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もう戻れない

もう戻れない


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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解説

夏と海にかこまれて、名前も知らない貴方を愛した。同じ色の目をした小さな奇跡が、今も私を生かしている――

その日もサマーはあどけない娘の瞳に、過ぎ去った夏を思い出していた。海で溺れかけたサマーを助けてくれた、琥珀色の目をした男性。母を亡くし、荒れた毎日を送っていたサマーは、彼のなかに同じ孤独を感じとり、傷を癒やし合うかのように愛を交わしたのだった。あれから2年半がすぎ、名前も訊かずに別れた彼は、サマーの人生に再び現れた――ニューヨークの名門一族に生まれ、莫大な財を生み出す不動産業界の寵児、ライダー・クレイグとして。はじめて娘の存在を知った彼は、あのときの優しさが嘘だったかのように冷淡で……。

抄録

 サマーが仕事に取りかかったちょうどそのとき、キャリーが目を覚ました。サマーはキャリーにひだ飾りのついた白いロンパースを着せると、あとは自由にさせた。キャリーはサマーの仕事机にまとわりついていたかと思うと、自分の部屋へ引き返す。いつものように、色とりどりのおもちゃを引っ張り出しては、桃色のぽっちゃりした足でよちよち歩き回り、片時もおしゃべりをやめなかった。
 しかし、サマーは気がついた。椰子の木を取り囲む車道で、ミニバンの隣に車のとまる音がした。遅い午後の弱々しい日差しのなかでも、そのスポーツカーは赤いりんご飴さながらにぎらりと輝いている。
 サマーの心臓がとたんに猛烈な勢いで打ち出した。もっと露出度の低いものに着替える時間はもうない。そう頭の片隅で考えながら、サマーは肝心なことを忘れないようにした。ライダー・クレイグがやってきたのだ。ジーンズにネイビーブルーのポロシャツ姿で車から下りたライダーは、ミラー・サングラスをかけ直すとあたりを見回した。
「どうすればいいの?」ライダーがこの状況を見てどんな結論を引き出すか、それは火を見るより明らかだった。わたしと、わたしの家にいる幼い子供。
 ノックの音が聞こえると、サマーは机の前から立ち上がった。居留守を使うわけにはいかない。ずっと苦しんできたが、これで自分から決断を下す必要はなくなった。いよいよ彼も自分に娘がいることを知るのだ。ほっとすると同時に、息苦しいほど怖くもあった。サマーはドアを開けた。
 しかし、訪問者のサングラスを見たとたん、サマーは不愉快になった。怒りさえ覚えた。キャリーのことを彼にもっと早く教えなかった後ろめたさも薄らいだ。相手の視線はのぞけないのに、向こうはサングラスの陰からあの翡翠色の瞳で、こちらをじっくりとながめまわしているのがわかったからだ。
 サマーは自分が隙だらけのように感じた。靴もはいていない、むき出しの長い脚。白いショートパンツの折り返しからのぞく腿。ぴっちりしたタンクトップの下の、はち切れんばかりに豊かなバスト。サマーは彼をにらみつけた。紳士なら、まず電話をかけてくるべきだ。
 だが、彼は紳士ではない。どんなにうわべを飾ろうと、サングラスの下には海の放蕩者がいた。昼間会ったときの慇懃な見せかけはあとかたもなかった。
「そうか、ここに住んでいるのか」
「ええ」サマーはドアのそばに立った。相手が冷静な態度を崩さないなら、こっちもクールに対応しよう。そうすれば長居はしないだろう。ひょっとすると、もう少し時間を稼げるかもしれない。彼に事実を話すとき、もっと有利な立場に立つために。
 だが、ライダーはドアのすぐ外のポーチに立ちはだかって、いっこうに帰る気配を見せない。天井の扇風機が静かな風を起こし、彼の髪をなぶる。「ここはなかなか雰囲気があるな。昔ながらのリゾートホテルがなくなっていくのはたまらないよ。お客もこうしたところのほうがもっとくつろげると思うんだ。なにしろお客第一で作られているからね」
 サマーは彼が自分たちの置かれた苦境を知っていることに気がついた。そういえば、たしか大手の土地開発会社にいると言っていた。だが、サマーの頭のなかは時間稼ぎのことでいっぱいだった。キャリーについては、できるだけうまく話すようにしなくては――。
 キャリーの部屋はしんとしているが、また眠ってしまったわけではないだろう。つかのまの静けさだ。
「聞いてくれ」ライダーは静かに話し出した。サングラスをはずして、緑色の目で見つめてくる。「けさは出だしからよくなかった。もっとも……」唇に曖昧な笑みを浮かべてつけ足す。「初めからうまくいったときなんてあったかな?」
 サマーは素足の爪先で踏んでいる敷居を見下ろした。こんなにやさしくて親切なライダー・クレイグにどうして逆らえよう。忘れもしない、いまの彼はあの日クルーザーにいた男そのものだ。
「とにかく、ぼくは話し合いを中途半端にしておくことはできないんだ」ライダーはサマーが答えないので言った。
「そう」
「入ってもいいかい?」
 サマーは無力な獣になったような気がした。いったいわたしに何ができるというの? サマーは後ずさりして、ライダーを小さな居間に通した。床のあちこちにかわいいおもちゃが転がっている。
 ライダーは狐につままれたように、茫然と立ちつくした。
「ベビーシッターをしているのかい?」
「いいえ、わたしは……」
「誰かと一緒に暮らしているのか?」
「違うの。あなたの考えてるようなことじゃ……」
「結婚したのか」
「一度、十八のときにね。でも……」
「そうだったのか」
「ねえ、聞いて。あなたの考えてるようなことじゃないのよ。実は……とにかく、座らない?」
 まさか本当に座るとは思わなかったのに、ライダーはふたり掛けのソファーに腰を下ろした。
 サマーは立ったままでいた。またもライダーが、じろじろと見つめてくる。サングラスをかけてくれていたほうがずっといいのに。彼の目に見つめられると、体じゅうの血が熱くなる。ふたりのあいだの欲望はいつでもぱっと燃え上がってしまう。何しろ、わたしはその証拠と一緒に暮らしているのだから。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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