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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクインSP文庫

幻のシャトオ

幻のシャトオ


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクインSP文庫
価格:400pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 サラ・クレイヴン(Sara Craven)
 イングランド南西部サウス・デボン生まれ。海辺の家で本に囲まれて育った。グラマースクール卒業後は、地元のジャーナリストとして、フラワーショーから殺人事件まで、あらゆる分野の記事を手がける。ロマンス小説を書き始めたのは一九七五年から。執筆のほかには、映画、音楽、料理、おいしいレストランの食べ歩きなどに情熱を傾けている。サマセット在住。

解説

フランスのオーヴェルニュ地方に立つ古城──その城主ブレーズの妻となった若きアンドレアは怯えていた。彼女は従妹が安易に交わした便宜結婚の約束を取り消すため、イギリスからたったひとりでこの城へやってきた。ところがブレーズから執拗に責め立てられて、結局、彼女が身代わりの花嫁になるしかなくなったのだ。私欲のために見知らぬ女性を妻にするなんて、残酷すぎるわ!彼を憎もうとしたアンドレアだったが、美しくも顔に傷をもつブレーズの、閉ざされた心を知り……。

抄録

 息がつまりそうなひとときであった。隆々とした筋肉が強く押しつけられるのを感じた。マダム・ブレソンが部屋を出たのか、ドアの閉まる音にアンドレアはびくっとして我に返った。彼女はもがいて身を振りほどき、頬を紅潮させて男を見すえた。
「こんなこと、契約には入っていませんわ」落ち着き払って冷たく言い放つつもりだったのに、まるで小娘のようにあえいでうわずった声になってしまった。生まれて初めてキスをされたと思われるにちがいない。アンドレアは自分に腹が立った。
 ブレーズ・ルバリエは肩をすくめた。そこにはおもしろがっているような雰囲気が感じられる。
「しかし人前ではこれぐらいしないとね。こういう場合は習慣を無視するとまずいことになりますから。ぼくたちの契約は二人だけの約束事だ。あなただって村中の噂になるのはいやでしょう」
 アンドレアは唇をかんだ。「それはそうですけれど、私……思いがけなくて。あなたが……急に私を抱きしめるから」
「なるほど。じゃあ、今後は前もってはっきりと合図を送ることにしましょう」
 クレアだったらどんな反応を示すだろう? たぶん色っぽいしぐさをしてみせるはずだ。しかし、自分にはとてもそんなまねはできない。べつに傷跡がどうというのではない。彼には普通の肉体的な魅力以上に強い、どこか官能的な魔力が感じられる――それなのに、自分はこの男をうまく操らなければならないのだ。アンドレアは男たちと一緒に働き、男と同格の扱いを受けることには慣れていたが、感情におぼれたことは一度もなかった。それは、彼女が最も軽蔑していたことである。
≪この男が恐ろしい……私の心を揺さぶる何かを持っている……≫一瞬そんな考えにとりつかれたが、彼女はすぐに心のよろい戸を閉ざした。どうかしている、運転で疲れすぎて神経が参っているのだ。
「道中、何か困ったようなことは?」上手な英語である。そういえばクレアが、彼はしばらく外国にいたらしいと話していた。
「いいえ。大陸で運転するのは初めてじゃありませんから」我ながらこちこちに緊張しているのがわかる。
「そうですか。しかし、あなたがそんなに運転に自信があるとは意外だな」
 はやばやとまずいことを言ってしまった。クレアはきっと数々の運転ミスの話も打ち明けていたのだろう。しかしアンドレアも、自分を女らしく、ちょっとばかみたいに見せるこつを心得ていた。
 アンドレアは、軽く肩をすくめてほほ笑んだ。「でも、人をあやめたことは一度もありませんのよ」
「神のご加護があるんですね」傷跡が男くさい印象を与えている。「さあ、コートを取りましょう」
 彼の手が肩にかかったとき、アンドレアは思わず緊張した。しかし今度はひどく事務的だった。彼は暖炉の片側に置いた木の長椅子を手で示してアンドレアを座らせ、自分はそのまま立っていた。
「間もなく夕食だが、|食前酒《アペリチフ》はどうです? それともひとまず部屋に行きたいですか?」
「しばらくゆっくりと座っていたいですわ。それにトランクもまだ車の中ですし」
「そうですか。ガストンに取ってこさせましょう」彼がすり切れたつづれ織りのひもを引っ張ると、遠くで鈴の鳴る音が聞こえた。彼は彫刻のあるどっしりとしたサイドボードに歩み寄り、アンドレアのほうを顧みた。「デュボネ? それともシェリーですか?」
「デュボネをお願いします」なんだか力が抜けていくようだ。すべてが自分の思わざる方向にどんどん突っ走っていく。そして今、この男と一緒に食前酒を飲もうとしている。彼はただの親切な友だち、まるでそんな感じだ。今夜はお互いにかしこまって当たりさわりのないやりとりをして過ごすのだろうか? 知りたいことは山ほどあるのに。まず、今でもまだクレアと結婚する計画に変わりはないのかどうか、それを是が非でも知らなければ。グラスを渡されて、アンドレアは小さな声で礼を言った。ちらりと見上げると、何か考え込むように唇を固く結んだ厳しい表情があった。何事であれ、容易に説得に応じるような男ではなさそうだ。
「さあ、乾杯しましょう。ようやく会えたことを祝って――マドモアゼル」
 ブレーズ・ルバリエがグラスを合わせた。アンドレアは口の中で何かぶつぶつとつぶやいたが、急に頬が赤くなり、彼がそれを火のせいだと思ってくれるように祈った。ドアが開いたのでアンドレアはほっとした。のろのろと入ってきたのはずんぐりとした小男で、日に焼けた顔に丸い目が動いている。
「だんなさん、何か?」
「ああ、ガストンか」ブレーズ・ルバリエはフランス語でふた言三言交わして、アンドレアに顔を向けた。
「車のキーがいるんですよ」
 アンドレアはためらった。へたにキーを手放したくなかった。車は安全地帯に逃れるパスポートだから、それを持っているだけで安心感があったのだ。
「心配しなくて大丈夫。ガストンは鈍いが非常に信頼できる男でね、うちの家族には献身的なんですよ。あなたの荷物は間違いなく部屋に運んでくれる、ぼくが保証しますよ」
 アンドレアは口実がみつからなくて、顔がさらにほてった。仕方なくバッグを探ってキーホルダーを取り出し、待ち受けるガストンの手のひらにのせて礼の言葉をつぶやいた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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