた。それでもキャトリンは屈せず、恐怖感も見せず、言いわけもしなかった。「辱しめを受けるよりはそのほうがましですわ、セニョール」落ち着き払って言い返す。「リンはわたくしを息子と正式に結婚させようとしたのですから」
「たしかにそうだ」ド・シャレは気取った言い方をした。その目があざけるように光っている。魅力的な目だ。キャトリンは視線をそらすことができなかった。「ダーヴィズはそなたの夫にぴったりだ。まだ幼くて、ベッドを共にすることができないのだからな」
泣きたくないのに、目に涙があふれてきた。「ひどいわ」彼女はむせびながら言った。「わたくしをばかにしたり、からかったり。でも、わたくしにはそれをとめることができない」
「それがわかっていればいいのだ、かわいい人よ。だが、からかっているだけだということを忘れないように。もしわたしが本当にそなたを怒らせたのなら、心から謝ろう」
キャトリンは興味を引かれて彼の目をのぞきこんだ。そっけない、自嘲《じちょう》するような言い方だけれど、あれが本心なのだわ。
彼女も彼と同じくらいそっけなく言い返した。「謝ってなどくださらないくせに」
「わたしを怒らせなければいいのだ。さあ、こんなばかばかしい喧嘩《けんか》はやめにしよう」
ド・シャレは手を差しだし、キャトリンにその手を取るよう目で命じた。
それは仲直りの意思表示だった。戦友に差しだす手に似ている。彼女は無意識にその手を握った。
*この続きは製品版でお楽しみください。
キャトリンは手短に説明した。
「ディネヴールの領地には雄牛も鹿《しか》も生息している。天候が回復したら、わたしたちで馬を走らせて、城代に祝宴のごちそうを分けてもらえないか頼んでみよう。そうだ、使者を出してもいい」
「いえ。雨は長くは続きません。じきに晴れますわ。わたくし、サー・グリフィズが戻られてから乗馬をたしなんできました。いっしょに遠出できたらうれしいわ。あと一週間待ってから、使者を出すかどうか決めましょう」
「わたしについてくるつもりか?」
「わたしたちで馬を走らせて、とさっきおっしゃいましたわ」
「別にそなたを指したわけではないよ、かわいい人だ。兵を一隊と、ルイがここの仕事をせずに済むなら彼も同行させる」
キャトリンは、さきほどからの不愉快が限界に達した。ド・シャレがちかごろやさしくなったので、つい調子に乗って言いすぎてしまったわ。それに、わたくしをかわいい人ですって! 侮辱だわ。彼女の顔は真っ赤になり、やがて蒼白《そうはく》になった。彼はわたくしがからかわれるとかっとなることを知って、わざと言ったのだわ。
「またからかうおつもりですね、セニョール」彼女は声を荒らげた。「前に約束してくださいましたわね、馬に乗ってもよいと」
彼女の判断力を鈍らせるもの憂げな笑みがド・シャレの口元に浮かんだ。「覚えているよ。だが、そなたをいっしょに連れていけば、お返しが期待できるのだね?」
「お返し?」彼女は思わずかっとなってきき返した。彼の言うお返しは、ひとつしかない。
「どうしてそんなに怒るのかな、かわいい人だ。キスは嫌いか?」
キャトリンが気を取り直して答える前に、ド・シャレは前かがみになって彼女の唇に唇を触れあわせた。
キスとも呼べないほどかすかに触れただけだったが、キャトリンはうっとりした。あえぎながらよろよろとうしろへ下がる。体を壁で支えないと立っていられそうになかった。どうかだれにも見られていませんように。大広間にはおおぜいの人がいるが、ほとんどは忙しく働いている。それにふたりが立っているところは暗がりだ。そうでなかったら、こんなところで口づけなどするはずがない。
「よくもそんなことを」キャトリンは激しい口調で言い、唇を触れあわせたことによって感じた興奮を怒りに変えた。
ド・シャレは緊張もしないでにやついているだけで、キャトリンの抗議もまともに取りあわなかった。「またわたしが卑しい下心を持っているとでも言うつもりか、キャトリン」口調はおだやかだが、その声には危険な響きがある。「わたしがそなたの純潔を踏みにじる男だと思っているのか?」彼女はショックで息がとまりそうになった。それを見たド・シャレは、面白がってさらににやにやした。「もっと口のきき方に気をつけたほうがいい。この前はそなたが謝ったので許したが、こんどは許すかどうかわからないぞ。親愛の情をこめた挨拶《あいさつ》程度の口づけに、どうしてそんなに大騒ぎするのだ」
親愛の情をこめた挨拶程度の口づけなどではなかった。それはふたりともわかっている。謝らないわよ。キャトリンは頭を持ちあげて、言いなりにはならないという強い意志を表した。「よろしければ、ほかに仕事がありますので、失礼しますわ」
ド・シャレの笑みがあざけりに変わった。「ほかに仕事がある? 逃げるつもりか? 我慢にも限度というものがあるのだよ、キャトリン。リン・アブ・ブレクヴァがそなたにしたことを、そっくりそのまままねてもいいのだ。それとも、いっそリンのところに送り返してしまおうか?」
心臓の鼓動が激しくなり、胃のあたりが痙攣《けいれん》して、猛烈な吐き気がしてきた。それでもキャトリンは屈せず、恐怖感も見せず、言いわけもしなかった。「辱しめを受けるよりはそのほうがましですわ、セニョール」落ち着き払って言い返す。「リンはわたくしを息子と正式に結婚させようとしたのですから」
「たしかにそうだ」ド・シャレは気取った言い方をした。その目があざけるように光っている。魅力的な目だ。キャトリンは視線をそらすことができなかった。「ダーヴィズはそなたの夫にぴったりだ。まだ幼くて、ベッドを共にすることができないのだからな」
泣きたくないのに、目に涙があふれてきた。「ひどいわ」彼女はむせびながら言った。「わたくしをばかにしたり、からかったり。でも、わたくしにはそれをとめることができない」
「それがわかっていればいいのだ、かわいい人よ。だが、からかっているだけだということを忘れないように。もしわたしが本当にそなたを怒らせたのなら、心から謝ろう」
キャトリンは興味を引かれて彼の目をのぞきこんだ。そっけない、自嘲《じちょう》するような言い方だけれど、あれが本心なのだわ。
彼女も彼と同じくらいそっけなく言い返した。「謝ってなどくださらないくせに」
「わたしを怒らせなければいいのだ。さあ、こんなばかばかしい喧嘩《けんか》はやめにしよう」
ド・シャレは手を差しだし、キャトリンにその手を取るよう目で命じた。
それは仲直りの意思表示だった。戦友に差しだす手に似ている。彼女は無意識にその手を握った。
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