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ギリシア名家の遺産【ハーレクイン・セレクト版】

ギリシア名家の遺産【ハーレクイン・セレクト版】


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・セレクト
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ジュリア・ジェイムズ(Julia James)
 十代のころに初めてミルズ・アンド・ブーンのロマンスを読み、それ以来の大ファン。ロマンスの舞台として理想的な地中海地方、そしてイギリスの田園が大好きで、とくに歴史ある城やコテージに惹かれるという。趣味はウォーキング、ガーデニング、刺繍、お菓子作りなど。現在は家族とイギリスに在住。

解説

リンは酒浸りだった母に代わり、妹の世話をしてきた。だが母の死後、妹は若気のいたりで妊娠し、出産中に亡くなった。リンは生まれた男の子を決して手放さないと誓うが、貧しい暮らしのなかでの子育ては難しかった。そんなある日、アナトール・テロニディスというギリシア人富豪が現れ、遺児の父親は、近頃亡くなった彼のいとこだとリンに告げる。愛しい妹の忘れ形見は、なんとギリシア名家の遺産でもあったのだ!ああ、なんてこと。彼を相手に、私が親権を保持できるすべなどない。大切な男の子を失う恐怖に真っ青になったとき、彼が法外な提案をした。養子縁組が成立するまで、夫婦にならないか、と。

■貧困生活を送るリンは、妹の愛しい遺児のためだけに、ギリシア人富豪アナトールとの便宜結婚に同意し、彼の豪華な住まいで暮らし始めます。ひっつめ髪にすっぴんのままのリンに業を煮やした彼は、無理やり彼女を美容室に送りこんで大変身を遂げさせ……。

*本書は、ハーレクイン・ロマンスから既に配信されている作品のハーレクイン・セレクト版となります。 ご購入の際は十分ご注意ください。

抄録

 リンは両手を組んだ。「どんな話を聞いても無駄――」
 深い静かな声がリンの言葉を遮った。「いとこは死んだんだ」
 静寂が流れた。完璧な静けさに包まれ、アナトールは思わず口走った言葉の重みを呪った。だが、死んだマルコスへの敵意と憎悪をむきだしにした彼女の言葉は聞きたくなかったのだ。
「死んだ?」彼女がうつろな声で言った。
「すまない。こんなふうに唐突に言うべきではなかった」
 彼女はアナトールを凝視したまま言った。「マルコス・ペトラナコスが死んだですって?」
「二カ月前に、車の事故でね。きみを探しだすのに時間がかかって……」
 リンはめまいがしてよろめいた。とっさにアナトールが彼女の腕をつかんで体を支えた。リンが後ろにさがって体勢を立て直すと、彼は手を放した。リンはふと彼の腕の強さに気づき、つかの間の緊密さに胸苦しさを覚えた。
「彼が死んだの?」リンはもう一度うつろな声で言った。感情が喉の奥を締めつける。ジョージーの父親が死んだなんて……。
「座るといい。さぞかしショックだろうね」アナトールが言葉を選びながら続けた。「きみとマルコスの関係を考えると――」
 リンが声をあげ、アナトールは次の言葉をのみこんだ。彼女の顔を見ると、そこにはマルコスの死に対するショックでもなければ、妊娠させられ捨てられたことへの怒りでもない表情が浮かんでいた。
「わたしとマルコスですって?」彼女はすべてを打ち消すかのように首を振って言った。
「手紙を読ませてもらった。すまない。きみがどれほどいとこを思い、彼のために心を砕いていたかは……」アナトールは口ごもった。妊娠を告げるマルコスへの手紙と、救いようがないほど楽天的な期待に満ちた文面を思いだしたのだ。「マルコスと家庭を築きたかったのだろうね。しかし――」
「わたしはジョージーの母親ではないわ」リンが言った。涙を押し殺した苦しげな声だ。
 一瞬アナトールは聞き間違えたのかと思った。それとも彼女の言葉を理解できなかったのだろうか。だがリンを凝視したアナトールは、彼女の言葉を聞き間違えたのでもなければ理解できなかったわけでもないことに気づいた。
「なんだって?」眉間の皺が彼の顔に暗い影を落とした。「きみはリンダ・ブランドンだと言ったじゃないか」
 アナトールはすっかり混乱していた。いったい何がどうなっているんだ? さっぱりわからない! 彼女は呆然と首を横に振っている。ようやく口を開き、張りつめた声で言った。
「わたしは……リネット・ブランドンよ」
 彼女は荒く息を吸いこんだ。マルコスの死を知らされたショックのせいか、顔色が悪い。
「リンディ……リンダ――」妹の名前を言おうとして、リンは不意に喉をつまらせ、まばたきをした。
 その目に涙が光っている。
「リンダはわたしの妹だったの」
 過去形だ。そう気づいたとたん、重苦しい鼓動がアナトールの胸をゆっくりと打った。か細い声が震え、耐え難い言葉が続いた。
「リンダは死んだわ。ジョージーの母親よ。お産の最中に亡くなったの。妊娠子癇で……」
 リンは声をつまらせた。
 目を上げてアナトールに視線を向ける。若い男女の命をのみこんだ大きな裂け目が、ふたりのあいだに広がっているような気がした。
 互いに伝えあったことの重大さに気づき、リンは愕然とした。なんという悲劇だろう。
 ジョージーの両親はふたりとも、もうこの世にいないのだ。
 無責任な父親などジョージーには必要ないと言ったが、彼が妹と同じように悲しい死を遂げたことを知るのはつらかった。目頭が涙で熱くなる。
「座るといい」アナトールが言った。
 椅子をすすめられ、リンはぎこちない動作で腰をおろした。アナトールは思考が空まわりしているのを感じた。事態が把握できない。マルコスの息子はふたつの悲劇に見舞われたというのか。
 それなら子供はどこにいる? マルコスの息子は?
 冷たい不安がわきおこった。子供のいないカップルはたいてい、新生児を養子にしたがる。まして父親がいないうえに母親も亡くなったとなると……。
 もうどこかの養子になっているのだろうか? そうだとしたら子供を探しだすのは難しい。たとえその許可を取りつけたとしても困難だ。それに子供が見つかったとしても養父母が簡単に手放すだろうか。そもそもティモンの後継者だから連れ戻したいという主張が通るのだろうか。
「いとこの子供は今どこに?」威圧的な口調にならないように気をつけながらも、アナトールは今すぐにその答えがほしかった。
 リンは顎を上げ、彼に視線を向けた。
「わたしのところよ!」熱く激しい口調で言った。
 彼女が情熱的になったとき、印象の薄かった風貌がいきいきと輝きだしたことに、アナトールはぼんやりと気づいた。
「きみのところ?」
「ええ、わたしと一緒に暮らしているわ! それだけ知れば充分でしょう」
 リンは不安とパニックに襲われて立ちあがった。いろいろなことがありすぎて、これ以上のショックには耐えられそうもない。
 アナトールは一歩前に踏みだすと、切羽つまったように言った。「ミス・ブランドン、話しあいたいことが――」
「いいえ! 話しあうことなど何もないわ!」
 いら立たしげな彼の視線をあとに、リンは部屋を飛びだした。
 リンはすっかり動揺していた。どうにか次の講義に出席はしたものの、何も耳に入らず、たったひとつの思いが頭の中を占拠していた。
 ジョージーはわたしのもの! わたしのものよ!


*この続きは製品版でお楽しみください。

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