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砂漠の小さな王子

砂漠の小さな王子


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・イマージュ
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 オリヴィア・ゲイツ(OLIVIA GATES)
 カイロ在住のエジプト人。作家だけにとどまらず、眼科医、歌手、画家、アクセサリーデザイナーという実にさまざまなキャリアをもち、妻と母親業もこなしている。キャラクター設定やプロットのアドバイスをしてくれる娘と、ストーリーが気に入らなければキーボードの上を歩きまわる辛口批評家のアンゴラ猫の助けを借りながら、情熱的なロマンスを書き続けている。

解説

 ヴィヴがかつて愛したガーリブは、オムラーニア国のシークだった。皇太子であり外科医である彼は、立場と職務を優先し、ヴィヴとの関係をひた隠しにしたばかりか、泣いてすがる彼女を、さよならも言わず捨て去った。思いがけない愛の遺産を彼女に宿して……。ヴィヴは、ガーリブが知るよしもないその贈り物を糧に生きた。そして七年が過ぎたとき、彼女はある固い決意を胸に、ふたたびガーリブのもとを訪れる。今の彼が、すべてを知るに値する男性かどうか見極めるのだ。それまでは隠し続けなければ。彼と私の息子のことを。
 ■ 傲慢だけれど痛いほどの愛情を注ぐヒーローと、身分の違う男性への切ない愛を心に秘めるヒロイン。オリヴィア・ゲイツならではのエキゾチックで情熱的なロマンスの世界を、どうぞご堪能ください。

抄録

「どうして起こしてくれなかったの?」
 するとガーリブはにっこり笑い、ヴィヴの心臓は止まりそうになった。「起こそうとしたが、くすぐっても効きめがなかったんだよ」
「嘘よ。起こさなかったんでしょう?」ヴィヴは責めた。
 ガーリブは肩をすくめて打ち明けた。「起こす気になれなかったんだ。きみには休息が必要だった」
「まあ、本当に? そんな話は初耳だわ」
 彼は悪びれずに笑った。「じゅうぶん休息が取れたようだな」
 そのとおりだった。この嵐のような二日間に願ってやまなかった、八時間もの睡眠を取ったかのように。
「ふだんは五時間しか寝ないの」ヴィヴは認めた。「だから三時間は、ほとんど一日分の睡眠だわ。それに、あなたはふかふかのマットレスみたいに寝心地がよかったから」
 ヴィヴはふいに口を閉ざした。ガーリブの前では、言うつもりのないことまで言ってしまう。最初は家の玄関で、そしてまたしても。彼に、まるで不思議なものでも見ているような目で見られてもしかたがない……。
 だしぬけにガーリブが笑い出した。いかにも男らしい、遠慮のない大笑いで、口が大きく開いている。
 こんなふうに笑う姿を見たのははじめてだった。
 それどころか、笑っているところは見たことがなかった。つきあっていたころは、ひたすら欲望と快楽にふけっていた。気のきいたことを言ったり、ふざけたりするような心境ではなかった。彼をからかうことも、冗談を言いあうこともなかった。彼が何か言うたびに賛成し、一緒にいられるのがどんなに幸せかを伝える以外には、ほとんどしゃべらなかった。ばかなことや場ちがいなことを言ったり、退屈させたり、彼が離れていくようなことをするのが怖かったのだ。いずれにしても離れていったけれど。
 ヴィヴはガーリブが涙を拭うさまを見つめた。「まったく……こんなに笑ったのはいつ以来だろう。ひょっとしたら、はじめてかもしれない」
 彼と一緒にいる限り不整脈は避けられないとあきらめて、ヴィヴはにやりとした。「お役に立ててうれしいわ。たとえ共同外科部長にふさわしくないとしても、宮廷のお抱え道化師に応募できそうね」
 おさまりかけていた笑いがふたたび噴き出して、ガーリブはむせかえった。
 ヴィヴはくるりと目をまわした。「どうやら、私は初日にオムラーニアの皇太子殿下を殺してしまいそうだわ。あなたが幸福のうちに死んだと国民に伝えても、許してもらえないでしょうね」
「ヴィヴ……頼むから……」
 ヴィヴが口をひらきかけたとたん、大きくてやさしい手にふさがれた。唇に当たる彼の肌の感触に、ヴィヴは困惑した。
「まだ死ぬつもりはない……幸福のうちだろうと、そうでなかろうと。とにかく……」ガーリブは息を切らしていた。ヴィヴが彼の手のひらに口づけをしたくなる前に逃れようともがいているのを誤解しているようだ。「もうひと言もしゃべらないでくれ」
 そして彼の手が唇から離れた。ガーリブは車を降りると、手を差し伸べて彼女を降ろした。
 彼と、いまの状況のせいで火照った肌に、ひんやりした風が吹き当たる。ヴィヴは身震いをした。すると、すかさず彼の腕がまわされた。けっして強引ではなかったものの、たくましい体で彼女をしっかりと支える。
 ヴィヴはよろめいて、驚くほどやわらかいジャケットごしに彼の腕をつかんだ。
 この快活さは彼の新たな面なの? 人はユーモアのセンスを学ぶことができるのかしら? それとも昔からそうだったのに、私が恋に夢中で気づかなかっただけ? あるいは、私にはわざわざそんな面を見せるまでもないと思っていたの?
 ヴィヴは怒りがこみあげてくるのを待った。だが、こみあげてはこなかった。それどころか、不思議と心が軽くなるのを感じた。理由はどうであれ、ガーリブの言うとおりだ。過去をほじくりかえしても意味はない。すでに過ぎ去ったことなのだから。大事なのは現在だ。思い描いていたよりもはるかにすばらしい現在。
 こうして二人で笑う日が来るとは夢にも思わなかった。低血糖症であれ、時差ぼけであれ、いや、みずからの弱さかもしれないし、彼独自のマインドコントロールかもしれない。だが先入観を捨てて、いまこの瞬間を楽しむという思いがけない贈り物を受けとってもかまわないような気がしてきた。
 だが、楽しいやりとりで過去の苦しみや怒りを追い払えても、二人は互いに見つめあったまま、これからどうするべきか決められずにいた。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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