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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・クラシックス

幻のかなた

幻のかなた


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・クラシックス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ダイアナ・ハミルトン(Diana Hamilton)
 イギリスの作家。ロマンチストで、一目で恋に落ち結ばれた夫との間に三人の子供をもうけた。就寝前の子供たちにベッドで読み聞かせるために物語を書きはじめる。ロマンス小説家としてのデビューは一九八七年、その後数多くの名作を世に送る。二〇〇九年五月、ファンや作家仲間に惜しまれつつ亡くなった。

解説

 セリーナは幼いころ事故で両親を失い、母の年の離れた姉である伯母一家に引き取られた。伯父は血のつながった伯母よりもセリーナをかわいがってくれ、今では彼女は伯父の会社でやりがいのある仕事を任されている。その敬愛する伯父が、ある日心臓発作をおこして倒れた。アダム・チューダーという男が接触してきたせいだった。伯母と、その息子ドミニクの話によれば、彼は伯父が若いころ、よくない女性にひっかかってもうけた子供で、長年にわたって伯父にお金をたかり続けてきたのだという。そして、あろうことかチューダーはこんなことを言い出した。伯父さんを守りたければ、ぼくと結婚するしかない、と……。

抄録

 セリーナ自身もアダム・テューダーにもう一度会うのを恐れている。心の声がセリーナをあざけった。あの並外れて男らしい魅力に自分がどんな反応をしてしまうか、それが心配なのではないか。
 だがもちろん、そんなことはありえない。なんの根拠もないことだ。セリーナは心の声を力強く打ち消すと、肩をそびやかしてボルボを止めてある場所へ靴音を響かせながら向かっていった。世間知らずのティーンエイジャーではあるまいし、ハンサムだからだとか、体がたくましいとか、魅せられるような声の持ち主だとかいうことだけで、私が我を忘れたりするはずがない。
 セリーナは家へ帰って、夕食に人を招いてあると家政婦のメグに告げた。なぜそう決めたのか、自分でもよくわからない。自宅のほうが安心できると感じたのだろうか。それは裏返せば、やはりあの男を怖がっているということになる。だがその点については、恐れてなどいないとさっききっぱり自分で断言したではないか。
 だんなさまが入院中だというのにお客さまだなんてと言いたげなメグに、セリーナは無表情に言葉をつけ加えた。「仕事なの。だから簡単な献立でけっこうよ。張りきる必要はないわ」
 まさに仕事だった。それも、不愉快な仕事だ。すっきりした髪にまとめようとしても、豊かな髪は言うことを聞かなかった。セリーナはあきらめて肩にふわりとかかるままにした。
 意識的に地味な服装を心がけて、濃紺のウールのワンピースを選んだ。だが、その選択はセリーナの思惑とは反対の結果になってしまった。ほっそりした体つきは飾りけのないデザインによってかえって引き立ち、部屋の中の目立たない色を背景に髪が燃えさかる炎のように照り映えて見える。セリーナは我ながら驚いた。
 別の服に着替えている時間はない。そろそろ八時だ。アダム・テューダーを待たせることだけは避けたかった。もしも応接間で長く待たせたりしたら、彼はきっと自分のためにめかしこむのに時間がかかっているのだろうとうぬぼれるに違いない。
 セリーナが階段を下りようとしたとき、玄関の呼び鈴が鳴った。心臓が口から飛び出るかと思うほどどきっとする。来客を迎え入れるために玄関に向かうメグの足音が聞こえたとき、かつて経験したことのない孤独感がセリーナを襲った。セリーナはそんなそぶりは絶対に見せまいと心に決め、背筋をぴんとさせて階段を下りた。
 入ってくるアダム・テューダーの左肩のあたりに目をやり、感情のない声でメグに指示する。「ミスター・テューダーのコートをお預かりして。それから、食事は三十分後にお願いね」
 アダム・テューダーのシープスキンのコートの肩には雪が二ひら三ひらついていた。人目につかない正面の扉の横に、彫刻を施したオーク材のコートをかける戸棚がある。そこへメグがコートをしまうのを目で追っていたセリーナは、荒れ模様の天候を口実に使うことにした。
「食事はここでいたしましょう。外に出かけるようなお天気じゃありませんから」言い終わったとたんに後悔した。言いわけだと受け取られるようなことは口にすべきではなかったのだ。
 アダム・テューダーは笑いを含んだ声で応じる。「けっこうですとも。気楽にやりましょう。無理強いして美しいご婦人と二人きりで食事をするようになったら、ぼくもおしまいですけどね」
 ものすごいうぬぼれ屋だわ。二人きりになりたいからここで食事をという意味だと信じこむなんて!
 かっと血が上った顔をそむけ、セリーナは先に立って応接間へ歩き出した。
 応接間の暖炉の火はメグがすでにおこしていた。暗紅色のベルベットのカーテンもぴったり閉じてある。セリーナは冷たい笑みをちらつかせるアダム・テューダーの目をまっすぐ見すえて、きっぱりと言った。
「何か勘違いしていらっしゃいませんか? 私があなたに申し上げるつもりでいることは、人に聞かれないほうがいいのではないかと思ったまでですよ。それに、あなたとどこかに出かけるなんてお断りですもの。お酒はシェリーになさいます?」
 アダム・テューダーの表情が怒りでこわばった。ねらいが当たったのだ。ほんの一瞬、セリーナは優位に立ったという満足感に浸った。
 だが、それは長続きしなかった。アダム・テューダーは脅しつけるように言った。「なるほど、あなたがけんかをお望みなら、そうするしかないな」セリーナは言い知れぬ恐怖感に襲われた。
 たちまちアダム・テューダーはセリーナの横に歩み寄った。怒りもあらわな目がぎらぎら光っている。うろたえたセリーナはくるりと背を向け、ひんやりしたシェリーのびんに手をかけた。その彼女の肩をわしづかみにして、アダム・テューダーはセリーナを自分の方に向き直らせた。
「じゃじゃ馬を手なずける方法はいくつもある」
 セリーナは息もできないほどきつく唇をふさがれた。激しい口づけとともに頭はあおむけにそらされ、体は抱きしめられて身動きもできない。密着したアダム・テューダーの体から熱い欲望が伝わり、セリーナの体の中に広がっていった。生まれてから一度も体験したことのない感覚だった。理性が突然消え、官能がそれに代わる。甘くせつない歓喜に包まれ、セリーナはいつしか自分からキスを返していた。力を失った体はアダム・テューダーの意のままにされている。荒々しかった口づけがいつしか優しいものに変わっていた。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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