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愛を置き去りに

愛を置き去りに


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・クラシックス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★☆☆☆1
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著者プロフィール

 キャサリン・スペンサー(Catherine Spencer)
 三十数年前にイギリスからカナダのバンクーバーに移り住む。英語の教師からロマンス作家に転身。カナダ人の男性と結婚し子供にも恵まれ、現在は孫もいる。あいた時間があれば、ピアノを弾いたり、アンティークショップをのぞいたり、庭の手入れをしたりしている。

解説

 年老いた祖母の身を案じたエミリーは、久しぶりに祖母の住むベルヴォワ邸を訪れた。十一年前の夏、まだ十九歳だった彼女は隣に住むルーカスに恋をし、眠っていた彼のベッドにもぐりこんで、夢うつつの相手と愛しあった。だが当時医学生だったルーカスにはすでに婚約者がいて、彼は、生き方が違うからとエミリーを寝室から追い出した。その後妊娠していることがわかり流産しても、エミリーは誰にも言わず、ひとりで苦しみを乗り越えてきた。ルーカスはアフリカで医師として働いているはず……。彼が最近妻を亡くして隣家に帰っていたとは知らなかった。皮肉にもエミリーが着いた夜にベルヴォワ邸が火事になり、焼け出された祖母とエミリーが隣家の世話になろうとは。ルーカスと同居する――考えただけでエミリーは頭がくらくらした。

抄録

 ルーカスの背中がこわばった。「子どもができなかったから? 作らなかったからじゃないのか?」
「できなかったからよ。嘘じゃないわ」エミリーの顔には嘘も策略もなかった。
「残念だったな」
「ええ、本当に。子どもは好きだもの」
 ルーカスは慰めようとしてエミリーの腕に触れそうになった。「今からでも産めるよ。不妊治療はかなり進歩した。専門医には診てもらったのか?」
 エミリーは目をしばたたき、顔をそむけた。「いいえ。その前に夫を見つけるのが先決よ」明るい口調を装う。
「再婚するつもりなのか?」
「まさか。ただ未婚の母になるつもりもないわ。もう十九歳のときのような勇気はないもの」
 大きな衣装だんすの扉は全面鏡張りになっていて、そこにルーカスの顔が映っていた。怒りがやわらいでいるのがわかる。
「もし子どもを流産しなかったら、ぼくに話してくれたかい?」
 エミリーは首を振った。「あなたはシドニーを愛していたもの。妊娠がわかった時点で、すでにあなたたちの式の日取りは決まっていたし。わたしを部屋から追いだしたとき、あなたはわたしたちに未来を共有する可能性はないと言ったでしょう。それが本心だってわかったのよ」
「誰かに話したのか?」
「誰にも。両親を失望させるのはいやだったし」
「ひとりで悩みつづけたのか? 友人にも打ち明けずに?」
 エミリーはまた首を振った。今にも感情が爆発しそうで、ルーカスの顔を見ることができない。「友達には無縁の世界だもの。みんな、ファッションやデートや、大学、旅行、それに車のことしか頭になかった。突然、わたしは彼女たちの仲間じゃなくなったのよ。まったく違う悩みを抱えて、孤独だった……」エミリーは肩をすくめた。「急に年をとった気がしたわ。知恵も分別もない、ほんの子どもだったのに。でも突然、問題は消えてなくなった。すべて終わり。病院の救急室にいたのはわたしと当直医だけだった」
「流産だと言ったね。その……何かしたのか?」
 エミリーはあっけにとられた顔でルーカスを見つめ返した。「しないわよ! 不幸のどん底で混乱していても、赤ん坊がいらないと思ったことはなかったわ。あなたがわたしに残してくれた唯一のものだから」
 ルーカスは顔をそむけた。「やめてくれ」
「何を?」
「まるでぼくたちが恋人同士で、ぼくがきみを裏切ったみたいな言い方じゃないか」
「あなたは聞きたくないでしょうけど、わたしはずっとあなたを愛していたのよ。それも結婚に失敗した理由のひとつよね。本当の意味で、最初から夫に忠実じゃなかったというわけよ」
「違う」ルーカスは怒りに顔をこわばらせて振り向いた。「そうじゃない!」
 エミリーは一歩前に踏みだした。「真実を知るのがどうして怖いの? あなたはそんな臆病じゃなかったはずよ」
「真実なんかじゃない。きみの幻想だ」
「そう思っているのなら怒ることはないでしょう」エミリーはさらに近づき、ルーカスの顎に手をあてた。「あなたは隠遁生活を送るより、人生と向きあって生きるのが好きだった。どうしたっていうの? どうして無関心を装っているの?」
 ルーカスは、まるで不快な虫でもつかむようにエミリーの手を親指と人差し指でつまんで引きはがした。「ぼくはもう昔のぼくではない。それに初めからきみが思っているような男でもない」
 なぜそんな行動に出たのだろう。自分でもわからなかった。ルーカスのなかに悲しみを見たせいかもしれない。それとも彼に触れられたせいで、昔の魔法がよみがえったのかもしれない。とにかく、エミリーはルーカスの手首の内側、ちょうど脈を打っている部分にキスをした。
「あなたは優しくて勇敢で、わたしの望むすべてだった。今もそれは変わっていないわ」
 石油缶にマッチをほうりこむより早く火がついた。血が荒々しく騒ぎ、あまりの苦痛にルーカスはうめき声をもらした。
 エミリーを抱きしめ、唇を重ねる。だが昔の再現ではなかった。もはや子どもではない、大人の女性になったエミリーには、彼が苦しんでいるのがわかった。
 彼のキスは絶望から生まれたものだったが、それでも心を癒してくれる女性の感触に飢えていた。ルーカスは二人の出会いに終止符を打ちたいと思いながらも、むさぼるように彼女の唇を求めた。
 エミリーの背中に手を這わせ、ぴたりと抱き寄せる。
 何もかもが一気に押し寄せてきた。荒れ狂う欲望、激しい情熱、甘美な恋心は、長い休眠のあとでも少しも衰えていなかった。エミリーは、古い傷や絶望の世界から、新しい始まりとすばらしい結末が待ち受ける世界へ入っていくのを感じた。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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