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冷徹侯爵の不器用な求愛

冷徹侯爵の不器用な求愛


発行: ヴァニラ文庫
シリーズ: ヴァニラ文庫
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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解説

私の頭の中はきみのことでいっぱいだ

人間不信の美形侯爵×天涯孤独の元伯爵令嬢
甘い愛に溺れて…

天涯孤独になってしまった元令嬢のコーネリアスは、侯爵であるヴィクトルが大切にしている犬を助けたことで、彼の屋敷で暮らすことに。「きみの全てに溺れている」冷酷と評されるヴィクトルだったが甘く口づけながら一途な想いをぶつけてくる。互いの孤独を埋めるように惹かれ合うが、コーネリアスには想いに応えられない理由があって……。
※こちらの作品にはイラストが収録されています。
 尚、イラストは紙書籍と電子版で異なる場合がございます。ご了承ください。

抄録

「……なんでしょう?」
「昨夜、晩餐に出なかったことを咎められ、私が優先した客人を連れてくるようにという話になった。今夜、招待したいと」
だから言ったのに、とコーネリアスは思った。
おっくうな晩餐をさぼる口実になんかするから。
「昨日、ご辞退申し上げました。だいいち……」
「ドレスのことを気にしているなら、心配ない」
「この格好で出席しろとおっしゃるのですか」
「いや、それはさすがに……。だが、ドレスなら友人がきみに提供したいと。そうまでして、どうしても会って話がしてみたいというんだ。母も会いたがっている。いや、一度顔は合わせているな、母とは」
「その必要はございません。侯爵様が奥様とご友人を優先すればいいだけのことです。今夜はぜひ、そうなさってください。わたしは喪に服している身ですので、晩餐にそぐわないと思いますし」
「それが理由なら却下だな。母もあのとおりだ。二年経ってもまだ黒い服を着ている。まあ、私へのあてつけもあるのだが……きみならきっと、同じ悲しみを分かち合えるだろう。そうでなければ、やはり今夜も私はきみと食事をしたいから、あちらを蹴ってこの部屋に来る」
「そんな……!」
──なんて強引なの?
とはいえ、弱い立場だ。
コーネリアスはむげに断ることもできず、非難を込めて侯爵を見つめた。彼のほうも見返したが、意外にもその黒い瞳には傲慢さはかけらも見つけられなかった。
「どうしてそんな意地悪をおっしゃるのですか?」
「きみが心配なんだ」
と、彼は言った。
「まるで死に神とデートの約束をしているみたいだからだ」
それはひどい言いようだ。それほどコーネリアスが陰気くさく、不吉な雰囲気をまとっていたということだろう。しかし、侯爵は攻撃的な物言いではなく、むしろ逆にいたわるような調子で言葉を繋いだ。
「きみは出会った時からそうだった。テッドを見る時だけは、かろうじて顔が明るくなるが、それ以外はずっと闇を見つめているかのようで。目の前に川があれば、飛び込んでしまうのではないかと思わせるし、今朝も、実のところはきみがどうなっているか不安だった。鏡台の前で髪を梳いているのを見てどんなに安堵したか、きみにはわからないだろうが」
彼がそこまで考えているとは知らなかった。
コーネリアスはまじまじと、その切れ長の目を見上げた。
「全く、おっしゃるとおりなんですわ」
彼女は素直に認めた。だが、それだけではすまなかった。
「わたしは父を埋葬してから半年の間というものの、毎日長い時間、墓の前にいました」
そんな話をするつもりではなかったのだ。だが、コーネリアスは突然、自分の思いを吐露したい衝動にかられ、抑えることができなくなってしまった。
「ふだんはこらえていますけど、あの日は雨に誘われたのか、どうしても涙が止まらなくて、誰もいない家に帰る気がしなくて。そして、『お父様がわたしを守っていてくださるなら、その証拠を見せてください』とお願いしたんです」
へえ、と侯爵は興味深げに相づちを打っていたが、次第に真顔になっていった。彼は呆れているに違いない、もうやめなくちゃと思いつつも、コーネリアスは止められなかった。
「……その時、テッドが現れなかったら、雨に打たれ、冷え切って死んでいたかもしれません。いっそそれでもよかったんです。誰も悲しむ人はいません。……こんなわたしですので、どうかそっとしておいてくださいませんか?」
ふ、と小さく息を呑む音がした。
「なんと不敬な──」
神を信じないはずの彼の口からそんな言葉が出ることに驚いた。
侯爵は絞り出すようにそう言った後、突然コーネリアスの肩を掴んだ。殴られるかと思い、身をすくめた。死を望むような暴言を吐いた彼女に対して、彼が与えたのは罰でも暴力でもなく、静かな抱擁だった。
「大馬鹿者!生きなくてはだめだ。……きっときみの父上が聞いたらこう言うだろう」
感情を吐露したせいか、気持ちが高ぶって涙が溢れてきた。
彼は小さな子どもをあやすようにコーネリアスを抱きしめ、背中を撫でてくれた。
それに誘われるように、彼女は泣き続け、侯爵は涙が涸れるまでずっと待っているという姿勢でいた。不思議なことに、泣くことでやり場のない悲しみが少しずつ昇華されていくのだった。
トン、トン、と背を叩く手が止まった。
「どうだ、泣いたら腹が減っただろう?お菓子を食べるかい、ル・ベベ《赤ちゃん》?」
そう言って、彼はブリーチズのポケットに手を入れた。
ゴソゴソと取り出して彼が言う。
「手を出してごらん」
コーネリアスは言われたとおりにした。手のひらに置かれたものは、菓子でも果物でもなく、ひやりとした硬いものだった。
「これは……?」
「寝室の鍵だ。きみが『お父様』にいつでも会えるよう、これを渡しておく。ただし、昼間だけにしたほうがいい。私が勘違いするから」
その意味がわかるまでに少し時間がかかった。
「勘違い……」
そして、コーネリアスは顔を赤らめた。
「そんな、でも、そこまでしていただくなんて」
「私はこれでも昼間はけっこう忙しいんだ。長年たまっていた小裁判も片づけなくてはならないし、書類の返事も書かなくてはならない。だが、くれぐれも『お父様』との面会の後にはしっかりと鍵を掛けておいてくれ」
そんな大事なものを預かっていいのだろうか。
しかし、テッドにいつでも会えるというのはなんという嬉しいことだろうか。
「どうだ、甘いお菓子だろう?」
侯爵が鍵を菓子に例えた意味がわかって、コーネリアスは深く頷いた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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