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精霊の花嫁

精霊の花嫁


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫ヒストリカル
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 マーゴ・マグワイア(Margo Maguire)
 どこへ行くにも本が手元にないと落ち着かないという。たとえば、二十キロ以上もあるバックパックを背負ってカナディアン・ロッキーを周遊するときも、出発前に入念に持っていく本を選ぶ。お気に入りはスタインベックやディケンズの小説だが、もちろんロマンス小説も欠かせない。看護婦として、またボランティア・ワーカーとして精力的に活動してきたが、現在は小説を書く仕事に没頭できて幸せだと語る。作家を目指したきっかけはヨーロッパ旅行で多くの史跡を見て回ったこと。これを機に歴史への視点が開け、歴史の学位を取るために大学に戻った。講義を聴くうちに小説よりも奇なる史実がたくさんあることを知り、ますます執筆熱が高まったという。米デトロイト近郊に、夫と三人の子どもたちと一緒に住んでいる。

解説

 氏族の象徴である槍を守るために故郷を離れ、イングランドで過酷な旅を続けている族長の娘キーリンはまたもや敵が迫ってくる予知夢を見た。もうこの小屋も安全ではないと思った矢先、ケルト人に襲われたという伯爵が瀕死の怪我人を伴って現れる。高貴で美しい彼の姿を見て、キーリンは一瞬で恋に落ちた。でも、私の使命は聖なる槍を守ること。普通の幸せなど望んではいけない。たとえ伯爵の瞳の中に、情熱の炎が燃えさかっていても。

抄録

 だめだ。そんなことを考えるのはよそう。きょうはさんざんつらい思いをしたのだから。
 片手で顔を拭って目を上げると、キーリンが地面に毛布を広げ、その上にちょこんと正座して櫛を取りだし、長い黒髪をとかしはじめるのが見えた。
 気が滅入ることは考えたくないので、マーカスは固い櫛の歯がキーリンの頭を撫でて、ぱちぱち音をたてながら絹のような黒髪を滑り下りていくのを眺めた。見ているうちに、彼女の髪に肌をくすぐられる感触を想像した。すると、ぞくぞくする興奮に体が反応して、こわばってきた。彼女は長袖の下着を着て、地味なショールをはおって体の線をすっかり隠しているのに、マーカスにとってはなにも身につけていないも同然だった。
 彼はみだらな想像をしている自分に愕然とし、咳払いをしてのどを楽にすると、目をそむけた。キーリン・オシェーにみだらな欲望を抱いたりせずに、これからの計画を立てよう。
 二日後にレクストンに戻ったら、アダムは遠縁のイゾルダ・クールや城のほかの女たちに看病させよう。そうすれば、ほどなく回復するだろう。チェスター主教が父エルドレッドの追悼ミサを行って、初代ド・グランはレクストンの霊廟で安らかに眠ることになる。父は遠い親戚筋のエドムンド・サンドボーンの爵位を受け継いで、レクストン伯爵になったのだった。
 そして、毎日の生活は続く。もうじき冬が訪れる。
「伯爵」キーリンのやさしい声が沈黙を破った。
 マーカスが振り返ると、キーリンは髪をとかしおえ、のどの包帯をはずそうとしていた。
「結び目がきついんです」キーリンはそう言い、立ちあがってマーカスに歩み寄った。「こすれて痛いの。はずしたいのだけれど、手伝ってもらえないかしら」
 マーカスはうなずくだけでなく、行動すべきだと気がついて椅子から立ちあがったが、キーリンのすぐそばに行くと思うと声が出なかった。彼女ののどの包帯に手を近づけただけで、やけどで水ぶくれができたように両手がひりひりした。
「糸が解けて」マーカスがようやくキーリンに触れると、彼女がやさしい声で言った。「からまったのではないかしら」
 キーリンは女性にしては背が高く、頭のてっぺんがマーカスの鼻ぐらいの高さなので、かがまなくてもよかった。彼は包帯の結び目に神経を集中させた。キーリンののどがかすかに震えている。彼は手を動かすのをやめてキーリンの顔を見た。目に美しい涙がひと粒光っている。
 キーリンは顔をそむけて涙を見せまいとしたが、マーカスは彼女の顔を両手で包み込んで動かないようにした。彼女が自分と同じくらい傷つきやすいのだと知って、マーカスは胸がいっぱいになった。彼はこぼれた涙を親指でふいてから、キーリンの顔に顔を近づけ、これまで何百人もの女性に口づけしてきた経験豊富な男のように唇を近づけた。
 ふたりの唇が最初はためらうように触れ合った。マーカスはやさしくキスをしてから、わずかに身を引いて唇を離した。それから、もう一度唇を重ねて熱烈なキスをした。唇が触れ合っただけでこんなにも体が熱くなり興奮するとは。マーカスはうっとりした。
 それでも、唇が触れ合っただけでは終わらなかった。キーリンはのどの奥から声をもらし、両手をマーカスの胸に滑らせたかと思うと、腕を彼の首にまわして、うなじの長い髪のなかに滑り込ませた。マーカスは興奮の渦にのまれながら腕を彼女の体にまわして抱き寄せた。胸と胸が合わさったとたん、彼女の激しい鼓動が伝わってきた。
 マーカスの全身の筋肉がこわばった。骨という骨が燃えて灰になったような気がした。ふたりとも服を着ていなければよかったのに。そうすれば、彼女の温かくやわらかな体が脈打つのをこの肌で感じることができたはずだ。いつまでもこうして彼女の体を味わい、さらに先の段階まで進むことができる。彼女はぼくの血のなかで暴れまわり、体を熱くし、魂を焼き尽くす熱のようだ。いままでこんなことは――。マーカスはふいに唇を離した。頭がどうかしている! アダムがけがをして寝ているというのに。父のエルドレッドも……。
 キーリン。
 彼女は困惑して、マーカスの目をのぞき込んでいる。ふたりはしばらくのあいだ黙っていたが、やがて同時に話しはじめた。
「すまなかった」
「伯爵、わたし……」
 それからまたティアナンの軽いいびきだけが室内に響いた。
「どうして泣くんだ?」マーカスは落ち着きを取り戻してたずねた。
 キーリンは震えながら顔をそむけ、なにげない口調で答えた。「なんでもないの。きょうがひどい日だったせいよ」
 彼女のまなざしはまだ傷ついている。それだけではない。戸惑っているのか? 激しい口づけをしたせいで、マーカス自身も戸惑っていた。なにもかも忘れて、酔いしれてしまった。
 キーリンのしみひとつない肌が赤く染まっている。その目からはどうしようもない寂しさが消え、眉間にしわが寄っていた。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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