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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ヒストリカル

ひそやかな誓い

ひそやかな誓い


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ゲイル・ウィルソン(Gayle Wilson)
 あのリンダ・ハワードをして“絶妙な会話のセンスといい、個性豊かな人物設定といい、読者をストーリーに引き込むすべを心得ている”と絶賛せしめた実力派。作家になる前は高校で英語と世界史を教えていた。ロマンティック・サスペンスと、十九世紀初頭の摂政期を舞台にした歴史ロマンスを書き分けながら、北米ではこれまで二十作以上の作品をハーレクインから刊行。ロマンス小説界の由緒あるRITA賞を二度も受賞したほか、数々の賞を獲得している。すでに独立した一人息子も教師となり、現在は夫と増え続ける犬や猫とともにアラバマ州に暮らす。ミニシリーズ『孤高の鷲』は元CIAエージェントのヒーローたちの孤独な闘いと真実の愛にたどりつくさまを描いた連作で、北米で大好評を博し、続編が次々と刊行されている。

解説

 ★朽ちかけた礼拝堂の中、メアリーはニックの指から滴る血で署名した。★
 「わが魂より大事な人」そう言い残して彼は戦場へと発った。メアリーは牧師の娘、ニックはかのヴェイル公爵の息子。ほんの一瞬でも彼が結婚を望み、たとえ正式でなくとも書類に署名してくれただけでメアリーは幸せだった――。その一度だけの逢瀬で新たな生命が宿るまでは。いや、その子のおかげで、この七年を生きてきたのだと言える。あのあと無事帰還したニックからは、なんの連絡もない。家庭教師として付き添うことを条件に息子リチャードをトレーウィック家に養子に出したのも、選択の余地がなかったからだ。しかしトレーウィックの妻の死後、平穏な日々は一変した。メアリーは結婚を迫られたばかりか、彼に寝込みを襲われた。そして捨て身の反撃に出た結果、裁判沙汰になったのだ。法廷に立つ彼女を救ったのは、公爵の称号を継いだニックだった。彼は古い書類を手にメアリーを指してこう呼んだ――”公爵夫人”と。

抄録

「火曜日まで戻らないわ」メアリーはそう言いながら、やさしい、病弱な父のことを急に思い浮かべた。神の恵みを多く受けつつ、それに応えることができなくても、叱ったりせずにやさしく接する父。メアリーはようやく自分たちの行為の重大さに気づいた。
「さあ、行こう」ニックは身軽に立ちあがると、メアリーを引っぱり起こした。
 立ちあがったメアリーはこのときはじめて、肌を出した自分たちの姿を恥ずかしく思った。彼女はそのまま突っ立っていたが、ニックはまたたく間に自分の服装を直した。そしてシャツの最後のボタンを手早く留めながら振り返ったが、メアリーの顔に浮かんだ表情を見たとたん、その手を止めた。
「もう行かないと」ニックは彼女の気持ちを思いやるように言った。「戻らなければ脱走兵だ。そうなったらヴェイル公爵の息子といえども、容赦なく罰せられることになる。メアリー、ぼくの連隊はこれから戦場へ向かうんだ。ぼくも行かないわけにはいかないよ。すでに再任官されてしまっているんだ」
「わかっているわ」メアリーはささやいた。どうしてそんなことを説明するのだろう? ニックがどうしても行くことになるのは、彼女も前からわかっていた。だからこそ……。
「メアリー?」ニックが声をかける。
 もうこんなふうにして、ニックに会うことはないんだわ。突然そんな考えが浮かび、メアリーはその強い予感に一瞬息が止まった。彼女は思う存分ニックの姿を見ておこうと思った。目の前に立つ彼は若く力強く、とても美しかった。そして、生気に満ちあふれている。いまの抱擁で、メアリーがかき乱した彼の髪。日焼けした彼の肌。温かく甘美で、舌先で触れたら塩辛い味がした。
 メアリーは目を閉じて、ニックの姿を脳裏に焼きつけた。一生、消えないように。ニック。ほんのつかの間、彼はメアリーだけのものになった。これからの暗黒の日々、その思い出を大切に守っていこう。
「メアリー?」いぶかしげにニックが呼んだ。
 メアリーは目を開き、無理をして笑ってみせた。ニックがふたりのあいだの距離を縮めた。彼はやさしいしぐさでシュミーズを着せ、さらにメアリーの手をドレスの袖にも通させた。複雑な女性のドレスを扱うその手つきは、じつに慣れたものだ。これまでにいったい、何人の女性たちと……。メアリーはふと思った。だが、もういまは関係ない。どんな女性たちがいたとしても、それは過去のことなのだから。わたしたちにあるのはいまだけだ。
 流行のドレスをまとった磁器製の人形のように、あるいは子供のように、メアリーはじっと立ったまま、ニックに服を着せてもらった。さらに彼は親指で涙をぬぐってくれた。そうされてメアリーははじめて、自分が泣いていることに気づいた。彼女はニックの手をとらえると、その温かなてのひらに濡れた頬を押しつけた。
「傷つけるつもりはなかったんだ」ニックは謝った。彼のてのひらのなかでメアリーがほほえむのが感じられた。
「わかっているわ」彼女はささやいた。
「痛むのか?」
「いいえ」メアリーは顔をあげて、ニックを安心させた。彼は心配そうな表情で、黄金色の眉のあいだにしわを寄せている。「痛くないわ」それは嘘だったが、これ以上の重荷をニックに負わせたくなかった。彼はメアリーが聞いたこともない名の戦場へ、罪悪感を抱えて赴くのだから。
「もう、行かないと」ニックがせき立てる。
「わかっているわ」
 だが、ニックはメアリーを連れて、おとなしくついてくる馬を引きながら表の道へ出ると、痛い思いをさせないように気をつけて彼女を愛馬コメットに乗せ、思いもかけない場所へと向かった。
 着いたのは石造りの修道院の礼拝堂だった。そこは夕闇にまぎれて、道からはほとんど見えなかった。このあたりは公爵領のなかでもとくに古い牧師禄で、ニックの祖父である先代の公爵が、村の近くに新しい教会を建ててからは、めったに使われなくなっていた。祖父が教会を建てたのは、数多く犯した罪に対する懺悔のしるしだという噂もある。いまやこの小さな礼拝堂に集うのは、何世紀ものあいだにわたって、ここで祈りを捧げた者たちの亡霊だけだった。
 ニックはメアリーをコメットの背中からおろすと、手を引いて木の扉のほうへ連れていった。そのあいだ、彼女はなにもきかずに黙っていた。ニックが扉を押し開くと、大きくきしむ音がした。なかは黄昏どきの外よりも暗く、ふたりとも目が慣れるまで、その場で待たなくてはならなかった。
 祭壇の後ろには細長いステンドグラスの窓がひとつあり、宝石のようなガラスから薄明かりがさし込んでいた。そのおかげで、暗がりのなかに隠れていた飾りけのない石造りの祭壇が、ようやく見えてきた。静寂のなかで、ほのかな香のにおいが漂っている。ニックはメアリーの手を取ると、祭壇のほうへと向かった。彼女はそこで突然、ニックの意図を察し、立ち止まってその手を振りほどこうとした。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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