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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクインSP文庫

愛した記憶

愛した記憶


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクインSP文庫
価格:400pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 アン・メイザー(Anne Mather)
 イングランド北部の町に生まれる。息子と娘、二人のかわいい孫がいる。自分が読みたいと思うような物語を書く、というのが彼女の信念である。ハーレクイン・ロマンスに登場する前から作家として活躍していたが、このシリーズによって、一躍国際的な名声を得た。

解説

イギリス北部の美しい湖のほとりに立つ、優雅な屋敷。苦い思い出だけが残るかつての住まいに戻ってきたことをレイチェルは激しく後悔していた――いくら葬儀のためとはいえ。10年前、レイチェルはある出来事を機に、心から愛した富豪の夫マシューと別の人生を歩むことにした。その後、マシューはレイチェルのいとこ、バーバラを後妻に迎え、今、そのバーバラが病でこの世を去ったのだ。親戚らしく彼に悔やみを告げたら、すぐにロンドンへ帰ろう……封印した悲しみが、ふたたび胸にあふれだす前に。

抄録

「こんにちは、マット」レイチェルができる限り冷静な目でマシューを見上げ、無表情にそう言うと、ローズマリーが驚いた顔をした。父親とレイチェルが知り合いだなどと夢にも思っていなかったのだろう。
 ローズマリーは美しい少女ではなかった。父親ゆずりの黒い髪に浅黒い肌をしているが、マシューの力強い顔立ちが今でもとまどうぐらい魅力的なのに、娘の顔は生気に乏しい。
 もっともマシューにこんなふうに見下ろされていては、ゆっくり観察もできない。マシューは変わった。ところどころに白髪が交じり、体ががっちりした点を除けば、外見はさほど変わりはない。けれど私の覚えているマシューは親しみやすく、感じがよくて、今の彼のような気難しい雰囲気はなかった。私が恋におちたマシューは、決してこんなふうにあらわな嫌悪感を浮かべた冷たい視線を人に向けることはなかった。
 しかしローズマリーは父親の表情には気づいていない。父親がレイチェルに礼儀正しく返事を返すのを聞いてあわて始めた。
「パパ、私がやったんじゃないわ! 私じゃなくて誰かほかの人よ! 私がそんなことするはずがないって、この人に言って!」
「何だって? 何を言ってるんだ? 君は何か知っているのか、レイチェル」
「ええ」レイチェルはしぶしぶ答えた。マシューはむっつりした顔のまま、ひらりと馬から降りた。
 急に荷の軽くなった馬が落ち着きなく体を動かすのを、鼻づらを撫でてなだめる。「ローズマリー、おまえが説明しなさい。どういうことなんだ?」
 レイチェルはため息をついた。車を傷つけられたことなど今ではもうどうでもよかった。実際、考えれば考えるほど、少女をここまで追ってきた自分がこっけいに思えてくる――しかもこんな服装で。ハイヒールはこすれて傷がついているし、ストッキングの伝線はますますひどくなっている。
「私のせいじゃないわ」ローズマリーがまた言った。このままだと事態が複雑になる一方だ。レイチェルは割って入った。
「ちょっとした誤解があったの。たいしたことじゃないわ。私はこの子が誰だか知らなかったし」
「だからって、変わりがあるのか?」
 マシューの声はそっけなく、よそよそしかった。嫌悪感がこみ上げてくる。二人とも同じだ、父も娘も。二人とも私を劣った者であるかのように傲慢で尊大な態度で扱う。このまま見下されてはたまらないという気持が頭をもたげてきた。
「ないわ」レイチェルは答えて、岩だらけの斜面を取って返した。こんなところで彼らと言い合いをする気はない。修理代は自分で負担しよう。コンロイ家に賠償を求めるなんて考えは間違っている。
 岩の上でハイヒールが滑り、あやうく転びそうになった。ローズマリーがくすくす笑う。その高慢ちきな笑い声はレイチェルの神経を逆撫でした。引き返して一言言ってやりたいという衝動を必死でこらえる。君子危うきに近寄らずよ。レイチェルは呪文のようにそう繰り返してひたすら先へ進んだ。
「レイチェル!」
 マシューの荒々しい声は、柔らかな肌をざらざらした手で撫でられたような感覚を引き起こした。ベッドで愛し合ったとき、何度そうささやきかけられたことか。何度彼はわれを忘れて私に夢中になったことか――バーバラに夢中になったように。その事実を決して忘れてはならない。
 レイチェルは柵を越えようとしたが、すでに先回りしたマシューが待っていた。何といってもブーツをはいていることが有利だ。マシューは手を差し出した。しかしレイチェルは気づかないふりをして自分で道路に下りた。なんてこと、ストッキングには六本以上線が入っているし、手はすりむけている。仕返しの価値は充分あったのに、私のしたことといえばみっともない格好をさらしただけ。
「レイチェル!」
 マシューが腕に手をかけたが、レイチェルはすり抜けて道を下り始めた。コンロイ家の誰ともかかわりたくない。こんなところに帰ってくるんじゃなかった。完全に失敗だった。
「待てよ、レイチェル!」今度の声にははっきりした怒りがこめられている。彼はローズマリーに馬から降りるように命ずると、レイチェルに追いついた。「言ってくれ。冗談で追いかけてきたわけじゃないだろう」
 レイチェルは不承不承立ち止まった。「たいしたことじゃないの」動悸が速くなるのは歩いたせいだけではない。それが自分でも腹立たしかった。「もう行くわ。ジェフリー伯父さんが心配するから」
「ジェフリー伯父さんなど知ったことか!」マシューは後ろを向いてローズマリーが言われたとおりにしたかどうかを確かめ、またレイチェルに視線を戻した。「それで、どうなんだ?」
「私は子供じゃないのよ、マット」彼の高飛車な態度にひどく腹が立つ。「今言ったでしょ、たいしたことじゃないって。じゃ、さようなら」
「レイチェル!」
 マシューはとっさに彼女の手首をつかんだ。レイチェルは怒った目でマシューを見つめ、それからゆっくりと視線を下ろしていった。ややあってマシューは手を放した。
「さようなら、マット」レイチェルは冷たく言い、昂然とあごを上げて去った。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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