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遙かな森の天使

遙かな森の天使


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:800pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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著者プロフィール

 ヘザー・グレアム(Heather Graham)
 新作を出すたびニューヨークタイムズをはじめ数々のベストセラーリストに顔を出す人気作家。作品は15カ国語に訳され、発行部数は世界中で2000万部を超える。フロリダで生まれ育ち、大学では舞台芸術を専攻した。卒業してからは女優やモデルなどの職業を経験し、第三子出産後に執筆を始める。受賞歴も豊富で、テレビのトークショーに出演したり、雑誌で取り上げられたりするなど実力と人気を兼ね備えている。

解説

 連続殺人鬼がロンドンを震撼させていた19世紀末の英国。森のコテージで大切に育てられた孤児アリーは美しい女性に成長していた。後見人であるスターリング卿の城へ向かう途中、アリーは黒い覆面をした盗賊に襲われる。だが彼女の名前を聞いた盗賊は、なぜかアリーをそのまま解放した――彼女の心だけを奪って。城に着いたアリーは、自分に婚約者がいたことを知らされる。驚愕の事実に戸惑う一方で、心ならずも盗賊に惹かれ、葛藤するアリー。世間の喧噪から守られた穏やかな日々は終わり、激しく揺れ動く運命の扉が開かれた。

抄録

「もう観念したらどうだ?」追いはぎが言った。
 アリーはなにも言わずに横を向いたままじっとしていた。
 彼が力を抜いた。依然アリーにまたがってはいるものの、もうそれほど強く地面へ押さえつけてはいない。
「今度捕まえたときは容赦しないから、逃げださないでおけと忠告しただろう」彼は穏やかに言った。
「あなたって本当に卑劣な人ね」アリーは小声で応じた。
「そりゃあ、追いはぎだからな」彼はじれったそうに言った。「礼儀正しい振る舞いを期待してもらっては困る」
 アリーは彼の感触を、押さえつけてくる彼の太腿を、彼女に苦痛を与えないように座っている彼の配慮を意識した。
 追いはぎが彼女にふれた。
 手をのばして、彼女の顔にかかっている乱れた髪をかきのけたのだ。ほんの少しのあいだ、彼の指が名残惜しそうに彼女の頬にとどまっていた気がした。
 彼のふれ方はやさしかったけれど、彼女を放す気はないとみえてしっかり地面へ押さえつけている。
 アリーは彼から視線をそらしたまま尋ねた。「今度はどうするの?わたしをどこへ連れていく気?」
「ぼくが最初から知りたがっていた質問に答えてもらおう。きみの名前は?なんの用事で伯爵の城へ行くんだ?」
 突然、激しい恐怖に見舞われたアリーは、眉根を寄せて彼を見あげた。口をつぐんでいるべきだとわかっていたが、できなかった。
「まさかあなたは……例の反王制主義者のひとりではないでしょうね?」小声で尋ねる。
 驚いたことに彼はにっこりし、安心させようとするかのように指の関節で彼女の顎を軽くなでた。
「いいや、違う。女王陛下万歳さ。ぼくは昔ながらの善良なる英国の悪党だ」追いはぎは低い声で断言した。
 アリーはその言葉を信じた。仰向けに地面へ押さえつけられて完全に彼の支配下に置かれていながらも、彼を信じた。彼女はそっとため息を漏らした。
「それで、あなたはわたしを殺すつもりはないの?……あるいはほかのだれかを」
「絶対に殺しはしないよ、娘さん」
「お願い、わたしを“娘”呼ばわりしないで」
「きみが名前を教えないからさ」
 アリーは彼をじっと見つめた。わたしたちはなんて親密な姿勢をとっているのかしら。そう考えたとたんに彼女の頬が真っ赤になった。この人はまぎれもない悪党だ。それなのにわたしときたら、彼の声をハスキーで魅力的だとか、彼のふれ方がだれよりもやさしくて心地よいなどと感じているなんて。
「よかったらわたしの上からどいてくれないかしら?」アリーは頼んだ。
 彼は立ちあがってアリーに手を差しのべ、らくらくと彼女を引っ張り立たせた。そしてしばらく手を握っていたあとでやっと放した。
「わたしの名前はアレグザンドラ・グレイソンよ」
「なんだって?」彼がたちまち顔に緊張の色をみなぎらせて鋭い声で問い返したので、アリーは一瞬たじろぐと同時に、またもや恐怖に襲われた。
“なぜかしら?”
 わたしの名前が、あるいはわたし自身が、だれかにとってなんらかの意味を持っているはずはないのだ。
「わたしはアレグザンドラ・グレイソン、断っておくけどとるに足らない人間よ。さっき話したように、何人かのおばたちと森のなかのコテージに住んでいるの。カーライル伯爵夫妻はわたしにとって名づけ親ともいえる人たちで、ほかの何人かの人たちと一緒に、わたしが物心ついたときから世話をしてくれたわ」
「きみが……きみがアレグザンドラ・グレイソンなのか?」彼は息を詰めたような声を出した。
「わたしの名前があなたにとってどんな意味があるの?」アリーは不安に駆られておそるおそる尋ねた。この人は正気を失ったのではないかしら?両脇《りょうわき》に垂らした手をぎゅっと握りしめている。
 彼は頭を振って握りしめていた手を開いた。一瞬ののち、再び愉快そうな笑みを顔に浮かべていた。
「なにも……ぼくにとってなんの意味もないよ」
「だったら――」
「ぼくはきみがほかの女性だと考えていたんだが、間違っていたようだ」
 この人は嘘《うそ》をついている、とアリーは思った。
 けれども彼が手を差しのべてきたので、嘘をついた理由について考える暇はなかった。アリーは彼の手を見つめ、不安のあまりごくりと唾《つば》をのみこんだ。緑の森を覆いだした暗がりのなかで、彼はとても背が高くてたくましく見える。身動きせずにじっとしていても、彼の熱く燃えるような活力が伝わってきた。彼女は奇妙な思いにとらわれた。わたしが身を寄せて彼にもたれたら……。
 きっとすてきだろう……心地よくて。わくわくして。
 すごく生き生きした気がして。
 アリーは身をこわばらせてうなだれ、歯をくいしばった。この人は卑しい犯罪者にすぎないのよ!
 彼女が目をあげると、彼は相変わらずじっとアリーを見つめていた。
「ついておいで」ようやく追いはぎは言った。「馬車のところへ連れ戻してあげよう」

*この続きは製品版でお楽しみください。

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