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甘美な賭け【ハーレクイン文庫版】

甘美な賭け【ハーレクイン文庫版】


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 シャロン・ケンドリック(Sharon Kendrick)
 ウエストロンドン生まれ。写真家、看護師、オーストラリアの砂漠での救急車の運転手、改装した二階建てバスで料理をしながらのヨーロッパ巡りなど、多くの職業を経験する。それでも、作家がこれまでで最高の職業だと語る。医師の夫をモデルにすることもある小説のヒーロー作りの合間に、料理や読書、観劇、アメリカのウエストコースト・ミュージック、娘や息子との会話を楽しんでいる。

解説

ヴェリティは、新たに転任してきた医師を見てわが目を疑った。ベネディクト──夢中だった恋人。手酷い裏切りを知るまでは。ある日、なんの理由もなく彼は忽然と姿をかき消したのだ。そのあと、妊娠に気づいたヴェリティはたった一人で産み、心にあいた空洞を埋めるため、娘だけをよすがに生きてきた――弄ばれて、捨てられたのに。やりきれない傷が疼くのに。それでも彼を前にすると、全身のほてりを抑えられない。しかも、彼が放った言葉の刃が、ヴェリティの胸を裂いた。「君の名は?」

*本書は、ハーレクイン・ロマンスから既に配信されている作品のハーレクイン文庫版となります。 ご購入の際は十分ご注意ください。

抄録

「どうしたの? 大丈夫?」
 ヴェリティは目を開けて、なんとかほほえんだ。「ええ、大丈夫よ」嘘だった。「ちょっとむかむかするだけ。すぐよくなるわ」
 ジゼラはいつものように早合点して、うなずいた。「今、あれなのね」彼女は返事を待たずに続けた。「紅茶をいれるわ。飲めば、気分がよくなるから。二、三分したら、休憩室にいらっしゃい」
 ヴェリティはジゼラの言葉の皮肉さに返す言葉もなく黙ってうなずいた。“今、あれなのね”ジゼラはなにも考えずに言ったのだが、ヴェリティは自分が妊娠したとわかったとき、どんなにこわかったかを思い出して、寒気がしてきた。
 それは調べてみるまでもないことだった。いつも順調だった生理が一カ月も遅れていたことに、喧嘩別れしたあとで精神的にまいっていて気づかなかったのだ。今、思うと信じられないが、ストレスのせいだと思おうとした。それでも、とにかく、妊娠検査薬を買ってきた。
 そのあとバスルームに座って、自分の確信していることが科学の力でくつがえされますようにと、祈るような気持ちで結果が出るのを見つめていた……。
 更衣室のドアをノックする音がして、ヴェリティはびくっとして我に返り、のろのろと立ちあがってドアを開けた。ドアの外に立っていたのはベネディクトだった。形のいい唇に、あの憎たらしい笑みを浮かべている。
「いっしょにランチに行かないか?」彼はいきなり誘った。
「私、それほどおなかがすいていないから」ヴェリティは感情を抑えて断った。
 ベネディクトがヴェリティの青白い顔を見て、ゆっくりうなずいた。「そうか。だったら、コーヒーだけでも」
 ヴェリティはどう返事をしていいのか、わからなかった。たぶん思ったままを言うしかない。彼女はまっすぐな視線をベネディクトに向けた。「どうしてわざわざそんなことを?」
 ベネディクトがわずかに驚いた顔をした。自分の決めたことに疑問をはさまれるのに慣れていないかのようだった。
「わかっているだろう?」彼は言った。「どうして僕が君と話をしたいか」
 ヴェリティはため息をついた。「もちろん、わかっているわよ。でも、心配しないで」彼女は他人事のように言った。「あなたがこの病院にいる間、あなたのお楽しみのじゃまをするつもりはないから」
「僕が言いたかったのは、そんなことじゃない」
「あら、そうじゃなかったの?」ヴェリティは冷たく応酬した。
「ああ」そう答えてから、ベネディクトは声の調子をがらりと変えた。「髪を切ったんだね」
 彼はそのとき初めて、手術帽をかぶっていないヴェリティを見たのだ。淡い金色の髪を顎の線でカットした髪型はよく似合っていて、長い髪をウエストのあたりまでたらしていた六年前よりも洗練されて見えた。
「じゃあ、あなたは覚えていたのね」ヴェリティはついよけいなことを言ってしまった。
 ベネディクトが気分を害したのか、少しだけ唇を曲げた。「もちろん覚えているさ。僕たちは……」
 ヴェリティはかぶりを振った。やめて。お願いだから、つまらない嘘をつくのはやめて。本当はそうじゃなかったのに、さもそうだったかのように言うのはやめて。
「私たちはちょっとだけ遊びで付き合ったけど、でも、それだけなの。あのときはそれなりに楽しかったけれど、今さら蒸し返すことになにか意味があるとは思えないわ」
 ベネディクトは意味ありげにほほえんだが、まだ明らかに気分を害していた。「君は付き合った相手にはだれにでも、そういう冷たい態度をとるのか、ヴェリティ?」
 ああ、私からこんな‘特別待遇’を受けられるのが自分だけだと知ったら、この人はきっと大声で笑いだすのだろう。「たいていの人は、あなたほどしつこくないのよ」彼女は軽くいなした。
 ベネディクトは返事をする代わりに、抜け目のないエメラルドグリーンの目をくるりとまわして、ヴェリティの左手に視線を落とした。そして、どの指にも指輪をつけていないのを見てとると、自分でも不思議なくらいうれしくなった。
「結婚してはいないんだね」そう言いながら、彼はにやりとしたいのをかろうじてこらえた。
 ヴェリティは嘘をつこうとした。仕事上、一日に何度も手を洗わなければならないから、指輪をしているとじゃまだと言うこともできた。だが、心の中まで見透かすようなエメラルドグリーンの目をまっすぐ見て嘘をつくことはできず、結局、正直に答えていた。
「ええ、結婚していないわ」
「だったら、コーヒーを飲むぐらいは――」
 ありがたいことに、ちょうどそのとき、ジゼラ・バクストンの声が聞こえてきた。
「紅茶の用意ができたわよ、ヴェリティ」
 その声と同時にスイングドアが閉じる音がして、ジゼラ本人が姿を現した。
「さあ、いらっしゃ――」ジゼラは看護師用の更衣室の入口に立っている新任の上級研修医を見ると、好奇心に目をきらめかせた。「まあ、ドクター・ジャクソン」
 ベネディクトは笑顔でうなずいた。「たしか、ジゼラだったね。今、紅茶が用意してあると言ったかな?」
「ええ、そうなんです。あなたもいかがですか?」
「それはありがたい」


*この続きは製品版でお楽しみください。

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