マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクション恋愛小説ロマンス小説

緋の抱擁

緋の抱擁


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 未評価
◆レビューを書く

¥0サンプル
購入する


解説

 大学生のジリーは姉のサマーに会うため日本を訪れる。だが、サマーはスパイである夫のタカシとともに暗殺のターゲットとして狙われ、姿を隠していた。そうとは知らずサマーの家に足を踏み入れ、ジリーは怪しい男たちに襲われそうになる。危ういところ、ジリーの命を救ったのはタカシと同じ組織のスパイ、レノだった。2年前にはじめて会って以来、彼にほのかな恋心を抱いていたジリー。しかし、甘い再会を密かに期待していた彼女に対し、レノは「今すぐアメリカに帰れ」と言い放った。氷のように冷たい視線を投げかけながら……。

抄録

 レノは優雅にして敏捷な動きでカプセルのなかに入り、扉がわりのシェードを閉めた。しばらくどこかに行っているあいだに相手の体が小さくなったはずもなく、レノが横になると室内の狭苦しさはいっそう増して、ジリーは縮まるように隅のほうへと体を寄せた。
「きみも横になったらどうだ、ジリー。俺の体にブロックされて、きみはもうここから出られない。俺もこれからチェックアウトぎりぎりまで眠るつもりだ。そんな姿勢でひと晩じゅう座ってるつもりか」
「わたしのことは放っておいて」ジリーは冷ややかな声で言った。
「そんなところにいられたら、こっちが窮屈でたまらない」レノは無駄のない動きで体を引きよせ、強引に横にならせると、片手を伸ばして頭上の明かりを消した。
 ふたりはわきを下にして、互いに顔を合わせる形で横になっている。どうしてブラジャーを外してしまったんだろう。指示されるまま着替えてしまったことが、いまさらながらに悔やまれた。こんな薄手の服よりも、いま必要なのは鎧だった。同じくらいの背丈の者同士、脚や腰、そして胸と──同じ部分がそれぞれに貼りつく格好になって、身動きがとれない。相手の顔も、あまりに近くにありすぎた。
「おとなしく眠るんだ」冷たく突き放すような声の調子とは反対に、レノの腕はからみつくように体に回されている。
「そっちこそ早く眠ったら?」
 暗くて顔は見えないけれど、なぜか相手が微笑んでいるように思えて仕方なかった。薄笑いでも嘲笑でもなく、絶対に人には見せない笑顔が、そこにあるような気がした。
「きみがそうしてほしいならもう眠らせてもらおう」そう返事するなりレノは全身をリラックスさせ、緊張感や警戒心を解きほぐした。呼吸もゆっくりしたものに変わり、心臓の鼓動も一定のリズムに落ち着いた。
 それとは対照的に、こちらの高ぶった神経は静まる気配もない。
 体を動かそうとすると、即座にレノが反応して腕に力を込めた。「素直に受け入れろ」レノはささやくように言った。
 受け入れろって、なにをよ。ジリーは無力な自分に腹立たしさを覚えた。わたしだって、できることならなにも考えずにぐっすり眠りたい。でも、疲労は限界まで来ているはずなのに、眠気はなかなか訪れなかった。素直にこの状況を受け入れて、いい加減、無駄な抵抗はやめろと言いたいの? たしかに相手の思いどおりにさせられている状況に嫌気が差していた。実際、威圧的な態度は不愉快きわまりない。なにか命令されるたびに、それに強く反発する自分がいた。同じ状況でもいっしょにいるのがタカシだったら、きっと素直に従っていたに違いない。けれども相手がレノとなると、なぜか反発的になって、必要以上にかたくなになった。
 それともこの状況はもとより、自分の感情を素直に受け入れろという意味なのだろうか。たとえそうだとしても、そうするメリットはどこにもなかった。たしかにこの二年あまり、海を隔てたロサンゼルスにいて、一度しか会ったことのないレノのことをあれこれ想像していたのは認める。その前の二年間は、ジョニー・デップが妄想の対象だった。けれどもそんな夢見がちな乙女心は、醜い現実を目の当たりにし、レノと行動を共にすることによって、跡形もなく砕け散っていた。
 ところが頭ではわかっていながらも、あいにく体や心はまだ状況に順応できていなかった。レノはじっと動かず横になっている。狭い空間のなか、ただでさえ近すぎるというのに、自分のほうから体を押しつけ、その胸に顔を埋めてみたいという衝動は高まる一方だった。レノはいったいどういうキスをするのだろう。正直言って、こんなにまで魅惑的で美しい唇をした男の人を見たのは人生ではじめてだった。たしかにその口から発せられる言葉は憎たらしいものばかりだけれど、官能的な唇をしている事実は否定できない。
 こんなばかげたことをもんもんと考えつづけているなんて、ここ数日の狂気に満ちたできごとのせいに違いないわ、とジリーは思った。なにしろこの目でいくつもの死を目撃し、自分の命さえ危険にさらされているのだ。右も左もわからない異国にあって、身近な人物に頼ろうとするのも無理はない。どんなに危険な男でも、いまの自分にとってはレノだけが唯一の頼りだった。肉体的な欲求を感じているのも、異常な状況にあって動物的な本能が働いているせいに違いない。
 でも、レノを相手にそんな欲求を抱くなんて正気の沙汰ではなかった。一刻も早くこの男から離れなければ、今度はどんな不運に見舞われるかわからない。なんとか無事ロサンゼルスに戻ることができれば、多少プライドや心が傷つく程度で、その後はまた異性とは無縁の、刺激のない平凡な生活が待っているはずだった。これ以上この男といっしょにいたら、いつ自分を見失って、あとで悔やむことになる行動に出るかわからない。

*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。