マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル

薔薇の伯爵とワルツを

薔薇の伯爵とワルツを


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 未評価
◆レビューを書く

¥0サンプル
購入する


解説

逃げた花嫁は今もなお、消せない想いを胸に秘め……。

地味で冴えない付添人のフィーには誰にも言えない秘密があった。今シーズン、ロンドンじゅうの母娘を色めき立たせている戦場帰りの伯爵ネイサン・キャラウェイ――彼はフィーの夫なのだ。5年前、動乱のスペインで彼と出会い、請われるまま結婚した翌朝に彼の恋人を名乗る美女が現れ、傷ついたフィーは逃げだしたのだった。だがある日、彼女が身を寄せる親友の屋敷を偶然ネイサンが訪れる。隠れ見た彼の麗しく精悍な姿に、フィーの胸は痛いほど高鳴った。あの人の腕に抱かれたい――せめて、もう一度だけ。親友の手で謎めいた美女に変身し、フィーは仮面舞踏会に赴いた。彼に正体を見破られ、領地に連れ去られるとは夢にも思わずに。

■妻が逃げた理由を知らないネイサンに激怒され、さらに深く傷つくフィー。一途な想いを告げられぬまま、二人は再び生き別れて……。引き裂かれた愛、運命の再会、忘れ得ぬ情熱――密やかな恋の微熱が伝わるような、切なくも美しいリージェンシー・ロマンスです。

抄録

 リディアとサー・ジェイムズが庭に出ていくと、フェリシティはテラスの反対側まで走っていって階段を下り、ネイサンのあとを追った。彼に正体を明かすとしたら今だ。ネイサンが通ったはずの小道は無数の灯りが木々の枝からつりさがる主庭から遠ざかる方向に向かっており、あたりは薄暗い。厩舎のそばまで来て、フェリシティの足取りは急に遅くなった。ネイサンは密会の約束をしているのかもしれない――彼が別の女性を抱きしめている場面に出くわしたらどうしよう? フェリシティは顎をつんと上げた。それならそれでいいわ。未練を断ち切って、ネイサンを完全に忘れるきっかけにすればいいだけよ。
 母屋の灯りが届かない距離まで来ると、草ぼうぼうの小道はさらに暗くなった。道の左右には背の高い藪が生えており、一定の間隔ごとに大理石像の不気味な輪郭がぼうっと浮きあがる。長身のネイサンらしい姿が前方に見えたが、それも薄闇の中の黒い人影でしかなかった。小道のどんづまりでためらうような仕草を見せてから、彼は右に姿を消した。フェリシティもあとを追ったが、曲がった先には植え込みしかなく、人の姿はなかった。
「どうして僕をつけてきた」フェリシティはまわれ右して逃げようとしたが、ネイサンの手が瞬時に伸びて彼女の手首をつかんだ。「おっと。まだ答えを聞いていないぞ」
 フェリシティは唾をのんだ。闇が濃いせいで、相手を知る手段は声だけだ。声をなるべく低くすれば、ごまかせるかもしれない。
「わ、私がここに来たのは……」フェリシティはためらった。身元を明かし、あなたのあとをつけてきたと打ち明けるべきだろうか? その勇気はまだ出なかった。「騒々しいのが苦手だからです」
 少なくとも嘘はついていない。ネイサンのため息が聞こえた。
「僕もだ」手首が離された。「どうして今夜こんな場所に来てしまったのかわからないよ」
 逃げだすべきだとわかっていたが、体が言うことを聞かなかった。ネイサンとふたりきりで話すなんて――危険だとわかっているのに、立ち去る気になれない。「社交がお嫌いなら、どうしてロンドンに留まるのですか?」
「役目があってね」ネイサンは急にフェリシティの顔をのぞきこんだ。「あなたは僕の知り合いなのか?」
 フェリシティは震えて一歩下がった。「いいえ」声がしわがれた。「交際の範囲が違いますから」
 ネイサンは肩をすくめた。のんびりシガリーリョを楽しむつもりで庭に出てきたのだが、自分の屋敷ではないのだから、この娘にどこかに行けというのは筋違いだろう。メヌエットのゆるやかな調べが夜風に乗って漂ってきた。
「ダンスが始まったようだ。あなたは踊らなくていいんですか?」
「いいんです」
 簡潔な返事に、ネイサンは思わず笑いだした。「若い女性はみんなダンスが好きなものだと思っていた」
「私は踊りません。最後に踊ったのは女学校時代です」
 その声に懐かしそうな響きを聞きとって、ネイサンは手を差しだした。「踊ってみますか? 今ここで」
 沈黙がふたりを包みこんだ。ネイサンは目の前の小柄な人影がじっと息をつめているような気がした。彼女の手がおずおずと上がったが、まただらりと脇に垂れた。
「ありがとうございます、でも結構ですわ。コンパニオンの身でダンスをするわけにはまいりません」
 なるほど。そういう立場なのか。ネイサンは不憫さを覚えた。
「こんなところで社交のルールに従うこともないでしょう」彼女の手を取り、体を引き寄せた。「ここでは僕たちはただの男と女でしかない。ふたりとも望むなら踊ってもいいだろう……」
 彼女の体が近づいてくると、ネイサンは言葉を失った。腕の中まで引き寄せるつもりはなかったのだが、彼女が進みでると、抱きしめるほうが自然なように思われたのだ。彼女がもたれてくると、頭がちょうど顎の下に来た。鼻先をかすかな香りがくすぐる。花と、太陽と、それから……。
「ああ、いけない。離して!」
 彼女は驚いた鳥のように、抱擁にあらがった。ネイサンはすぐに手を離した。
「あの、申し訳ありません」彼女はあえいだ。「こんなつもりじゃ……もう行かなければ!」
「そうですか」闇の中で女性は立ちつくしていた。表情は見えないが、動揺が伝わってくる。ネイサンは優しく言った。「こわがらせてしまいましたね」
「そんなことは……」声に涙の気配がした。「そんなことはありません」
 彼女はくるりときびすを返し、闇の中に駆けだした。ネイサンはその後ろ姿を見送ったあと、軽く肩をすくめ、ポケットの中のシガリーリョに手を伸ばした。


*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。