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マグノリアの夜明け【MIRA文庫版】

マグノリアの夜明け【MIRA文庫版】


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 エリカ・スピンドラー(Erica Spindler)
 ルイジアナ州ニューオーリンズ在住。美術の修士号を取り、ビジュアル・アーツの世界で活躍したのちに、1988年作家デビュー。アーティストの感性を生かしたみずみずしい描写と、ドラマティックなストーリーで、人気作家の地位を確立した。1995年に刊行した『レッド』はベストセラーとなり、日本ではコミック化、テレビドラマ化もされた。近年はサスペンス色の強い作品を積極的に著している。

解説

こんな結末を望んでいたわけじゃない――孤独な男女の、いびつで悲しい恋の寓話。

15歳のときに、淡い想いを抱いていた人に傷つけられて、アナベルは心を閉ざした。それ以来、誰にも愛されず、誰も愛せず、たった一人で生きてきた彼女のもとに、暗い目をした精悍な男性ラッシュが現れる。孤児院で育ち、里親の家で虐待され、不遇の人生を歩んできたという彼は、自分の素性を知りたくて、記憶の片隅に残っていたオルゴールを手に訪ねてきたのだ。確かにそのオルゴールは昔、アナベルの屋敷にあったものだ。その意味することを考えもせず、アナベルは彼に惹かれる。この恋心が大きな悲劇に繋がるとは夢にも思わずに。

*本書は、シルエット・スペシャル・エディションから既に配信されている作品のMIRA文庫版となります。 ご購入の際は十分ご注意ください。

抄録

「君の悪いところを教えてあげようか?」パンのスライスを並べながら、ラッシュが言った。
「まあ、うれしい」目をつぶったまま、冷ややかに答える。「聞きたくてうずうずするわ」
「君は‘はめ’をはずして、人間らしくするのが怖いんだ」
「女性らしく、ってことでしょう」
「いや、そうじゃない」パンにマヨネーズを塗りながら言った。「でも、女性らしくすることのどこがいけないんだ?」
 アンナは薄く目をあけてラッシュを見た。「別に。自分の性別は気に入ってるわ」彼はパンに厚切りハムを載せている。「冷蔵庫に野菜スティックが入ってる」彼女は疲れきった声でつけ加えた。
 ラッシュはサンドイッチを皿に載せてテーブルに運ぶと、冷蔵庫からピッチャーに入ったアイスティーを持ってきた。「ときには弱みを見せたり、怖がってもいいんだ」彼女のむかいに腰を下ろしながら言った。「それが生きてる証だからね」
 アンナの体に震えが走った。かぶりをふり、彼の目を見る。「そんなの無理よ」
 彼は一瞬さぐるようにアンナの目を見ると、サンドイッチに手を伸ばして食べはじめた。「アッシュランドの管理をするようになって何年になる?」
「父が亡くなって以来だから、もう十年以上になるわ。その前は……」アンナが口をつぐんだ。
「その前は、なんだい?」
 彼女はにんじんのスティックをしばらく手でもてあそんでいたが、結局食べずに下に置いた。「母を亡くしてからは、父に手を貸す人が必要だったの。私がそれになるほかなかったわ」
 ラッシュはもうひと口、サンドイッチをほおばった。「心の準備ができていなかったのかい?」
「ええ。私……父がすべてを取り仕切っていると思っていたの。でも、本当に取り仕切っていたのは母だった。ずっとそうだったのよ。だから母が死ぬと――」
「その重荷を君が背負うことになった」
「そう」
「ほかの家族は手伝ってくれなかったのかい?」
 ローウェルとの口論が、裏切られたつらい記憶とともによみがえった。アンナは体をこわばらせてラッシュの目を見た。「弟のローウェルとは、この前の晩に会ったわよね。あなたもエイムズの町に一週間いたのなら、弟の噂はいろいろ聞いたでしょう。アッシュランドにまったく関心がないことも」
「それは知ってる。僕が言ったのは親戚のことだ。叔父さんとか、叔母さんとか、いとことか。君と弟以外にもエイムズ家の人間はいるだろう」
「ところがいないのよ。母は一人っ子どうしの間に生まれた一人娘だし。父には二人兄がいたけど、一人は十代で亡くなって、もう一人も奥さんとの間に子供が生まれる前に亡くなったわ」
 ラッシュが顔をしかめた。「いとこが一人もいない? 信じられないな」
 アンナが眉をつりあげた。「さぞかしあなたには親戚がたくさんいるんでしょうね」
「僕には」ラッシュが低い声で言った。「肉親は一人もいない」
 彼の口調のなにかが、彼の瞳に浮かんだ色が、アンナの心に引っかかった。それでも怒ったふりをして眉をひそめた。「ミスター・カズンズ、他人の家のことをあれこれ詮索するのは不穏当だわ」
 ラッシュが笑った。「不穏当? いまだにそんな言葉を使う人間がいるとは思わなかったな」
 アンナも笑った。「このあたりでは使うのよ」
「なるほど。もったいぶった言葉や礼儀がすべて残っているってわけだ」
「|北部人《ヤンキー》のがさつさが変わらないようにね」
「ヤンキー?」ラッシュがおかしそうに身をのりだした。「おいおい、戦争はずっと昔に終わったって、だれかに教えてもらわなかったのかい?」
「このあたりではだれも教えてくれないの」アンナは笑って、まつげをしばたたいた。「十歳になるまで“ヤンキー”と“がさつさ”が別々の言葉だって知らなかったわ」
 彼が頭をのけぞらせて笑った。「冗談だろう?」
 アンナはナプキンで口元を拭った。「いいえ。本当よ」
 一瞬、二人の視線が合った。沈黙が重くのしかかる。ラッシュは気まずさをごまかすように、アンナの手を取って、ひどく真剣に親指を調べた。「大丈夫みたいだ」
 アンナが唾をのみ込んだ。「だからそう言ったでしょう」
 それでもラッシュは彼女の手を握ったまま、ほっそりした指の関節をそっとなぞった。アンナは胸がどきどきして、体がかっと熱くなった。だめよ。さっさと手を引っ込めなさい。それでも彼女にはそんなつもりはなかった。
 ラッシュが彼女の指に指をからめ、再び彼女の目を見た。アンナは急に息苦しくなった。一体なにが起こったの? 敵どうしみたいだったのに、なぜこんなに……こんなに親密になってしまったの? なぜ私は彼にこんなことをさせているの?
 わからない。それに、今はそんなこと、どうでもいい。甘くゆるやかな炎が判断力を奪い、体が熱くほてって燃えあがりそうだった。
 ラッシュが空いているほうの手を彼女の頬に近づけた。アンナは思わず小さなため息をつくと、彼の手に頬を寄せた。「すべてを捨ててしまおうと思ったことはないのかい、アンナ?」突然、彼が低くかすれた声できいた。「アッシュランドを売って、逃げだしてしまいたいと?」
 アンナはしばらく、からみ合った二人の指をじっと見つめていたが、やがて顔を上げてラッシュを見た。「いいえ」小声で言った。「一度もないわ。だって、そんなこと無理だもの」
 ラッシュがからめた指に力を込め、アンナに顔を近づけてきた。全身を震わせる期待感と恐怖がアンナの中で戦い、ついに期待感がまさった。彼女は唇を開いた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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