マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ロマンス

思い出のなかの結婚

思い出のなかの結婚


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆1
◆レビューを書く

¥0サンプル
購入する


著者プロフィール

 キャサリン・スペンサー(Catherine Spencer)
 三十数年前にイギリスからカナダのバンクーバーに移り住む。英語の教師からロマンス作家に転身。カナダ人の男性と結婚し子供にも恵まれ、現在は孫もいる。あいた時間があれば、ピアノを弾いたり、アンティークショップをのぞいたり、庭の手入れをしたりしている。

解説

 メイブはローマ郊外の病院で目を覚ました――事故で怪我を負い、一カ月も昏睡状態が続いたあとに。意識は戻ったものの、彼女は記憶喪失に陥っていた。退院するメイブを出迎えたのは、夫だというダリオ・コスタンツォ。世界的な大企業の副社長で、とびきりハンサムなイタリア人男性だというのに、彼と結婚していたことをまったく思い出すことができない。病みあがりのメイブはダリオに連れられ、プライベートジェット機で静養先の小さな島に飛んだ。何もかもが謎だらけの暮らしが始まるとも知らずに。

抄録

 ダリオが身じろぎもせずに探るように自分を見つめるので、メイブはいたたまれなくなり、居心地のよい自室に引き返したくなった。彼女の部屋は記憶を失った女主人の神経をなだめるように淡い緑色とクリーム色で統一されていた。豪華な浴室にはスチームシャワーと深い浴槽がついている。寝室の隣の居間からは専用プールのある庭園と海が見渡せた。
 静けさのオアシスね。そう思ったが、そこにいても知りたいことへの答えも休息も得られなかった。この屋敷に足を踏み入れたときから、メイブは荒涼とした思いに包まれていた。言い知れぬ喪失感があった。
 何か恐ろしいことがここで起きたのだ。この風光明媚な海辺のヴィラは暗く恐ろしい秘密を抱えている。完璧な結婚を破綻させるいまわしい悲劇。それはいくら記憶を失おうと、メイブにずっとつきまとった。だから、その秘密を掘り起こすのだ。
「お酒を勧めてくれないの?」メイブは思いきって言ったが、まともに息ができないくらい鼓動が激しかった。珍しいことではない。彼女は人生の大半をパニックを抑えながら暮らし、そんなときに平静を装う術はずいぶん前から身につけていた。
「酒を飲みたいと言ってるなら、それがいいことかどうか」ダリオは答えた。
「どうして? 私が手に負えない酒乱だとでも?」
 ダリオは思わず吹き出した。無邪気な低い笑い声が、彼女の神経を心地よく撫でた。「まさか」
「ああ、よかった。一瞬、自分がビール一杯でテーブルの上で踊るような女なのかと思ったわ」
「きみはシャンパンが好きだし、それにしたってグラスにほんの一、二杯だ。テーブルの上で踊るのは見たこともない」
「では、なぜ私が陽気になるのがいやなの?」
「薬とアルコールを一緒にとるのはよくない」
「薬はもう二週間前からのんでいないわ」
「そうか」ダリオは顎をさっと撫でた。「では、こうしよう。僕と一緒に夕食をとってくれたら、きみのお気に入りの年代物のワインを開けよう」
 彼女は少しもったいをつけ、考えるふりをした。「そうね、確かにおなかがすいていなくもないわ」
「よし。料理をひとり分追加するように料理人に言ってくるから、ちょっと待っててくれ」
「いいわ」彼の姿が消えると、メイブは二つ並んだ青と白のストライプの日光浴用のソファに崩れるように腰を下ろした。部屋を出る際の彼の笑顔にメイブの膝は力が抜けていた。
 目の前に広がる光景に、メイブは息をのんだ。無限大の記号を思わせる大きな楕円形のプールは、まるで崖にぶらさがっているようだ。もちろん、それは富と名声を持つ者だけが手に入れられる高度な技術によってもたらされる幻覚だ。その光景を縁取る豊かなブーゲンビリアだけが、自然の創造物だった。
 ほどなくしてダリオはチューリップ形の細長いグラスと、シャンパンの入った銀のアイスペールを手に戻ってきた。彼はグラスにシャンパンをついで彼女の傍らに腰を下ろし、グラスの縁を彼女のグラスに当てた。「乾杯《サリュート》!」
「サリュート! それに、ありがとう」
「ありがとうって?」
「私が入院してからずっとお世話になったことへのお礼よ。病院に毎日花束を贈り、入院代を全部払ったのはあなただと病院で聞いたわ」
「当たり前だろう、メイブ。僕はきみの夫なんだ」
「ええ……それは……」
「心配いらないよ、いとしい人《カーラ》。夫の権利を要求するために言ったわけじゃない」
「そんな」メイブはこみあげてきた大きな失望をシャンパンとともにのみくだした。「こんな姿だもの、ありえないわ」
 ダリオは彼女を見すえた。「どういうことだ?」
「私はあなたとの結婚生活を思い出せないでいるけれど、視力を失ったわけじゃない。自分が案山子みたいだということは知っているわ」
「生死の境をさまようほどの事故に遭い、まだ治療中なんだ。前と同じ姿のはずがないだろう」
「それにしたって髪がこんなでは……」メイブはかつては豊かだった髪の名残を、まるでそうすれば少しでも伸びるとでもいうように引っ張った。
 ダリオはメイブに近づいて彼女の手をつかんで下ろした。かさぶたをとろうとする子供をたしなめるようなその行為に、メイブの下腹部に電流が走った。彼女は無垢な乙女のように取り澄ました顔をして、思わず膝をきつく合わせた。
 幸い、ダリオは彼女の心を読み取れなかったらしく、つかんだときと同じくらいすばやく手を放した。
「きみは美しい髪をしているよ。まるで日差しを浴びたサテンのようだ」
「短すぎるわ」
「僕はショートヘアが好きなんだ。きみのきれいな顔が際立つからね」
 彼の口調はトリミングした直後のプードルを評するドッグショーの審査員のようだった。だが、その賛辞はメイブの望んだ以上のものだった。入浴後、彼女は衣装室に並んだ衣服の中から、自分を引き立てる服を探したが、選べるものはごくわずかだった。

*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。