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カムフラージュ

カムフラージュ


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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著者プロフィール

 リンダ・ハワード(Linda Howard)
 数々の受賞歴を誇る、世界中で大人気の作家。栄えあるNYタイムズやUSAトゥデイのベストセラーリストにもしばしば顔を出す。読むにしろ書くにしろ、本は彼女の人生において重要な役割を果たしているという。読み始めはマーガレット・ミッチェルの作品。それ以後、広く読書に熱中するようになった。少女のころから書くことが好きだったリンダの作家デビューは三十歳のとき。現在はアメリカの作家大会や授賞式の席に常連の人気作家で、サイン会にもひっぱりだこである。とりわけ、彼女の描くヒーローが魅力的だというファンが多い。現在、生まれ故郷のアラバマ州に夫とともに住んでいる。

解説

わたしがあなたの“カムフラージュ”になる――リンダ・ハワード作の中でも傑作との呼び声高い1作!

ジェイにとってその日は人生最悪の日だった。投資銀行での職を失ったうえに、別れた夫が危篤との連絡を受けたのだ。FBIを名乗る二人に連れられて病院へ駆けつけたジェイは、元夫の変わり果てた姿に愕然とする。爆破事件に巻き込まれて大怪我を負い、全身を包帯で覆われた目の前の男には、かつての面影の片鱗もない。なにかがおかしい――頭のなかで警報が鳴り響いたが、ジェイは確かに彼本人だと証言してしまう。その行為が自らの運命を大きく狂わせるとは夢にも思わずに……。リンダ・ハワードが贈る、珠玉のラブ・サスペンス。

抄録

わからない。おれにはわからない!
「わたしはここよ」なだめるような甘いささやき声。「おびえているのね。わけがわからなくて。でもわたしはここよ。あなたのそばについているわ」
あの声だ。聞き覚えがある。あれは夢のなかの声だ。いや、夢じゃない。もっと深いなにかだ。このはらわた、骨、細胞にしみついた、自分の一部なのだ。なつかしさがこみあげてくる。だがいくら心を集中させてみても、その声には聞きおぼえがないような気がした。妙になじみがうすく、意識のなかではなにとも結びつかない。
「お医者さまが言うには、あなたはひどく混乱しているんじゃないかって」それは泣いているような、ほんの少しかすれた穏やかでやさしい声だった。彼女だ。確かに彼女の声だ。その声が自分に呼びかけ、不可解な息づまるような暗闇から引きあげようとしてくれたという記憶が、ぼんやりと頭に残っている。
彼女は傷の状態を長々と説きはじめた。全身を耳にして彼はその声に聞きいった。少しずつだがわかってくる。おれのことを話しているのだ。おれはけがをした。死んではいない。生き埋めになったのでもない。大きな安堵の波が彼をさらっていった。
ふたたび意識が浮上したときも、彼女はまだそこにいた。目覚めてすぐの恐怖も今回は短かった。前よりいくらか意識が鮮明になり、彼女の声がかすれているのは泣いているからではなく喉がかれているからだということに気づく。
彼女はいつもそこにいてくれた。時間の観念はなく、あるのはただ痛みと暗闇だけだが、やがて暗闇には二種類あることがわかってきた。ひとつは自分のなかにあって、思考を麻痺させるもの。だが、それと戦えないことはない。その暗闇はじわじわとうすらいでいくようだった。しかしもうひとつの暗闇には、明かりがなく、いつまでたっても見えない。彼女がいなければ、今度もパニックに襲われたことだろう。彼女はくりかえし説明してくれた。言葉が徐々にしか理解できないのをちゃんと知っているかのようだった。あなたは失明したのではない。目に包帯がしてあるが、失明とは違う。脚は折れているけど、また歩けるようになる。手はやけどを負ったけど、また使えるようになる。喉の管は呼吸を助けるため。すぐに管がとれて話せるようになるわ。
彼は彼女の話を信じた。だれだかわからないが、信頼していた。
考えようとしても、頭のなかで言葉がぐるぐる回り、ついには意味もなにもかもがなくなってしまう。わからない……わからないことだらけだ。なにもわからない。なぜわかるようにまとめることができないんだ。どうして、意味をなさないのか。だいいち、疲れすぎていて言葉と格闘する力がない。
つぎに目覚めてみると、ようやく頭がはっきりとした。だが、今度は別の混乱状態にあった。言葉そのものはよくわかる。彼女はそこにいる。腕に彼女の手の感触があり、かすれ気味の声が聞こえる。ずっとそばにいてくれたのだろうか。どのくらい?永遠のような気がする。わからないもどかしさに彼はいらだった。
知りたいことが山ほどある。それをたずねられないいらだたしさに、腕が彼女の指の下で引きつった。彼女がいなくなったらいったいどうなるだろう。彼女は身動きのとれないこのからだとつながる、たったひとつの絆、正気とのつながり、暗黒の世界に光明をもたらすひとつの窓だ。そのときふと、知りたいという欲求が彼のなかでふくれあがり、ひとつの言葉になった。W、H、O。だれだ?
唇をゆがめ、彼は声にならない言葉を発した。そう、この言葉だ。知りたいのはこの一語につきる。
ジェイは腫れた唇にそっと指を置いてささやいた。「話そうとしちゃだめよ。そうだ、こうしましょう。アルファベットを唱えるから、あてはまるところにきたら腕をぴくりとさせて。何度でもくりかえすわ。あなたが言いたい言葉がつづれるまで。できる?腕を一回ぴくりとさせるのがイエス、ノーは二回よ」
ジェイは精根つきはてていた。スティーブが目を覚ましてから二日たち、そのほとんどの時間を彼のそばで過ごしていた。声がかれるまで話し、昏睡状態から現実の世界への橋渡しとなる言葉をかけつづけた。スティーブが目覚めるときはそれがわかり、彼のおびえを、なにが起きたのか理解しようとする苦しい努力を感じとった。彼の唇が動いたのはこれがはじめてだった。しかし、ジェイにはもう言いたいことを把握するだけの気力が残っていなかった。アルファベット遊びは意思を疎通させるために思いついた苦肉の策だが、それをこなすだけの集中力が彼にあるかどうか。
スティーブの腕がぴくりと動いた。一回だけ。
ジェイは深呼吸をして疲労を押しやった。「いいわ。じゃ、はじめるわね。A……B……C……D……」
ゆっくりとアルファベットを唱えていく。微動だにしない彼の腕を指先に感じるうちに、ジェイは絶望的になった。もともとむりだったのよ。ルニング少佐も言ってたじゃない。まわりのことをほんとうに理解できるまで、あと何日もかかるって。ところが“W”まできたとき、彼の腕が動いた。
ジェイは中断した。「W?」
スティーブの腕がぴくりとした。イエスという意味の一回。
ジェイの胸に喜びがかけぬけた。「わかったわ。最初の文字はWね。じゃ、つぎよ。A……B……」
スティーブは“H”のところで腕を動かした。
そして“O”のところで。
腕が動いたのはそこまでだった。
ジェイは愕然とした。「WHO?そうなの?わたしがだれだか知りたいの?」


*この続きは製品版でお楽しみください。

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