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廃村にて

廃村にて


発行: キリック
シリーズ: 廃村にて
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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解説

大学生の男女五人が山登りの最中に迷い込んだ廃村──そこは「八百顔様」なる祟り神を祀る、決して足を踏み入れてはならない土地だった。何も知らない塔矢たち一行は偶然山中に見つけた廃村で一夜を明かすことになるが、そこで彼らは身の毛もよだつ怪異の数々に遭遇する。壊れたラジオから流れる奇妙な声、暗闇からこちらを覗く子供の眼、そして彼らを圧死させんとばかりに崩壊する家屋──これらの現象は果たして人為的なものなのか、それとも……。手がかりとなりそうな一冊の日記に書かれていたのは、世にもおぞましいこの村の秘密。そして、かつて行われていた残酷な「儀式」の存在。襲いかかる恐怖の連続に次第に正気を失いながらも、五人は何とか廃村脱出のカギを握る「八百顔様」の本殿にたどり着く。しかしそれは想像を絶する悲劇の幕開けでもあった……。

「八百顔様」の祟りは時空を超えてやってくる……狂気の廃村に導かれたのは果たして偶然なのか、必然なのか? 鬼才・梅津裕一が放つ予測不能の最凶不条理ホラー!

目次

第一部
第二部
第三部
第四部
第五部
終章

抄録

はじめのうちは、なにが起きているのかわからなかった。
 なにしろ、半世紀近く前のラジオから、音が発せられたのである。
 だが、聞き間違いなどではない。
 たしかに音が聞こえてくる。

 ……ろ……し……て……

 ひどく耳障りな雑音に混じって、妙に甲高い声や低い声がいくつも合わさり、一つの声のように聞こえてくるのだ。
 誰もが、呆然としていた。
 その場でみな、硬直している。
 なにか言葉を発したら、さらに恐ろしい事態を招き寄せるような気がする。
 そんな妄想じみた考えにとらわれそうになった。

 ……や……る……

 「……ろしてやる」と、声の主は言っているようだ。
 だが、別におかしなことではないのだ、と塔矢は思った。
 恐ろしく古いラジオではあるが、まだ奇跡的に壊れていなかったのだろう。
 そしてアンテナから受信したどこか遠方からの電波を拾い上げ、そのまま放送しているのだ。
 音の状態が悪いのは、おんぼろだからかもしれないし、あるいは山奥なので受信状態が悪いせいかもしれない。
 とにかく、まったくありえないことではなかった。

 ……こ……ろ……し……て……

 一気に背筋に氷柱《つらら》でも突っ込まれたようになった。
 心臓が恐ろしい勢いで鼓動を速めていく。

 ……や……る……こ……ろ……し……て……や……る……こ……ろ……

 次の瞬間、いきなりけたたましい嘲笑のようなものがラジオから放たれた。
 ありったけの悪意がほとばしるような、凄まじいまでの鬼気迫る嘲罵《ちょうば》である。
 そして、唐突にあたりに沈黙が訪れた。
 あまりにも突発的な出来事に、まだ頭がうまく働かない。
 十秒ほどして、ようやく富樫が絞り出すようにつぶやいた。
「おい……なんだよ……今の……」
 わからない、としか言いようがない。
「なんだ、これ? 誰かの悪趣味ないたずらか?」
 富樫が神経質な笑い声をあげた。
「そうだ……やっぱり、この村にいる誰かが、俺たちを追い払おうとしているんだ。だから、こんな手のこんだ真似をしたっ! なあ、塔矢、お前もそう思うだろ」
 少し異常なほどに、富樫は躁状態になっていた。
 あるいは恐怖を打ち消そうとしているのかもしれない。
「そうかもしれないが……でも、こんなこと……」
 わずかにふるえる声で、水琴が言った。
「今の声……『殺してやる』って、言っていたな」
「だからっ、いたずらに決まってんだろっ」
 塔矢の言葉に富樫がまたヒステリックに笑った。
 しかし、その裏にあるのは明らかな怯えである。
「きっと、カセットだっけ? そういうのがあるんだろ。ネタはわかってるんだよっ」
 富樫が机の上のラジオに向かって近づいていった。
「おい、富樫、迂闊にさわらないほうがいいんじゃ……」
「塔矢、お前までびびってるのか?」
 富樫は余裕を見せようとしたが、明らかに失敗している。
 口元のあたりが、おかしな具合にひきつっていた。
「わかってんだよ。こんなの、いたずらだって。くそっ……」
 カセットがどうこうと富樫は言っていた。
 昔、カセットテープというものが使われていたことは、塔矢も知っている。
 いや、今もまだ使われているはずだ。
 ラジオにはよくカセットテープの再生機能もついていたというから、誰かのいたずらという富樫の言っている意味は、理解できる。
 だが、塔矢の見た限り、その小型のラジオには「どこにもカセットテープがついているとおぼしき場所がない」のだ。
「おい、カセットどこだよ、カセット……」
「待て、落ち着け、富樫。ないぞ、そんなの。それ、ただのラジオだ。それに……」
 たちの悪い冗談であればいいと思いながら塔矢は続けた。
「それさ、電源、どうなってるんだ? 普通、コンセントに繋がっているはずだろ? でもそのラジオ……電源コードはついているけど、『コンセントから外れている』」
 富樫がラジオを持ち上げると、まるで尻尾のように電源コードがぶらりと揺れた。
 その先のコンセントへの挿入部は金属が赤茶けて錆びている。
 そもそも、こんな廃村にいまも電気が通っているとは、とても考えられない。
「は、はははははは」
 また富樫が笑った。
 ついに正気を失ったのかと思ったほどだ。
「はははは、馬鹿馬鹿しい。塔矢、落ち着けよ、別にラジオは電源が外になくても平気じゃねえか。電池が入ってるんだよ」
「あ……」
 迂闊だった。
 自分も驚きのあまり、冷静さを失っていたとしか思えない。
「ほら、見ろ、ここに電池を入れるところが……」
 それきり、富樫が固まった。
 たしかに電池を入れるスペースはある。
 しかし、そのなかは空っぽだった。
 電池がない以上、この旧型ラジオにはどこからも電源は供給できないことになる。
「う、嘘やろ」
 龍崎がかすれた声をあげた。
「な、なんや、それ……そないなこと、あるんか? なんでラジオから、音が聞こえたんや……」
「まあ、待て」
 富樫がまたにやりと笑った。
「俺たちは勘違いをしていた。たぶん、音が聞こえたのはこのラジオからじゃない」
「いや、どう聞いても……」
「黙れよ、龍崎」
 ひどく威嚇《いかく》的な富樫の態度は、やはりいつものとは明らかに違う。
「簡単だよ。きっとこの近くに、別に音を出すスピーカーみたいなものが取りつけられているんだ。論理的に考えれば、そういうことになる。なあ、そうだろ」
 それから富樫は憑かれたように、机の引き出しを次々に開け始めた。
 だがどの引き出しも空っぽだ。
「畜生っ! いったい、どこにつけたんだ……ひょっとしたら、この机のなかかもしれないっ! おい、塔矢、お前もちょっと手を貸せ! 机をばらばらにしたら絶対どこかに……」
「富樫、落ち着けっ」
「俺は落ち着いてるって言っているだろっ」
 どう見ても平静ではない。
 ほとんど錯乱一歩手前、といったふうにしか見えないのだ。
 意外だった。
 富樫は豪胆な性格をしているとばかり思っていたのだ。
 もっとも、富樫が半ばパニックに陥ったために、かえって塔矢は冷静になっていた。
 実際にひどく取り乱した人間を見ていると、奇妙にも人は落ち着いてしまうものである。
「わかった、そうだな。とにかく、居間に戻ろう。お前の言うとおり、この村から俺たちを追い出したいやつがきっといるんだ。そいつはこういう仕掛けを村の建物のあちこちに仕掛けているんだろう」
 自分で言っているうちに、実際にそれはありうることのように思えた。
 まるで幽霊でもいるかのようにこちらを脅かして追い払う、ということは十分に考えられる。
 「現実に何者かの声がラジオからささやきかけてきた」などという、到底ありえない事態よりは遥かに現実的だ。
「くそっ……どいつかしらんが、悪趣味なやつだなっ」
 富樫の怒りは、おそらく恐怖に起因している。
 他者に攻撃的になることで、なんとか自らの心の奥にある恐怖を鎮めようとしているのだ。
 いままで、富樫のことを見誤っていたのかもしれない。
 決して臆病というわけではないが、彼は人一倍、感受性が強いのだろう。
 そしてそれにより心が揺さぶられると、暴力的になって物事を解決しようとする。
 そういうタイプの人間なのだ。
 正直にいって、いささか厄介かもしれないと思った。
 暴力という意味で、このなかで富樫に勝てるものはいないのだ。
 またなにかあって本格的に錯乱した場合、誰も取り押さえることができないのである。
 果たして女性陣たちも富樫から若干、距離を置くようにしていた。
 彼女たちも富樫の潜在的な危険性に気づいたのだろう。
「ま、まあ……とにかく、落ち着こうな。はは、飴ちゃんでもいるか?」
「つまんねえ冗談言っている場合じゃねえだろ、龍崎」
 富樫は不快げにそう吐き捨てた。
「むかつくな……悪趣味すぎるだろう……」
 なんとか居間にたどり着いたが、間の悪い沈黙が降りた。
 ここには、テレビがある。
 まさかとは思うが、今度はテレビにもなにかおかしなものが映る、などということはありえないだろうか。
 これではまったくB級ホラー映画である。
「なあ……やっぱり、相手の正体、確かめたほうがいいんじゃねえか?」
「さっき、多数決で決めただろう」
「でも、状況が変わった。舐められっぱなしってのは厭だろう?」
 塔矢の制止を、富樫は聞いてくれないようだ。
「そういう問題じゃない。誰かが俺たちを追い払おうとしているのかもしれないけど、相手がもし大人数だったらどうするんだ。それにあそこまで手をこんだ真似をするんだから、本当に手配中の犯罪者とかかもしれないぞ」
「犯罪者だって、捕まえてやればいい」
「もし相手が武装していたら? たとえば拳銃とか持っていたら?」
 それを聞いて、富樫は黙り込んだ。
「とにかくトラブルはまずい。危険すぎる。いいか、夜が明ければ俺たちは出発する。それまで今から十二時間くらい、我慢すればいいだけの話だ」
「気に食わねえな」
 むっとした様子だが、少しは富樫の精神も落ち着いてきたようだ。
「せ、せやなあ。お腹すくと怒りっぽくなるって言うし、そろそろ夕飯はどうや?」
 龍崎の言うことも間違ってはいない。
 空腹は、人を短気にする。
「そうだな。まだ食料は十分に残っているんだから……」
 くすくす、というひそやかな笑い声がどこからともなく聞こえてきた。
 一同がまた凍りつく。
 まるで子供が何人も同時に忍び笑いをしているようなのだが、奇妙なことに音がどこから聞こえてくるのかまったく見当もつかないのだ。
「ちょっと……こ、これもいたずらなの……嘘でしょう?」
 水琴はすでに涙声になっていた。
 塔矢はなるべく落ち着こうと努力しながら、耳をすませた。

 ……ねばいいのに……
 ……おの……かわを…
 ……っくり……はぎとっ……

 日本語とおぼしき単語のかけらをいくつか音のなかから拾ったが、意味はよくわからない。
 ただ、いままで感じたことのないほどの不吉さを覚えた。

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