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愛のファントム【MIRA文庫版】

愛のファントム【MIRA文庫版】


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 アン・スチュアート(Anne Stuart)
 二十五年以上におよぶ作家生活のなかで六十作を超える作品を発表。栄えあるRITA賞を三度も受賞した経歴を持つ。ベストセラーリストの常連で、雑誌ピープルやヴォーグにも登場したことがある。執筆の合間には、作家集会での講演のため各地を訪れる生活を送っている。夫と二人の子供とともに、バーモント州北部在住。「闇の貴公子」は1990年5月刊「ファベルジュの卵」と’91年12月刊「泥棒と探偵を」の関連作。

解説

麗しい悪魔の手に、絡めとられて――A・スチュアートの名作ゴシック・ロマンス、復刻!

父が起こした仕事上の重大なトラブルを処理するため、ミーガンは取引相手のイーサンの住む屋敷へ向かった。噂によれば、世にも醜い姿の彼は決して人前に現れないという。屋敷の異様さに不安を覚えつつも従僕に取り次ぎを頼むと薄暗い部屋に通され、男の姿が闇に浮かびあがった。顔は半分しか見えないが、この世のものとは思えないほど美しい――想像との違いに戸惑いながら、ミーガンは父の免罪を請う。すると男は、彼女を幽閉して“楽しむ”間は許すとしたうえで、冷たく告げた。「ただし君に飽きた瞬間、僕は彼を破滅させる」

*本書は、ハーレクイン文庫から既に配信されている作品のMIRA文庫版となります。 ご購入の際は十分ご注意ください。

抄録

 胸に火がついたようで耐えられないほど熱く、ミーガンはベッドに横たわりながら、塔の窓の外から聞こえる雷鳴に耳を傾けていた。目覚めているのでもなく、眠っているのでもなく、自分が死に向かって漂っていくのが感じられる。ただ漂っているのではなく、逆らい、もがきながら激しい潮に流されようとしていた。彼女は、蒸し焼きになりそうな掛け布団を蹴りつけ、肺まで達しない濃い空気のなかで足をばたばたさせた。
 体がすくい上げられるのを感じて、ミーガンは、一瞬、死神が迎えに来たのかと怯えた。
「静かに」そっと耳にささやく男の声が聞こえ、ミーガンは自分が無事なのがわかった。彼女のふるえる体を胸に抱えて窓のほうへ運んでいくのは、彼女の看病をしてくれる命の恩人なのだ。
 男は窓を足で蹴り開けた。一瞬、ミーガンは、窓の下のスレート張りのテラスに投げ落とされるのではないかと思った。いいえ、彼はそんなことはしない。わたしといっしょに飛び下りるんだわ。彼女は、もうろうとした頭でそう思った。
 開け放った窓から冷たい雨が吹きこんで彼女の顔を濡らし、ひんやりした風が、針のように体にしみ通っていった。だが冷風は、必死に呼吸を求めている肺に達し、ミーガンはむさぼるようにそれをのみこんだ。
 また、一条の稲妻が目の前の闇を切り裂き、彼女を抱えている男の顔を照らした。男はまるで地獄から来た|怪人《フアントム》のように見えた。一瞬の閃光でミーガンに見えたのは、男の顔の半面だけだが、それは、この世のものとも思えない美しさ、地獄の王になろうとした堕天使の美しさをたたえていた。
 そのとき、窓から吹きこむ風が、ただひとつの明かりだったろうそくの灯を吹き消し、部屋は真の闇になった。闇のなかでモンスターとふたりきりなのだ。彼女は恐ろしさに泣き騒ぐはずだった。
 だが、ミーガンは限られた力を振りしぼって手を上げ、男が着ているゆったりした白いシャツに触れてしがみつきながら、その肩に頭をぐったりともたせかけた。その小さな身ぶりで、信頼して身をゆだねたことを示すのが彼女にとっては精一杯だったが、それで十分だった。男の体を縛りつけていた緊張が、かすかにゆるむのが感じられた。
 男は窓際に椅子を引き寄せてすわり、ミーガンを膝に抱えた。「薬を飲んだほうがいい」低い美しい声だった。顔の半面の美しさに似つかわしい、魅惑的な声だった。喉に流しこまれる濃い水薬を、ミーガンは男にもたれながらおとなしく飲み下した。
「バブル・ガムみたいな味」彼女がかすれた声で言うと、男は耳を寄せた。シルクのような長髪がミーガンの口に触れた。
「なんだって?」男は低い声でせわしくきいた。
「お薬の味が、バブル・ガムみたいだと言ったの」ミーガンは一語一語、苦しげにあえぎながら答えた。
「ぼくはバブル・ガムを口にしたことがない」見知らぬ男がつぶやいた。「どんな味がする?」
 ミーガンの目には、闇のなかにぼんやり浮かぶ男の輪郭しか見えなかった。「試してみれば」とすすめた。瓶の薬で試せと言ったつもりだった。
 相手が闇のなかでもちゃんと彼女が見えているのは、ミーガンにはわかっていた。彼の目は闇に慣れているから、表情の細かいニュアンスがわかるはずだ。
「試してみよう」そっと言うと、男は、ミーガンの唇に口をつけた。
 それも、父親が娘にするような、軽い羽根のような触れ方ではなかった。彼女の口をおおい、柔らかい乾いた唇を開かせ、ゆっくりとむさぼりつくすようなキスだった。まるで、ひと晩かけても、彼の全人生をかけても、知りつくそうとするかのように。
 ミーガンの胸の熱は薄らぎ、代わりに、もっと下の、胃の芯のあたりが熱く燃えた。ことの成り行きとおなじくらい奇妙な、狂おしい欲望だった。常識は役に立たなかった。ミーガンは、夜と、この男性と、病に、けだるく身をゆだねていた。もし、かりにわずかでも力があれば、彼女のほうからキスを返していただろう。
 彼は、ほんのわずか顔を上げた。その顔はほほえんでいるにちがいない。「バブル・ガムって、こんな味だったのか?」
 ミーガンは答えられなかった。もう一度キスしてほしかった。とても暑かった。着ているものを脱がせてベッドに寝かせてほしかった。彼も寄り添って横になってほしかった。でも、それを告げることはできなかった。ミーガンはただ、彼にもたれ、彼の筋肉と骨を感じながら白いシャツに顔を押しつけるだけだった。
「君は死にはしない」男の声は激しかった。「ぼくから離れはしない。ぼくは君を放さない」
 ミーガンは、これに似た言葉を前にも聞いたと思った。それでわかった。わたしはイーサン・ウィンスローに抱かれているんだわ。イーサン・ウィンスローにキスされ、命を救われたんだわ。「わたしは死なないわ」ミーガンの声は糸のように細かった。言いようのない疲れに、わずかに残っていた意識が押し流されそうだった。「あなたのそばを離れないわ」とささやくと、彼女は身をゆだねた。まわりはすっぽりと闇に閉ざされた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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