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愛にとらわれて

愛にとらわれて


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・クラシックス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ダイアナ・ハミルトン(Diana Hamilton)
 イギリスの作家。ロマンチストで、一目で恋に落ち結ばれた夫との間に三人の子供をもうけた。就寝前の子供たちにベッドで読み聞かせるために物語を書きはじめる。ロマンス小説家としてのデビューは1987年、その後数多くの名作を世に送る。2009年5月、ファンや作家仲間に惜しまれつつ亡くなった。

解説

 秘書派遣会社を経営しているセイラのもとに、ある日、いきなりスペイン人男性が押しかけてきた。フランシスコ・ガルシア・カサルス――黒い瞳に鋭い光をたたえた三十代半ばの男。彼は横柄な口調でセイラに父親の居場所を教えるように迫った。なんと彼女の父親がフランシスコのまだ十八歳の妹を誘惑し、どこかへ連れ去ったというのだ。絶対に何かの間違いよ! 父親の居所に心当たりがあったので、セイラはとっさに嘘をついてフランシスコの追及をかわし、翌日スペインのアンダルシア地方に足を運んだ。ところが、ひそかにあとをつけてきたフランシスコの罠にかかり、巨大な城の中にとらわれてしまう。
 ■ 2009年5月多くのファンや作家仲間に惜しまれつつ亡くなった人気作家ダイアナ・ハミルトンの名作をお届けします。

抄録

 ドアはまるで夢を見ているように静かに開いた。階段は石にはめこまれたセンサーつきの電球でぼんやりと照らされている。後ろ手にドアを閉め、セイラは階段を上り、いちばん上の頑丈なドアを開けて、胸壁にかこまれた広い屋上に出た。
 窓を開けていた居間よりも、上の空気はずっと新鮮で涼しい。夜明けの空はかすかに白み始め、思いがけず浮き浮きした気分にしてくれる。
 少なくともここには解放感がある。見せかけかもしれないが、できるかぎりしがみついていたい。不意に経験したことのない生き生きした感情がわき、セイラは新しい一日の始まりが待ちきれなくなった。また腹黒いスペイン人を相手に気力の闘いを始めることができる。私をこんな目にあわせたのだから、少しやり込めてやらなくては。
 元気を取り戻し、瞳を輝かせながら、セイラは屋上をおおう大きな石板の上をすばやく横切り、胸壁に寄りかかった。手に触れる石はざらざらしていて、まだ昨日のぬくもりを残している。彼女はできるかぎり体を乗りだし、暗闇の中に目印の建物を見つけようと目を凝らした。はだしの足音が勢いよく近づくのに気づいたとたん、たくましい腕が回され、激しく波打っている体にくるりと引き寄せられた。
「ばか者《イディオタ》!」彼の力強い腕がセイラをぐいと胸壁から引き離した。薄いナイティごしに、彼の激しい鼓動が伝わってくる。「岩だらけの谷間に身を投げても、解決にならないぞ! ぼくが何も危害を加えないことはわかっているはずだ」彼はかすれ声で言った。片方の手でセイラの頭を支え、誇らしげに上げた肩に引き寄せた。長い指が髪にからめられる。「ぼくはきみと争っているんじゃない。わかっているだろう」
 たくましい筋骨をぴんと包んだオリーブ色の肌のぬくもりに、セイラはひどく心が乱れた。これほどぴったり抱かれていると、感覚が鈍ってくる。内心の緊張のせいで彼の見事な体が震えるのを感じ、セイラはすがりつきたい思いと激しく闘った。これまで知らなかった不思議な興奮がこみ上げ、それに負けてしまいそうだ。
 セイラは必死で首を振り、混乱した頭の端に浮かぶ考えをつかまえようとした。彼はそのしぐさを勘違いして、荒々しく言った。「きみを驚かせたとしたら本当に悪かった。腹立ちまぎれにきみに指一本触れないことを約束しよう。我が家の客でいる間、どんな意味でもきみを傷つけたりしない。ここで休暇をすごすと考えてほしい。いいだろう、サローメ?」
 セイラはもう少しで熱心な願いに降伏するところだった。彼は心から――まったくの勘違いではあったが――心配してくれたのだ。彼女は本当のことを告げ、彼の気づかいに正直に応えそうになった。私はどんなに追いつめられても、身投げするようなつまらない人間じゃないわと答えて安心させたい。だが、あきれるほど派手な名前を呼ばれたせいで、セイラはまた我に返り、自制心を取り戻すことができた。数年前にきっぱりと捨てた名前だが、彼は、あれこれ詮索しているうちに見つけだしたのだろう。これで、彼が都合よく誤解してくれた状況をどんなふうに利用したらいいか、はっきりわかった。
 震えるという点では問題はない。彼に力いっぱい抱き締められ、たくましく温かい体に守られた瞬間から、セイラはショックで体が震えていた。だが、こちらが優勢になり、うまくいけばそれで押し切れるかもしれないという強烈な喜びを隠すのはむずかしかった。それでもセイラは声を弱々しく震わせ、自分でも信じられないような言葉をつぶやいた。
「なぜ止めたの? 私……耐えられないのよ、本当に! ここに閉じ込められるなんて……乱暴な見も知らない人に」巧みにヒステリックな声を出し、弱々しく体を引き離そうとするが、効果はなかった。「あなたは私の父を見つけたらすぐ殺す――自分でそう言ったわ! 私も殺さずにいるってことがあるかしら? そうしなきゃいけないのね? 口止めするために!」声があわれっぽくなる。「我慢できないわ、最悪の事態を待っているなんて。それよりも、何かしたほうがいいわ。なんでも! それに……」こみ上げる感情をごくりと抑え込む。「監禁されているのは耐えられないわ。場所がどこでもいやよ。だれだって頭がおかしくなるわ!」
「ああ《ディオス》!」彼の声は緊張で震えている。彼に自分を卑劣漢と感じさせ、後ろめたく思わせることができた。彼が屋上に出た私の動機を思い違いしたのだと知って以来、これこそ狙っていたことだ!
 彼がどこかにわずかな礼儀正しさを持っていなければ、私のために少しでも心配を感じるはずがない。そう思っても、セイラにはなんの影響も与えなかった。横柄で立派すぎる彼にいくら罪を着せても、まだ足りないくらいだ。セイラはきっぱりと心を決め、彼が真剣に安心させようとしている優しい言葉に耳をふさいだ。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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